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元アラサー女子はスライムとして生きて行く(仮)   作者: おんじゃく
第三章~王都~

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68 華と華印

「華印をポーションに押す……」


 そう呟きながら華印を貰った日の事を思い出した。


 華印とは授与式の時に貰った魔道具の事だ。


 高さ10センチ程の透明な魔石から出来ていて、底の部分に“華”と呼ばれる模様が刻まれている。

 クリスタルで作られたチェスの駒のような見た目だと言えば分かりやすいだろうか。


 底面に刻まれた“華”とは、真円の中に簡略化された花のイラストが入った、この国の医師が使う日本の家紋に似た紋章のことで、錬金術のスキルを持つ者は見習いも含めそれぞれ異なる花の“華”を持っている。

 今朝、迎えに来てくれた馬車がトビー君の物だと分かったのはこの“華”の模様があったからだ。


 “華”は家紋としても用いられるので、華印は用途的にシーリングスタンプ――海外の映画などでたまに見かける、手紙に封をする為に赤い蝋を垂らして紋章を押す時に使用されるスタンプ――に近いかもしれない。

 ただし、押印するのは手紙にではなくポーションにだが。


 しかしここで新たな疑問が湧く。

 それはどうやってポーションに押印するかということだ。

 ポーション瓶はガラス瓶のようにつるつるとした素材で出来ているので、普通のインクでは上手く乗らないだろう。


「華印以外に何か特別な道具、インクとか使うんですか?」

「いや、華印以外は必要ないよ。華印をポーション瓶に押し当てると、瓶が歪んで型押しされたみたいに“華”の模様が刻印されるんだ。華の周囲に表示されるランクと使用期限は持ち手にあるダイヤルで変えられるよ」


 瓶が歪むと聞いて驚きつつも、昔テレビで観たガラスを加工しているシーンを思い出す。

 あんな感じだろうか? だとしたら力加減が難しそうだ。

 華印をポーション瓶に押し付けすぎて穴が開いて「あ゛ー」と嘆く自分の姿が脳裏に浮かぶ。


 だが、型押しされたように刻印されるなら書き換え等による偽装の心配は無くなるし、文字が薄れて分からない、なんてクレームも起きない。


 そして更にあとふたつ、華印で押された“華”には大きな特性があった。

 それはポーションの蓋を開けると“華”が消えるということ、そして一度“華”を押したポーションには二度と“華”が押せないということだ。


 これはかなり重要な性能だと言える。

 例えば、購入したポーションに毒を混入して誰かを害そうとしても、毒を入れる為に蓋を開けた時点で華が消える。そして“華”の押し直しも不可能。


 異物混入系の犯罪防止にこれ以上適した物はないだろう。

 だからこの国では“華”の無いポーションは売買できないし、もし売ってあったとしても誰も買わない――というか犯罪なので通報される。

 “華”は安全を保証するマークでもあるのだ。


 『裏切者は無華(むか)のポーションを差し出す』そんな俗諺(ぞくげん)もあるらしい。


 ちなみに緊急時に医師または医師見習いが華の無いポーションを使用するのは合法とされている。


「でもそうなると……華印って思っていた以上に貴重な魔道具なんですね」


 だってもし私の華印が盗まれて悪用されたら、そしてそれによって誰かが死んでしまったら……。

 そんな最悪のシナリオが頭をよぎり、思わず眉間に皺が寄った。


「そんなに心配しなくても大丈夫だよ、華印は保管場所も保管方法も厳格に決められてるから。それに外に持ち出すこともないしね」


 トビー君の言葉に、そういえば授与式の後、王宮の敷地から出るなら華印を自分の師に預かってもらうようにと言われたことを思い出した。

 あの時は特に疑問に思わなかったが、そういった理由があったのか。


「それよりも(あやま)ってぶつけたり、落としたりした時の方が怖いよ」

「怖い?」


 はて? 怖いとはこれいかに?

 確かに華印は貴重な魔道具なので粗雑に扱えば叱られるのは分かる。だが、王から下賜され、自分の“華”が入った貴重な魔道具を粗雑に扱う人なんているだろうか?

 もし不注意でぶつけたとしても“怖い”と感じるほど叱られるとは思えない。


 それに魔石はとても硬いので、多少乱暴に扱ったとしてもそう簡単に壊れたり傷付いたりしない。

 私が魔石を齧れるのは私が魔石を食料とする魔物だからだ。


「華印の素材の魔石って凄く硬いですよね? ちょっと落とした程度じゃ傷ひとつ付かないと思うんですけど?」

「確かに華印は頑丈だから傷は付かないけど……なんでかバレるんだよね」

「バレる?」

「華印は定期的に点検が行われるんだけど、その時に落としたりぶつけたりしたことを指摘されるんだ」

「えっと……それはそういった機能が付いているとかでは?」

「華印のある場所を特定する機能ならあるそうだけど、いつどこで何回落としたとか調べる機能まではさすがに付いてないよ」


 まぁ、そうだよね。というかそんな機能いらないし。

 ん? でも、じゃあ、なんで分かるんだ?


「ね。怖いでしょ?」

「……怖いというか、不気味というか」

「だよね! 僕なんて紅茶を混ぜるスプーンの代わりにしたのがバレたんだよ!」


 ――――うん?


「間違えてお肉と一緒に煮込んだのもバレたんだ!」


 ――――トビー君、あんたなにやってんの?


「凄いよね!」


 ――――何が!? 分かっちゃうことが? それとも間違えるトビー君が? どっち!?


「あ、フロムベル全部剥けたね。あとはこれを精製水と混ぜ合わせて煮込むんだけど……。今日は天気も良いし外でやろうか」

「あ、ぁあ……うん。ソウダネ。ハイ」











「……ねぇ、ハルちゃん」

「なんですか?」

「華印だけど……パイ生地に包んで焼いてもバレると思う?」

「止めてあげて!?」

【後書き】

トビー君は天然のいたずらっ子☆


ハル「たち悪い……」

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