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元アラサー女子はスライムとして生きて行く(仮)   作者: おんじゃく
第三章~王都~

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65 日々

「おはよ」

「…………はよ」


 朝、顔を合わせて、そして「おはよう」を言う。私達の一日はそこから始まる。




 太陽が顔を出す前の薄ぼんやりとした部屋の中、身支度を整え玄関の扉を開くと、ひんやりとした外の空気が肌をなでた。

 もうすぐ夏だというのに朝は肌寒い。


 この国にも四季はあるが、季節の間隔は日本とは全く違う。この国の一年の半分は夏なのだそうだ。

 とはいっても猛暑や酷暑なんて言葉が連日のように飛び交う日本とは違い、日中でも30度を越える事はそうそうない。


「お、二人とも今日もちゃんと起きれたか。偉い偉い」


 外気の冷たさに急かされるように足早に階段を降りていると、階下から声を掛けられた。

 階下にいたのは小麦色の肌に顎髭を貯えた彫りの深い顔立ちの男性。第7部隊の騎士のひとり『マテオ=モンピン』さんだ。


「マテオさん、おはようございます」

「……はよっす」

「ああ、おはよう」


 マテオさんは階下に降り立った私とソラの頭を優しくぽんぽんと撫でる。

 マテオさんは農家出身。元々、第7部隊の軍馬の厩務員として雇われていたのだが、魔力持ちであり弓矢の扱いに長けている事もあって、三年前に第7部隊の隊員となった異色の経歴の持ち主だ。

 29歳とまだ若いが、十人兄弟の次男で年下の扱いに慣れており、グリシャさんと共にまだ年若いやんちゃな隊員達のストッパー的な役割りを担っている。


「ハルは朝食の準備か?」

「はい、そうです。あ、今日はマテオさんの実家から届いたトゥーテ(トマト)を使わせてもらいますね」

「おお、好きなだけ使ってくれ。それにしてもハルのおかげで第7部隊(うち)の朝飯は豪華になったなぁ」


 今日も楽しみだと嬉しそうに笑うマテオさんの言葉に、第7部隊で初めてとった朝食を思い出した。


 薄いが固くてどっしりと重いトースト、バター、ジャム、スライスされたチーズとハムの盛り合わせ。飲み物はミルクか水。


 たまに季節の果物が付く事はあるが、年間を通して朝は毎日このメニュー。

 元の世界でいうコンチネンタルブレッ(火を使わないメニュー)クファーストだ。


 この国の庶民の朝食は基本このスタイル。

 日本でいうところのご飯、味噌汁、お漬物みたいな定番メニューに当たる。

 火を使わない理由は、


『すぐ仕事に行かなきゃいけないのに朝っぱらから竈に火をいれるなんて、イヤよ』


 はい、私達の家を改修してくれた棟梁の奥様――奥様も大工さん――の一言でした。


 この国の人達は性別問わず基本なにかしらの職に就いているのだが、どこの世界も同じように仕事を持つ人の朝は早いし忙しい。

 時間のない朝に手入れの大変な竈を好んで使う人はそうそういない。

 魔石を利用したコンロなら灰等の処理は不要だが、コンロ自体の値段が高くて平民には手が出ない。

 そのため火を使わない朝食メニューが一般的となったのだ。


 幸いにも王都は早朝から市が立つので温かい食べ物を買うことは出来る。家族揃って朝食は朝市の屋台、という家庭も珍しくないそうだ。


 第7部隊も魔石コンロを所持していない。金銭的な理由もあるかもしれないが、おそらく平民出身者が多いからだろう。

 子供の頃からそれが当たり前だったために、朝食に温かい物がなくても苦にならないのだ。


 けれど日本にいた頃から朝食には必ず温かいものをとっていた私にはなんだか物足りない。

 それにソラにはもっと栄養が必要だ。体が資本の騎士の人達だってそうだろう。

 でもだからといって毎朝市場の屋台に買いに行くのも難しい。屋台は庶民街にあるので貴族の私が行くなら護衛をつける必要がある。

 わざわざ朝から護衛をしてもらうのも、誰かに頼んで買いに行ってもらうのも悪い。


 色々と考え迷った末に、朝食に私が作ったメニューを追加する案を隊長さんと副隊長さんに提案した。







「副隊長さん、お茶はいかがですか?」


 そうハルに問いかけられ副隊長は微笑んだ。

 ハルの後ろには無色透明の溶けたガラスのような謎の物体がふよふよと宙に浮かんでいる。物体の内部には茶色い液体が透けて見える。

 明らかに異常な光景だ。しかし、


(…………気にしたら負けだ)


 心の声を胸の奥にしまい、「ありがとうございます。頂けますか?」と言ってカップを差し出す。

 それを笑顔で受け取ったハルは、手に持っていたお玉を迷うことなく謎の物体に――――突っ込んだ。


 お玉が再び謎の物体から取り出されると同時に、周囲に芳ばしいお茶の香りが漂う。


 ハルは謎の物体から取り出した液体――いや、お茶をカップに注ぎ「どうぞ」と副隊長に手渡すと、謎の物体を背後に引き連れ次の隊員の席へ行き同じ問いを繰り返す。



 初めて見たときは卒倒しかけたこの光景が、今では第7部隊では日常的な朝の風景と化している。

 副隊長は湯気が立つ温かなお茶の香りを楽しみながら「慣れとは恐ろしいものだな」と独りごちた。


 最初に朝食の手伝いがしたいとハルに言われたときは驚きよりも喜びの方が(まさ)った。

 三年間とはいえ長年頭を悩ませていたポーション問題が解決し金銭的な余裕ができると分かったので、何かしらの形で隊員達に還元しようと考えていた矢先の事だったのだ。


 下手に金銭を支給するよりも朝食のランクを上げる方が経済的にも負担が少ないし、満足感がある。それに全員に平等に配られるので不公平感もない。

 ハルの料理の腕はガレーパから王都への旅の間で知っている。


 ハルの提案はいろんな意味でおいしい(・・・・)申し出だった。


 そしてハルの提案を受け入れた次の日の朝食と隊員達の満足気な様子に、予想以上の結果だと内心でほくそ笑んだ。


 ――――が。


 朝食も一段落し和やかな空気が場を満たす中、ハルが爆弾を投下した。


 突然、錬成空間を出現させたのだ。


 凍りつく隊員達をよそに錬成空間に茶葉をザッカザッカと豪快に放り込み、そして数分後、お玉を片手に各席を回り「お茶はいかがですか」と隊員達に問いかけ始めた。


 自分を含むハルを知っている隊員は諦めたような笑顔で、それ以外の隊員はひきつった笑顔でお茶を注いでもらっていた。


 朝食を終え、ハルとソラが席を外すとすぐに


アレ(・・)なんですか!? おかしくないですか!?」

「あれってポーション作る錬成空間ってやつだよな!? あの子お玉ぶっこんでたぞ!? 大丈夫なのか!?」

「そんな事より貴重なスキルをあんな風に使って良いんですか!?」

「錬金術でお茶!? 錬金茶!?」


 とハルをよく知らない隊員達に質問攻めにあった。

 だが、


アレ(・・)がハルさんです、…………慣れてください」


 としか答えられなかった。


 ハルを知らない隊員達が愕然とする後ろで、ハルを知る隊員達はひとり残らず無言で何度も頷き、副隊長の言葉を肯定した。

【後書き】

三章スタート。

ハルとソラの王都生活の始まりです。


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