表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
元アラサー女子はスライムとして生きて行く(仮)   作者: おんじゃく
第三章~王都~

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

93/109

67 ポーション

 王宮。と一言で言ってもその敷地は驚くほど広く、その用途に応じて大きく7つの区画に分かれている。


 王族の人々が住む城。

 国の議事が行われる議事堂。

 国の防衛を担う騎士達のための騎士館。

 魔術や魔石の研究を行っている魔学研究塔。

 国外からの国賓の接遇を行う迎賓館。

 そして薬学と医学の研究を行う医薬研究所。


 以上の7つが存在する。


 トビー君に案内されたのは医薬研究所がある区画の片隅に建てられた、小さな赤レンガ造りのお屋敷だった。

 この屋敷は師匠さんとトビー君が住む家であり、同時に、今日から私が働く事となる職場でもある。


 屋敷の庭には多種多様な薬草が、そして周囲には背の高い木々が植えられており、王宮というよりも、どこかの片田舎の民家にでもお邪魔している気分になる。

 庭には他にも石造りの井戸と東屋、農具を仕舞う小屋、さらには小さな川さえもあるのだからそう感じてしまうのも致し方ないだろう。


 けれどそんな長閑な雰囲気の漂う屋敷の一室で、私は作業の手を止め驚きの声をあげた。

 なぜなら――




「え!? ポーションって腐るんですか!?」

「う~ん、腐るというより効果が薄くなるって感じかな?」


 トビー君はそう返事をしながら、フロムベルという砂糖黍(サトウキビ)に似た植物の皮をナイフを使って器用に剥いていく。

 固い皮と実の隙間にナイフを差し込み、反対側の部分をトントンと軽くテーブルに打ち付けると、ペキペキと軽い音をたてて皮が剥がれ薄いクリーム色の実が現れる。

 これを煮詰めたものを基剤(きざい)とし、トビー君と一緒に軟膏を作る。これが医師見習いとしての私の初仕事だ。


「ポーションってどのくらいで効果が薄くなるんですか?」


 驚きで止まっていた手を再び動かしながらトビー君に問うと、だいたい1年前後という回答が返ってきた。しかもそれはあくまでも平均であって絶対ではないらしい。


「ポーションって作った人によって効果や使用期限に差があるんだ」

「それは……人によって作り方が違うとか、使用する薬草(ヤマ)の違いとかですか?」

「それもあるけど、一番の要因は錬金術のスキルそのものかな。同じ薬草を使って同じ手順を踏んでポーションを作っても、効果や期限に個人差がでるから……」


 「師匠と同じ薬草で師匠の指示通りに作っても僕のポーションはなぜかかあれ(・・)になっちゃうんだよね~。不思議だよね~」とニコニコ微笑みながら教えてくれるトビー君に「不思議ですね~」と返しながらも、(それでか)と私は妙に納得した。


 トビー君の作るポーションがなぜあれ(・・)なのか、実はずっと不思議に思っていたのだ。

 最初は、トビーわんこの事だからお茶の時みたいにポーションにも余分な物を追加しているのだと思っていたのだが、その可能性は非常に低いと早々に気付いた。


 なぜならトビー君は仕事に対して非常に真面目で真摯だからだ。

 料理にならともかく――料理にもどうかとは思うが――仕事に自分の嗜好を持ち込むほどトビー君は愚かではない。それに、そもそもそんな事を師匠さんが許すはずがない。

 そんな訳で、ちゃんと真面目に取り組んでいるはずなのになぜ? と疑問に思っていたのだ。


「でもそういった差ってどうやって調べるんですか?」

「ハルちゃんはポーションにランクがあるって知ってるよね?」

「はい。1から10まであって、10が一番効果が高いと教えてもらいました」

「じゃあランクの見分け方は知ってる?」


 それは知らないと首を振る私に「ランクも使用期限も調べ方は同じだよ」と言いながら、トビー君は近くの薬品棚から細長い灰色の紙の束を取り出した。


 長さ15センチ、幅は7ミリ位の、なんの変哲もない灰色の紙だ。

 細長い付箋みたいだなと思って眺めている間に、トビー君が近くにある木箱からポーションを一本取り出した。


 瓶の中の薬液が天窓の光に反射して、テーブルの上にエメラルドグリーンの光の影を落とす。

 師匠さんのポーションだ。


「その紙は“判別紙(はんべつし)”と言って、ポーションに触れると色が変わるんだ」


 トビー君はそう言うと灰色の紙を一枚、ポーションにくるりと巻き付けた。すると灰色だった紙が一瞬で濃い紫色に染まり、黄色い模様のような物が現れる。


「色の濃さでランクが、浮き出た丸の数で使用期限が分かるんだ」


 色の変わった判別紙を見せてもらうと、直径3ミリ程の黄土色の丸が等間隔に14個あるのが確認できる。


「丸1つで1ヶ月だから、このポーションの使用期限は残り1年と2ヶ月だね。ランクは判定表の色で判断するんだよ」


 そう言って色が変わった判別紙と共に手渡された判定表は、縦長の用紙に十色の濃淡の違う紫色が塗られている色見本のような表だった。

 下から上にいくほど色が濃くなっており、色が濃いほどランクを表す数字が高くなっている。

 渡された判別紙の色は一番上の紫と同じ濃さなので、師匠さんのポーションのランクが10だということが分かる。


「中途半端な色の場合はどうするんですか? 例えばランク5と4の間くらいの色になった場合とか」

「その場合は下のランクを選ぶんだ。ランク5で売ったのに4の効果しかなかったら怒られちゃうからね」


 なるほど。と頷き、改めて判別紙を見る。結構しっかりとした紙で出来ていて、ちょっとやそっとじゃ破れそうにない。


 ふと、もしかしたら判別紙はポーションを売るときに付けるではないかと思った。

 薬液の色に多少の違いはあれど、ランクに関係なくポーションの見た目はほぼ同じだ。見た目だけではランクも使用期限も分からない。

 判別紙の長さはちょうどポーションに巻ける長さだし……。と思ったのだが、それに対するトビー君の答えは『否』だった。


 昔――といっても300年以上前だが――判別紙を悪用した詐欺事件があったらしく、それ以降、判別紙は使用後に破棄する事が義務付けられたのだそうだ。


「でも、それじゃあ……。購入した人はどうやってポーションのランクと使用期限を確認するんですか?」


 どんなに記憶力に自信がある人でも、購入した全てのポーションのランクと使用期限を覚えていられるとはとても思えない。

 ポーションは瓶も含めてポーションなので、ランクや使用期限に合わせて中身を別の容器に入れ替える事も不可能。


 一覧表を作って厳しく管理するしかないのか……と思っていると、トビー君が驚くべき事を口にした。


「ポーションにランクと使用期限を直接書き込むから大丈夫だよ」

「へ? 直接? ポーションに?」


 直接書くって……油性マジック的な物で?

 書くの? 手書きで? とジェスチャーをしながら首をかしげる私に、トビー君は首を横に振って答えた。


「書くんじゃなくて、押すんだ。“華印(かいん)”を使うんだよ」

【後書き】

基剤とは……薬を皮膚に浸透させたり保護・冷却したりする役割を持つクリーム。薬効はない。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ