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元アラサー女子はスライムとして生きて行く(仮)   作者: おんじゃく
第二章~邂逅と別離~

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小話~針子のアイナとレモンキャンディ(後)~

【前書き】

更新してたのに消えたー!

でもなんとか戻したー!

年末までに間に合ったー!

★☆★☆★☆★☆★☆★

 目の前の光景に、私はこぼれ落ちそうになるため息を必死で堪えた。


 お姉さんが泣き出してすぐにこの店の店主である女性と従業員の人達が外出先から帰って来て、事情が分かると謝罪と説明を受けた。


 お姉さんが泣いてしまった理由は私が一目惚れしたワンピースにあった。


 このワンピースはお姉さんが作った物で、これが売れないとお姉さんは一人前の針子と認めてもらえない。だが苦労して作り上げたにも関わらず、落ち着いた色合いが好まれず売れ残ってしまっていたのだそうだ。

 しかもその間にお姉さんの同期の人は一人前の針子となり、お姉さんだけが3ヶ月も見習いのまま……。

 そんな時に私に購入の意思を示され、やっと売れるという安心感で泣き出してしまったとの事。


 そりゃ泣く。売れるという安心感もあったのだろうが、本当に買ってもらえるのかという不安もあったのではないだろうか? それにたった一人取り残された気分を3ヶ月も味わっていたのだ、精神的にもかなりキツかっただろう。


 なので私としてはお姉さんを心配はすれども怒る気などさらさらない。逆に良かったね~となでなでしてあげたい位だ。


 ではなぜ私がため息をつきそうになっていのかというと……。謝罪しているのが店主である女性とお姉さんだけではなくこの店の従業員、おそらく全員だからだ。

 店主とお姉さんの後ろにずらりと並んだ8人もの人間が頭を下げている様は圧巻である。


 普通ならこんな事にはならない。

 いくら客の前で泣いてしまったからといっても、従業員全員で謝罪するなんて事はまずあり得ない。


 ではなぜそうなってしまっているのか。それは私が貴族のお嬢様だと思われているからだ。


 実はこれ、間違っていない。

 私は『錬金術』が使える。『錬金術』のスキルを持つ者はそれが判明した時点で――一代限りだが――貴族と認められる。だから隊長さん達は私を護衛してくれているのだ。


 自分が貴族になった事も教えてもらっていたし、身分による格差があるだろう事も予想はしていた。してはいたがまさかここまでとは思っていなかった。


 いま目の前で起こっているこの状況は、この国の貴族と庶民の力関係の縮図だ。


 これからの自分の行動には細心の注意が必要だ。

 今までの常識で行動すると思わぬ形で被害を受けるだろう。


(私も、私以外の人も……)


 王都で(これから)の生活に不安を覚えながら誰にも気付かれないよう小さくため息を吐き、とりあえずはこの場を収めようと私は口を開いた。



 自分の作ったワンピースを着た少女がおかみさんと笑顔で談笑しているのをぼんやりと眺めていると、後ろからポンと肩を叩かれた。


「っ! びっくりした」


 振り返った先には口をへの字に曲げた同期のイライザが立っていた。


「びっくりしたのはこっちよ。おかみさん達と休憩してたら下男がお店にマルチーノ様がいらっしゃったというから急いで戻ってみたら、アイナは泣いてるし」


 この店も今日で終わりかと思ったわ。と盛大なため息を吐かれた。

 言い訳のしようがない。

 お客様の前で突然泣いた。しかも相手は貴族のお嬢様だ、良くて高額の謝礼金の支払い、悪くて店の取り潰しだったはずだ。

 イザベラだけでなくおかみさんも他の皆も生きた心地がしなかっただろう。


「お嬢様が心の広い方で良かったわ。……あの言葉、嬉しかったわね」


 小さく呟くイライザの言葉に、本当にそうだとアイナも頷いた。


 謝礼としておかみさんが今回のお代は不要だと言ったのだが、少女はそれを辞退した。自分は怒っても不快にも思っていないのだからそんな必要はないと、そして「ここにある物は皆さんが思いを込めてひとつひとつ大切に作り上げた物のはずです、その対価は支払われるべきです」とそう言ってくれたのだ。


 作り手側の気持ちを考えてくれる客などそうはいない。アイナだって買い物をする時に作り手側の気持ちなど考える事などまれだ。

 それなのに貴族の、しかもまだ幼い少女がそう言ったのだ。


「それよりもアイナ。あれ(・・)、渡したの?」


 なんの事だろうときょとんとすると、イザベラの綺麗に整えられた眉がピクピクと動き始める。(あ、ヤバい)


「お嬢様にお渡しする物があるでしょ!」


 案の定雷が落ちた。だがお陰で思い出した。

 慌てて店内に取りに戻ろうとすると、針子の先輩がそれ(・・)を手に店から出てきた。


「アイナこれ忘れてるわよ!」


 アイナはお礼もそこそこにそれ(・・)を受け取り少女に駆け寄る。少女達は馬車に荷物を積み終え今にも出発しそうだ。


「お嬢様!」


 振り返った少女と周りの人達の何事かと問うような視線にぶわりと汗が吹き出て、胸に抱えたそれ(・・)を握り締める手に力が入る。


(これ、渡せなくても良かったかも)


 いや、逆に渡さない方が良いのではないだろうか? 相手は貴族のお嬢様だ、こんなものいくらでも持っているだろう。


「お姉さん? どうかしましたか?」


 そんな事を考えているといつの間にか少女が目の前まで来ていた。


 そうだ謝ろう。今日はすみませんでしたと頭を下げれば良い。服を買ってくれたのだ、もう十分じゃないか。そうだ、そのとおりだ、そうしよう。そう決め、アイナは口を開き――。


「これを貰って頂けないでしょうか!」


 気付けば腰を直角に曲げ、そんなセリフと共に両手で持っていたそれ(・・)を少女に向かって突き出していた。


(ギャー!!!)


 考えていたのとは真逆の己の行動に、心の中でアイナは絶叫した。羞恥から顔から火が出そうなくらい熱い、そして恐怖で心臓が口から飛び出しそうだ。


「ええっと……。これは何ですか?」

「ぁ、これ、は、っっ!」

「見習いの針子が初めて商品を購入した客に謝礼として渡す品だな。受け取って貰えた針子はその後も客に恵まれるといわれている」


 マルチーノ様が少女の隣に立っていた。


「私が貰っても良いんですか?」

「はいっ! 是非!」


 少女は受け取ると箱を開けた。

 入っているのは一枚の淡い黄色のハンカチ。隅に白いリローネの花を刺繍した品だ。もっと華やかな柄にすれば良かったと後悔するがもう遅い。アイナは少女に「いらない」と突き返されるのを覚悟した。


「わ、可愛い」

「ふむ、リローネの花だな」

「リローネ……。ああ、レモン! お姉さんレ、リローネが好きなんですか?」

「(レモン?)は、はい、実家がリローネ農家をしております」

「そっか……。じゃあハチミツとプディナ(ミント)は好き? 食べれる?」

「え? あ、はい。どちらも好きですが?」


 質問の内容を不思議に思いながらも答えると、それじゃあと少女は羽織っている薄手のコートのポケットから何かを取り出し、アイナの手のひらに乗せた。

 アイナが目を白黒させていると「レモンキャンディ。お礼にあげる」そう言って笑った。


 なぜか近所のお節介なお姉さんを思い出した。



 馬車が見えなくなり、場を支配していた緊張感がフッと消えるのを感じるとアイナは振り向いて勢いよく頭を下げた。


「申し訳、ありませんでした!」


 お嬢様は許してくれた、けれど自分の未熟さが店に、皆に迷惑をかけた事実は変わらない。


 おかみさんが近付いてくる足音がして目の前で止まる。


(首かもしれない)


 自分はそれだけの事をした。震える手でスカートをぎゅっと握り締めた。





 ぽん。


 頭に手のひらの感触がして思わず見上げた先に、怒ったような、呆れたような、嬉しそうなおかみさんの顔がそこにあった。


「明日から一週間、朝の掃除はアイナが一人でやりな」

「……え?」


 それだけ? とぽかんと口を開けて固まる。


「返事は!」

「はい! かしこまりました!」

「じゃあ少し早いけどアイナは休憩しておいで」

「え? でも」

「ついさっきまで泣いてましたって顔で店に立つつもりかい?」


 さっさと行ってきな。そう言っておかみさんは店に入って行った。側を離れる間際におかみさんが「良かったね」と呟いたのが聞こえた。


 そして――「アイナ良かったわね」「っていうか緊張したぁ」「あの金髪の騎士様格好良かったわね」「あんた彼氏いるじゃないの」――誰もアイナを責めなかった。



 庶民街にある海が見える小さな広場のベンチに座り、小さく息を吐く。微妙な時間帯のため人影もまばらだ。


(本当に私の服、売れたんだよね?)


 沢山の事が一度にありすぎて上手く頭が働かない。

 もしかしたらこれは夢ではないだろうか? 最近よく同じような夢を見る。

 じわりとした不安に襲われベンチから立ちあがりかけたその時、スカートのポケットからカサリと音がした。音の原因を探り取り出す。


(確か。レモン? キャンディ)


 包みをそっと開くと透き通った黄色いリローネ色のキャンディが出てきた。


「綺麗。宝石みたい。……でもこれ食べれるんだよね?」


 暫し眺めた後、思いきって口に放り込んだ。

 リローネの甘酸っぱい味が口一杯に広がり、続いてプディナ(ミント)の爽やかな香りが鼻から抜ける。


(美味(おい)しい~)


 目を閉じてゆっくりと味わっていると、ふと家族の顔を思い出した。


 服を作ってから一度も家に帰っていない。

 そういえばイザベラの昼食の誘いも断ってばかりいた。イザベラは言い方はキツイが面倒見が良い()だ、もしかしたらアドバイスしてくれるつもりだったのかもしれない。

 それにあの服が置かれていた場所は店で一番目立つ場所ではなかっただろうか? 服を置く場所は従業員全員で決める。


(私、自分の手元しか見えてなかった?)


 どうして今まで気付かなかったのだろうか。


(ああぁああぁ、私って、馬鹿)


 謝るだけでは駄目だ、ちゃんとお礼を言わなくては。

 店の皆だけではない、忙しい中、虹貝を探してくれた幼馴染にも、糸を格安で売ってくれた業者の人にも、そしてなによりも、何も言わずに待っていてくれている家族に。


(……次の休みには家に帰ろう)


 ゆっくりと目を開けるとガレーパの青い海と空が見えた。

 そういえばこの景色を見るのも久しぶりだ、毎日ここに来てはいたが自分はいつも下ばかり見ていたから。


 ベンチに座り直し深呼吸をする。


(お土産は何にしよう)


 ガレーパの青とリローネの香りに包まれ、アイナは次の休みに思いを馳せた。

【後書き】

消えた更新分とちょっと変わってるかも……。

以下のおまけはお詫び。


☆おまけ☆

「ごほっ」

「ソラ、これ」

「……なんだ、まだ持ってたのか?」

「ソラの分は別にしてる、食べる?」

「……食う」


レモンキャンディは喉を痛めているソラの為に作ったんだそうです。ソラの風邪はもう治ってますのでご安心を。

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