57 番外編~謎の人物~
【前書き】
小話にしようかと思いましたが、本編で謎の人物の名前が出てくる可能性があるので番外編としました。
副隊長さん目線です。
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「まずはこちらですが、問題はありませんでした」
そう言ってハルムートがテーブルの上に一振りのナイフと封書を置いた。
ナイフは鞘に4種の魔石――ひとつはすでに使用済みのため石が濁っている――が埋め込まれた上物で、封書はナイフの持ち主がソラである事を認める証明書だ。
ナイフはハルとソラを保護した際に二人の傍に落ちていた品なのだが、子供とはいえVIPの護衛中に武器を持たせる訳にはいかなかっために今まで預かっていた。
目を覚ました二人に確認すると、元々の持ち主が盗賊のバナハであり、それをソラが譲り受けたという事が判明した。盗賊が所有していたなら盗品である可能性が高い。
その為ハルムートに調べさせていたのだが、どうやら盗難届けは出されていなかったようだ。
「……そうですか」
「レイ、なんで残念そうな顔してんだ? 良かったじゃねーか?」
不思議そうに首をかしげるヨハンに、正直に話すかそれとも適当に煙に巻くか迷っていると、ハルムートが“残念”な理由をさらりと暴露した。
「もし盗難届けが出されていたら被害者と交渉しナイフを手に入れる。その見返りとして、ハルとの契約に新たな条件を追加するよう要求する。……ソラはこのナイフに執着を見せていましたからね、よほど無茶な要求でない限りハルは条件をのんだでしょう――残念でしたね」
「……えげつねぇ」
「失礼な、正 当 な 取引です」
できれば盗品であった方が良いなと思っていたのは確かだが、証明書を手に入れただけでもハルの騎士団への好感度は上がる。
この件に関してはどちらであろうと第7部隊にとって有益だったのだ。
さて。と気持ちを切り替え本題に入る。
「もうひとつの件ですが、何か分かりましたか?」
ハルムートは短い沈黙ののち、相変わらずの無表情で口を開いた。
★
「ハルさんは知識が豊富ですね。それらは全ておばあ様のコウメさんから教わったのですよね?」
宿泊先にある海の見えるレストランで、ハルが昼食の白身魚のフライを咀嚼し飲み込んだタイミングで声をかけた。
団員一の知恵者であるハルムートですら知らない知識を持つハル。
その知識は共に暮らしていたという祖母から得たはずだ、だとすればハルの祖母はかなりの智者という事になる。
色々するべき事が多く後手に回ってしまっていたが、ハルの祖母についてもう少し詳しく調べる必要があると思い質問したのだが、予想外の答えが返ってきた。
「基本はそうですね。けれど全てを祖母から教わった訳ではありませんよ」
思わず笑みが深くなる。一緒に食事をしていた騎士達の意識がこちらに集まるのを――表面上は変わらないが――肌で感じた。
「ん? ハルはばあちゃんと二人暮らしだったんじゃなかったのか?」
「あ~。実は祖母が亡くなる前、ほんの僅かな期間ですが祖母以外からも色々と教わっていまして……。すみません、言っていませんでした」
ヨハンの質問にハルが申し訳なさげな顔をした。
「そいつの名前分かるか?」
こういう時のヨハンの裏表のない質問は正直助かる。特に質問の内容が良かった。
“名”は偽る事が出来ない。
ハルの言っている人物が本当に存在するかどうか――もとい、ハルが嘘を付いているかどうかが一瞬で分かる。なぜなら存在していない人物の“名”は言えないからだ。
心の中でヨハンを少しばかり褒めていると、ハルは「私で分かる事でしたらなんでもお答えしますよ」と言ったのち、さらりとその人物の“名”を答えた。
「『ジョン』さんです」
(“名”を言えたという事は実在の人物か……)
「その方のご出身はどちらで?」
「出身は分かりません。ただ、祖母とは古くからの付き合いだとは聞いています」
「そうですか。その方は今どちらに?」
「……残念ながら祖母より先に亡くなりました」
「そうでしたか。それは失礼を」
「いえ、随分前の事ですから」
亡くなって暫くの間はとても辛かったです……と当時を思い出したのか、ハルは寂しそうな目をした。だがだからと言って止める訳にはいかない。少々心は痛むがもう少し確認する必要がある。
「……もう少し詳しく伺っても?」
「はい」
「その方の種族は分かりますか?」
「う~ん、ちょっと分からないですね。ただ高さが……この位だったような気がします」
そう言いながらハルは手を中に浮かせ、その人物の身長を教えてくれた。かなり背の低い人物のようだ。小人族だろうか?
「いつも部屋の片隅で黙って立っていました。でも一度スイッチが入ると永遠と喋り続けるんです。そしてスイッチが切れると何があろうとも一言も喋りません」
「……そうですか」
(なんだ? その人物は?)
“変人”という単語が浮かび、そんな人物と一緒に育ったせいでハルが“変”なのかと妙に納得してしまった。
周囲で聞き耳をたてていた騎士達の顔にも“成る程~”といった表情がうっすらとだが透けて見える。
「ええっと。どのような事を教わったのですか?」
「本当に色々です。料理や簡単な医療知識。物語。ああ、歌も聴かせてもらいました。……一番助かったのは天気でしょうか」
「天気ですか?」
「はい、当日と翌日、7日分の天気を纏めて教えて貰う事が多かったです」
「それは……凄いですね」
でもたまに外れるんですよ~。とハルは苦笑しているが、天気の予測にはかなりの魔力が必要だ。王宮の魔力使いでもせいぜい3日後程度で、7日後までの天気を予測出来る者はおそらくいないだろう。
ハルの話が本当なら、その『ジョン』という人物はかなりの魔力持ちという事になる。
「もう亡くなられているのですよね? ご高齢だったのでしょうか、それともご病気で?」
「詳しくは分かりませんが、祖母が『もう寿命だ』と言っていました。ああ、それから『ブラウン管だから仕方ない』とも」
「ブラウンカン? 病名でしょうか?」
「う~ん、分からないです」
ちらっとドクターに視線を送るも首を横に振られた。
「そうですか。……最後にもうひとつだけよろしいですか?」
「はい」
「その方に家名はありましたか?」
貴族には魔力が高い者が多い。魔力が高い人物を選んで婚姻する事があるためだ。
人目を避けていたなら家名を伏せている可能性が高いが、聞いておくべきだろう。
分からないと言われると思っていたが、予想に反してハルは「知っている」と答えた。
そして自慢気にその人物のフルネームを言った。
「『テレビ』です、『ジョン=テレビ』」
★★★
「そんな人物の記録はありませんでした」
予想どおりのハルムートの調査結果に「そうでしょうね」と応える。落胆はない。
『ジョン=テレビ』には家名がある。だが『テレビ』などという家名は聞いた事がなかった。
もし貴族でなくともハルが言っていたような人物が一度でも人里でその知識を披露していれば国が接触を謀っており、その記録が残されていただろう。
それらが無い時点で『ジョン=テレビ』が人目を避けて生きて来たことが伺える。
魔力が高い者には独特の思想を持つ者が多い、そしてそういった異分子を大抵の人間は忌避する。ハルの祖母も、もしかしたらそうなのかもしれない。
「引き続き調査しますか?」
ハルムートの問いに迷う。
『ジョン=テレビ』という人物は他種族――ハルの教えてくれた背丈からして小人族――である可能性が高い。手先の器用な小人族には技術面で世話になる事が多いため、『ジョン=テレビ』の生死に関する情報はもしかしたらこの国にとって良い交渉材料となるかもしれない。
だがあまりにも情報が少ないし、ハルが間違って覚えている可能性もある。
第7部隊でもう少し調べてから報告を上げるべきか、それともさっさと手を引き国に判断を委ねるか……。
「……ヨハンはどう思う?」
「調査は無駄だ、止めとけ」
ヨハンはこちらを見ることもなく即決した。
決断が早いのは部下として心強いが、ハルが作ったという“骨せんべい”を齧りながらというのが……なんというか、非常に複雑な気持ちにさせる。
「理由は?」
「そんな奴いねぇ」
「……隊長、それはハルが嘘を付いているという事ですか?」
ハルムートの硬い声にヨハンが顔を上げ、なんともいえない困ったような顔をした。
「う~ん? 実際名前はあるんだしそれはねぇとは思う。ただ、なんとな~く探しても無駄な気がするんだよなぁ、そいつ。まぁ、あれだ『勘』だ、『勘』」
そう言って持っていた“骨せんべい”をバリバリと音をたてて噛み砕く。
ただの『勘』かと普通なら思うだろう、だが何故かバカみたいに当たるのだ、この男の『勘』とやらは。
はぁ。とため息をつきハルムートに向きなおす。
「第7部隊での調査は打ち切りとします。ただし国への報告書には『ジョン=テレビ』の“名”を必ず明記する。――あとは国の調査機関が動くでしょう」
「かしこまりました、皆にも伝えます。……ところで隊長」
「あんだ?」
「食べ過ぎです」
「あ゛ー!!!」
ハルムートがヨハンから骨せんべいの入った皿を取り上げた。
「これはハルが『皆さんでどうぞ』と差し入れてくれた物です。……まだ誰も食べていないのになぜ既に半分以下になっているんですか?」
「あ~いや~なんかそれ旨いし食感が面白くてさ、ついつい食っちまうんだよ。…………あと一個だけくれ」
「駄目です」
骨せんべいの入った皿を持ったまま部屋を後にするハルムートを「あと一口だけ!」っと言いながらヨハンが追う。
出ていく直前にハルムートに「これ、副隊長の分です」と手渡された“骨せんべい”を見る。
焦げて潰れた魚の骨にしか見えない。
正直、あまり食べたいとは思わないが、後から感想を聞かれて答えられないのは困る。
端っこを齧った。
硬い。――が、噛めない訳ではない。
香ばしい。振りかけられた塩と臭み消しのハーブ、そしてボリボリと咀嚼していくうちに魚の旨味が強くなる。
少々塩気が強いため喉が渇き、無性に酒が飲みたくなってきた。エールもいいがガレーパの名産品でもある紅玉酒にも合いそうだ。
確かこの魚は王都でも手に入る魚だったはずだ、使用しているハーブも一般的に使用される物だ。確か油で揚げると言っていた。……油も用意出来る。
「……」
いつもより多目に紅玉酒を買って帰ろうと心に決め、喉の渇きを癒すため、副隊長は冷めた紅茶に手を伸ばした。
【後書き】
☆謎の人物(ジョン=テレビ)について……そうです、テレビの事です(笑)
ハルさんは一言も人だとは言っていません。もちろん勘違いするような話し方をわざとしていますが……。テレビは物ですから“名”に縛りはありません。
ハル「あえていうなら種族は家電?」
☆
ソラのナイフについて……ハルはわざとナイフが騎士達に見つかるように仕向けました。
黙っていて後日確認された場合、購入したと言う事も可能でしたが、盗品と判明した場合に面倒な事になると思ったからです。没収される可能性も当然ありましたが、ハルは取られない方に賭けました。そしてハルは賭けに勝ちました。




