62.5 オーレリー=ヴィ=ダルクという人間(裏)
【前書き】
短いです。
オーレリーの異常性を詳しく語ると長くなる&ジャンルがサイコホラーになりそうだったのでサラッと流す事にしました。
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『オーレリー=ヴィ=ダルク』とはどんな人物なのかと問われたとき、彼を知る多くの人はこういうだろう、『完璧な人間』だと。
事実、オーレリーは生まれながらに多くの物を持っていた。
公爵家の跡取りという地位。
老若男女を魅力する美貌。
わずか5歳にして七カ国の言語を操り、史上最年少で王立研究所の一員として名を連ねる事を許された頭脳。
魔力量も多く、剣術の才能にも恵まれ、複数の精霊――上位精霊ではないが――から愛されし『ラ・ルゥ』。
人柄も良く、自身の才能を鼻に掛ける事もなく、どんな相手の言葉にも耳を傾け手を差しのべる。
完全無欠の存在。
それが多くの人が知る『オーレリー=ヴィ=ダルク』という人間だ。
だがそれはオーレリーの表の顔にすぎない。
幼少の頃より優れていたオーレリーには、人がなぜ惑うのか、必死になるのか、間違えてしまうのかが分からなかった。
分からないことが分からない。
その事に幼いオーレリーは初めて惑い、必死になって考え、そして、ある結論にたどり着いた。
オーレリーは自分と自分以外の存在を分け、独りになることで己という存在を確立させたのだ。
その時より、オーレリーは人を人として見る事を止めた。
◆
息苦しさに目を覚ましたオーレリーは、パチパチと数回瞬きを繰り返した。
視界を埋めるのはアイボリーの天井。
体を受け止めるのは柔らかなマットではなく固い床。
はて、なぜ自分は床に寝ているのだろうと疑問に思いながらも上半身を起こしたオーレリーは、ポタリと落ちた赤い滴が、お気に入りの白いトラウザーズの上にジワリと染み込んでいく様を見て――愕然とした。
それが何かはすぐに分かった。
何よりもそれが出ているであろう場所とその周辺がズキズキと痛み、それが何であるかを主張してくる。
けれどオーレリーは理解出来なかった。
それが自分の体から出ているという事実を受け入れる事が出来なかった。
その時――。
「チッ」
忌々しげな舌打ちに、慌てて見上げたその先に、不愉快そうに足の裏をシーツに擦り付けている少女の姿があった。
オーレリーは震える指で鼻の下を拭い、その指先に付着した赤をまじまじと見詰めた。
(――――血だ)
そうだ、これは自分の血だ。
ポタポタと途切れる事なく滴り落ちる血と不快な痛みに、オーレリーは――――涙を流し狂喜した。
あまりにも単純明快に、けれどそれゆえに揺るぎない現実を痛みと共に突きつけられた。
お前も同じだと。
お前も赤い血を持つ、どうしようもなく愚かで、哀れな、救いようのないちっぽけな『人間』のひとつなのだと。
そして、お前は独りではないのだと、言われた気がした。
それはオーレリーにとって嫌悪であり憤怒であり屈辱であり――――救いだった。
だがら、それをもっと実感したくてオーレリーは少女に跪き切願した。「もっと踏んでくれ!」と。
少女はそんなオーレリーを一瞥すると、その艶やかな赤い唇を開いて吐き捨てるように言った。
「黙れ。――――人間のクズが」
その瞬間、オーレリーは恋に落ちた。
【後書き】
※エヴァが『特別』になっただけで、オーレリーの他者に対する価値観はあまり変わっていません。他者ではなく自分の価値を下げた感じです。
※男爵令嬢が公爵家の嫁になれたのは当時の公爵――オーレリーの父親――が認め、全面的に賛成し、協力したからです。
息子が好きになった女性ならば……なんて可愛らしい理由ではありません。
公爵はオーレリーの異常性に気付いており、エヴァさんをあてがうことで息子の興味が国へと向くのを阻止しようと考えたからです。
その考えは非常に正しく、二人が出会っていなければオーレリーの手によって王国は地獄と化していたでしょう。
二人の結婚が決まった時、公爵は「やっと安心して眠れる……」と当時の王に溢したそうです。




