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元アラサー女子はスライムとして生きて行く(仮)   作者: おんじゃく
第三章~王都~

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71 欲しいもの

 夕暮れ時。

 柔らかなランプの灯の中で、夕食のメイン料理である煮込みハンバーグを口に運びながら明日の事を考える。


 明日は週に一度の休日なのでソラと2人で貴族街に出掛ける。王都での暮らしにも大分馴れてきたので、改めて必要な家財や雑貨等の日用品を買いに行くためだ。

 そしてそれとは別に、私にはもうひとつ目的があった。


「ソラ、リスト出来た?」


 私の問いかけに、ソラは付け合わせのジャガイモ(ポム)のバターソテーを咀嚼しながら頷き、小さく折り畳まれた紙片を差し出してきた。


 リストとは買い物リストのことだ。


 おそらくソラは生まれてから1度も、自ら何かを望んだことがない。例えあったとしても奴隷だったソラにはそれを口にすることは許されなかったはずだ。

 そんなソラに何か欲しい物はあるかと聞いても「ない」と答えると思った私は、予め生活している中で『あったらいいな』と思った物をメモに残すように言っておいたのだ。


 幼い頃から奴隷として生きてきたソラにとって、自ら選択するという事は難しく、またストレスになる行為でもある。

 だがこの方法ならソラの心に余計な負担をかけずに、ソラが必要としている物を知る事ができる。


 そう。もうひとつの目的とは、ソラが自分で選択したものを購入するということだ。


 時間はかかるだろうが、こうやってゆっくりと自分で選択する力を身に付けていって欲しい。そしてそれが許されるのだということを知ってもらいたい。


 買い物リストはその第一歩でもあるのだ。


 手渡された紙に視線を落とす。

 今まで何も望んだことがない、否、望むことすら許されなかったソラが、初めて自ら欲しいと願った物だ。少々高くても買ってあげたい。


 何が書いてあるだろうとドキドキしながらそっと紙を開いた。



 ・わら

 ・かわ

 ・つぼ



 ――――――――ナニ、コレ。



 “わら”? 藁? 藁!?

 “かわ”? 革? 皮じゃないよね!?

 “つぼ”? 壺? え? なんで?



 ――――――え? ナニコレドユコト!?



 ソラは藁と革と壺が欲しいのか?

 一体何に使うつもりだ?


 意味が分からん&ぶっちゃけちょっと怖い。


 …………ええっと。

 うん、よし、一個ずつ慎重に確認していこう。まずは1番安全(?)な所から攻めていこうか。


「“わら”って……“藁”? あの馬小屋に敷いてるやつ?」


 私の問いにソラはこくりと頷いた。

 衝撃。


「……………………ソラは敷き藁が欲しいの?」


 敷き藁って事は……自分の部屋に敷くのか?


 敷き藁が敷かれた部屋で生活するソラを想像してみた。………………変なの。


「いや? 別に欲しくねぇけど」

「はぁ?」

「厩舎の掃除をしている時に『あったらいいな』と思ったから書いただけだ。『あったらいいな』と思った物を書くんだろ」


 それ、とソラは私が持っている買い物リストを指差し不思議そうに首をかしげた。


「ああ…………ぅん。ソウダネ」


 その通りだ。

 確かに私は生活している中で『あったらいいな』と思った物をメモに残すようにと言った。

 ソラは間違ってない。

 間違ってはいない――――が、まさか仕事中に必要と感じた物を書くとは……。

 なんという変化球。いや、デッドボール。


 だとすると残りの“かわ”と“つぼ”も“わら”と同じく仕事に必要な道具である可能性が高い。

 これはあれだ、ソラが欲しいと思った物ではなく仕事に必要な物のリストだ。


 失敗したなと思いながら改めて買い物リストに視線を落とし、万が一の可能性に賭けて残りの二つについても聞いてみることにした。


「革と壺も仕事で使うの?」

「……ああ」


 おや? 若干返事が遅れたぞ?

 不思議に思いソラを見ると、ほんの少しだが目が泳いだ。


「……革は、武器の直しに使う」

「……ふ~ん?」


 じっと待つこと数秒。ソラが観念したように「ナイフの持ち手が傷んでるから……直したい」と小さく呟いた。


 お、おお! これはいいんでないかい?

 ナイフというのはおそらくあのバナハという盗賊から貰ったナイフのことだろう。言われてみれば確かに持ち手の部分が摩りきれていたような気もする。


 初めて望む物が武器関連だというのは少々複雑だが、自分のために何かを望むことができたのだ。内容に関しては目を瞑ろう。

 それにあのナイフはソラにとって特別な品だ。


「そっか。じゃあ明日、買いに行こうか」

「ああ」

「あ、でも武器の直しなら専門家に頼んだ方がいいんじゃない?」


 職人達が多いのは市民街の北にある区画だが、確か貴族街にも武器を扱っているお店があったはずだ。


「いや、自分でやる。ある程度の直しは自分で出来るようになってた方がいい。――いつも職人に頼めるわけじゃねぇしな」


 ソラの言葉になるほどと頷く。

 騎士の主な仕事は王都の護りだが、王命により地方の町や村に出向く事も多い。場所によっては職人がいない所だってあるはずだ。

 そういった時の為にもある程度の武器の修復は自分で出来るようにしておくのだろう。


 何はともあれ、ひとつはまともな“欲しい物”があって良かった。さすがに最後の“つぼ”はソラが欲しがるとは思えない。

 ただ、壺なんてどんな仕事に使うんだろうというちょっとした好奇心もあるので聞いてみた。


「壺も仕事で使うの?」

「…………お前。最低でも3つは何か書けって言っただろ?」

「うん」

「でも3つも無かった」

「うん」

「そしたらアレックスが良いもんがあるって」

「…………うん」


 なぜだろう、嫌な予感がする。

 というか嫌な予感しかしない。


「“持ってたら幸せになれる壺”らしい」

「ぶっ!」


 アレックスーーーーーー!!!!!!


 あ、あんにゃろう!

 家の子(ソラ)になんつー事を教えるんじゃ!

 っていうか、この世界にもそういった類いの物があるのか!?


「それは止めておいた方が良いと思うヨ!」

「そうなのか? でもアレックスはその壺を手に入れてから調子が良いって言ってたぞ?」


 アレックスーーーーーー!?!?!?


 買ったの!? 買っちゃったの!?

 あの子なにしてんの!?

 

 これは隊長さん達に報告した方が良いのでは!? と変な汗が背中を伝ったその時、ふと我に返った。


 この世界は魔法や魔物が存在するファンタジーな世界だ。そういった魔道具があっても不思議ではないのかもしれない――――とてつもなく胡散臭いが。


「と、とりあえず壺はいらないよね? アレックスに勧められただけで別に欲しい訳じゃないでしょ?」

「………………ああ」


 なにその()

 欲しいの!? 欲しいのか!?


「いやいやいやいや、怪しすぎでしょ!? もう少し調べてから、せめて隊長さん達(みんな)に相談してからにしようよ!」

「壺のことなら隊長が知ってる」

「え、そうなの?」


 じゃあやっぱりこの世界独特のアイテムなのか? いや、まてよ、まさか……。


「た、隊長さんも買っちゃってる~みたいな?」


 恐る恐るした質問に、幸いにもソラは違うと首を横に振って否定した。

 ほっと胸を撫で下ろす私にソラは言った。







「隊長が売ってる」


 隊長ーーーーーー!?!?!?




 翌日。

 朝一(あさいち)で副隊長さんに相談した(チクった)ら、とても良い笑顔で「情報提供に感謝します。あとはこちらで処理(・・)しておきます」と言われた。


 さてと、そろそろ出掛けるか。

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― 新着の感想 ―
[一言] 隊長ーーー!(爆笑) ソラ君に萌え萌えしてたら、腹筋が死にました…
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