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元アラサー女子はスライムとして生きて行く(仮)   作者: おんじゃく
第二章~邂逅と別離~

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59 王都

 ガレーパから2日程、東の方角に馬車を走らせた先に王都はある。


 身分証の提示と荷物検査を終え、王都全体をぐるりと囲む高い壁をくぐり抜けた先にまず見えるのは庶民街だ。

 淡いオレンジ色の外壁とチョコレート色の屋根の建物が建ち並び、灰色の石で舗装された石畳の道を荷馬車が行き交う。

 港には大きな帆船が停泊しており、港沿いの広場では市場が開かれ多くの人々が新鮮な食材を買い求めていた。


 貴族街と庶民街の間には3メートル程の壁があり等間隔に門が設置されている。

 ここでも身分証の提示と荷物検査を受けなくてはならないが、逆に言えば身分証を提示し荷物検査を受ければ庶民でも貴族街に入れるということだ――役所や神殿は貴族街にしか無いので当然といえば当然なのだが。


 そんな貴族街は、庶民街よりも広々とした印象を受ける。

 道幅は同じなのだが露店が無く人々の往来が少ないためそう感じるのだろう。それにひとつひとつの建物が大きく、ほぼ全ての建物の敷地内に庭が存在するのも大きな違いだ。

 庶民街と同じように生鮮食品を扱っている店もあるが店構えが違う。庶民街には無い紅茶や煙草等の高級品を取り扱う店があるのも貴族街の特徴のひとつだろう。


 治安が良く暮らしやすそうな街。

 それが私の王都の第一印象だ。



 馬車の中から街の様子を観察しながら『索敵』スキルを発動させる。


 それで分かったのは王都の全体像が“ドーナツ”型であるということだ。

 ドーナツの穴の部分に城と貴族街があり、実の部分に庶民街が存在する。南側に弧を描くように港が拡がっているので正しくは“ひとくちだけ齧られたドーナツ”だろうか。


 ちなみにこの世界にはドーナツに似たローギと呼ばれる揚げ菓子が存在するのだが、ローギに穴はない。

 前世の世界にはドーナツという穴が開いたローギがあるとソラに説明したら「穴の部分、損してねーか? 値段が同じなら俺はローギを買う」と返されたので「穴が開いてる方が可愛いくない?」と言ったら……鼻で笑われた。


 オノレ。


 王都での生活が落ち着いたらドーナツを大量に作ってやる、飲み物はもちろん…………無しだ(笑)! と妄想してほくそ笑んでいると馬車が止まった。


☆ ☆ ☆


「う~ん」


 と思わず唸る。

 目の前にあるのは赤い印が付けられた王都の地図と空き家の詳細が書かれた書類。


 現在、貴族街にある役所内にて私とソラが住む物件を探し中だ。


 本来であれば保護者である師匠さんと暮らすのだが、師匠さんは王宮で暮らしているため家は持っていないのだそうだ。ちなみにトビー君も王宮暮らし。


 錬金術の弟子である私だけ(・・・)なら王宮でも暮らせるがソラは無理だ。

 師匠さんの事は大好きだし尊敬もしている。でも、それ以上に私はソラの傍にいたい。

 ソラと一緒にいられないなら意味がない。

 だから却下。


 というわけで空き家を紹介してもらいに役所を訪れたのだが――。


「う~ん」

「お気に召されませんか? 場所は印を付けさせて頂いた所しか空きがございませんのでお力にはなれませんが、屋敷でしたら現存する建物を壊して新たに建て直す事も可能ですよ?」

「建て直し!? い、いえ、違うんです。素敵な物件ばかりで迷ってしまって……」

「そうでしたか、私のお薦めはこちらの物件でして――」


 職員のお姉さんの親切丁寧な対応に営業スマイルを返しながら私は心の中で訴えた。


 違う、違うんだお姉さん。

 私が欲しいのは何に使うかも分からん部屋が10部屋もあるお屋敷(・・・)じゃない、ソラと二人で暮らせる2LDKの普通の家が欲しいんだ。


「――――内装がお嬢様がお使いになるには少々地味ですね。内装はすべて変えて……庭に噴水などいかがでしょう?」


 流行っておりますし。と、どや顔で言われても……。そして「こちらが噴水のイメージ図です」と、いそいそと資料を渡されても……。


 ……ねぇお姉さん、これ本当に噴水?

 これプールじゃね?


「いかがでしょう」


 笑顔の素敵なお姉さんに、負けじとにっこり微笑みを返し。


「少し考えたいのでお時間を頂いても宜しいですか?」


 私は逃げた。


「もちろんです。私は別室におりますので何かございましたら声をお掛けください。――すぐにお茶をお持ちしますね」


 退路が断たれた。


☆ ☆ ☆


 出された紅茶はもの凄く美味しかった。

 チーズ入りのマフィンも美味しかった。

 帰りに売ってるお店を教えてもらおう。


 けれどその前に目の前の問題を片付けなくてはならない。


 そして眉間にシワを寄せてウンウン唸ること数分、見かねた副隊長さんが声をかけてくれた。


「どれも良い物件だと思いますが……。何か問題でも?」

「2LDK」

「ニーエる?」

「……紹介して頂いた物件はどれも立派ですし文句の付けようもありません。ですが広すぎだと思うんです」

「……え?」

「個人部屋が2つ、広めのキッチン。あとはトイレとお風呂があれば十分です」

「……はぁ」

「あ、できれば日当たりが良い部屋か庭が欲しいですね。錬金術でも乾かせますけど、洗濯物はお日様で乾かしたい派なんで」


 そう訴えてみたが、副隊長さんだけでなく部屋にいた全員に奇妙な生き物を見るような目で見られた。なんで?


 はっ! もしや!


「あの、もしかして錬金術のスキルを持つ人が住む家には何か条件があるのでしょうか?」


 貴族街に家を用意してもらえるのは私が錬金術のスキルを持っているからだ。しかも入居時にかかる費用どころか維持・管理費も永久に無料で。


 これだけの厚待遇、住むにあたって何かしらの条件が付けられていても不思議ではない。

 ――と思ったのだが、貴族街にある事と護衛が常駐出来る場所があれば良いだけで、家の間取り等に条件は無かった。


 ちなみに護衛も庶民街に行く時に必要なだけで、貴族街では必要ないそうだ。


 そこは問題ない。

 元々、買い物は貴族街にある店――と言っても高級店――で行う予定だ。庶民街よりも若干値は張るが、それだけ質が良い物が揃っているし、身の安全を考えると貴族街で買い物をした方が良いだろうから。


「しかし貴族街ではハルさんの希望する間取りの物件を探す方が難しいですよ?」


 副隊長さんの言葉に再びう~んと唸るも良い案が浮かばない。


 もう適当に選んでしまおうか?

 迷っている理由も、ただ単に私が屋敷に住むという違和感を拭いきれないからにすぎない。

 そもそも無償で用意してくれる物にケチをつけるのもどうかと思う。


 ――――慣れるべきなのかもしれない。

 私はこの世界で生きている、ならばこの世界のルールには従うべきだ。


 郷に入っては郷に従え、住めば都とも言うではないか。


 よし! 気合いを入れ、覚悟を決めたその時、今まで黙っていたハルムートさんが口を開いた。


「全ての条件に合う場所が一ヵ所だけある」

「え! 本当ですか?」


 驚きの声を上げた私に、ハルムートさんは頷き、机の上に広げられた地図の一ヵ所を指差した。



 そこは貴族街の南東の端。

 職員のお姉さんが、この辺りは店が少なく、近くに庶民街へと続く門はあるが、その庶民街にも古い小さな店がいくつかあるだけのあまり人気がない区画なのだと言っていた場所。


 そんな区画にある建物をハルムートさんは指差している。その建物は――


第7部隊(おれたち)の宿舎だ」

【後書き】

 職員のお姉さんも副隊長さんも使用人ありきで話しています、ですがハルさんには使用人を雇うといった考えがないため話が噛み合ってないのです。


 話中には出てきませんが、ハルさんはソラにも家の希望を聞いています。けれど「屋根があるとこ」と言われたので「……そうか、任せろ。壁も付けてみせる」と返して終わりましたとさ。

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