小話~針子のアイナとレモンキャンディ(前)~
【前書き】
本編とはなんの関係もないお話です。
別枠で投稿しようかと思いましたが面倒……ゲフン。
ハルさんがガレーパで服を買うお話です。
最初はアイナちゃん視点、「☆」以降からハルさん視点になります。前後編の予定です。
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布に針を刺す手を止め、アイナは店の片隅に追いやられた一着のワンピースに目を向けた。
それはアイナが自分だけの力で作り上げた特別な一着。
流行りのフリルやリボンを使った華やかな物とは真逆の、シンプルなデザインのワンピースだが、知り合いの業者から格安で譲ってもらった白い絹糸で襟と袖口に草花の刺繍を施し、釦は幼馴染の漁師に虹貝を譲ってもらい自ら加工した。その結果――
『華やかさは無いけど品がある。細かな所まで丁寧に作られた良い品だ』
普段あまり人を褒める事の無い、店のおかみさんがそう言って褒めてくれた。苦しい条件の中でよく頑張ったねと言ってくれた。
嬉しかった。誇らしかった。
けれど
暗く、重いため息がアイナの口からこぼれ落ちる。
針子には一人前の針子と認められる為の“試験”というものが存在する。
“試験”といっても証明書が発行されるような類いのものではなく、古くから行われている習わしのようなもので、その内容も働いている店の主人によって様々だ。
アイナの勤める店では定められた期間内に自らの作品を作り、それを売る事。そしてその際に使用する布や糸等は全て自分で用意しなくてはならないというルールがある。
だからこの店の針子見習いの娘達は見習いのうちからコツコツとお金を貯める。もちろんアイナだってこの試験の為に毎月少しずつ貯蓄をしていた。
だがアイナが試験を受ける事が決まった年、大きな冷害が起きた。
アイナの実家はリローネ農家だ。
リローネは低温に弱い植物で、冷害の影響をもろに受け、その年の収穫量は例年の半分にも満たなかった。そしてさらに母が病を患うという不幸が重なってしまったのだ。
もともと裕福な家ではない。まとまった蓄えなどあるはずもなく、アイナは試験用にと貯めておいたお金を家族の為に使用した。
もちろんその事を後悔などしていない。
薬を買い、薬師に診てもらえたからこそ母は今も元気に働いているし、家族全員飢えて死ぬこともなかったのだから。
だがそんなアイナの事情などお構いなしに試験の期日は迫る。
結果、アイナが購入出来たのはガレーパの名産品でもある紅玉酒の絞りカスで染められた布だった。布の質は悪くない。だがその色は――くすんだ紫色。
決して悪い色ではない。
落ち着きがあって、明るい色が苦手な人や大人の女性が好む上品な色だとアイナは思う。だが――
再び重いため息が落ちる。
アイナが作ったのは、購入した布の大きさで作る事が出来たのは子供用サイズのワンピースだった。
アイナだってくすんだ紫色が子供受けしない事位解っていたが、質が良い明るい色の布は高い。布の質を落とせば明るい色の布を購入する事は可能だったが……。
嫌だった。
見習い針子にとって“試験”で作る作品は“特別”だ。家族の為でも友達の為でもない、針子としての一番最初の作品。そんな“特別”を、お金が用意出来なかったからといって妥協したくなかった。
そしてこだわって、意地になって――売れ残った。
『変なプライドは棄てなさいよ』と呆れ顔で言った同期は既に一人前の針子として働いている。
(このままずっと売れなかったらどうしよう)
近頃1人になるとふと浮かび上がってくる考えにじわりと滲む涙を歯を食い縛って耐える。その時、
カラン……。
店の扉に取り付けられたベルの来客を告げる音に、慌てて立ちあがり足早にドアへと向かう。
そこには黒い外套に身を包んだ美しい男性が1人立っていた。
(あの外套……王国の騎士様?)
騎士様がうちの店に何の用だろうと訝しげに思いながら近付き、そして続いて店のドアから入ってきた人物の姿を見た瞬間、アイナの歩みは完全に止まった。
(マ、マルチーノ様!?)
そこにいたのはこの町で、いや、この国で最も有名な人物だった。
鑑定と錬金術のスキルを持ち、この世界に5人しかいない上位精霊、花の精霊に愛されし『愛し子』。
そんな人物がこの時期にガレーパを訪れる事は有名でアイナとて知ってはいたが……。
(な、なんでそんなお方がここに? うちは女性と子供向けのお店なのに?)
だが混乱して固まったアイナの疑問は二人の子供が店に入ってきたことにより解消された。
1人は珍しい蒼銀の髪と褐色の肌をした少年。なかなかに整った顔立ちをしている、――が。
(目付き悪っ!)
“絶対あの子堅気じゃない”それが少年への第一印象だ。
アイナにも少年と同じ年頃の10歳になる弟がいるが雰囲気が全く違う。少年から連想されるイメージは暗い路地裏。決して近寄ってはならないそれだ。
そしてもう1人は。
(白い)
なんというか“白い”。
髪も肌も白い。決して不健康な感じはしないがとにかく白い。
そういえばこの町の神殿長も髪が白い、聖職者にはなぜか色素の薄い者が多いと聞いたことがあるが、もしかしたら少女は神殿の関係者なのだろうか。そうぼんやりと考えていると少女と目が合い、微笑まれた事により我に帰る。
「ぁ、っいらっしゃいませ!」
呆けている場合ではない。接客しなくては。
☆
「なっ! パ、ンツがない? だと!?」
私はお店のお姉さんの言葉に目を見開いた。
「あ、はい。残念ながらお嬢様の仰るような品は当店では取り扱っておりません。貴族街の衣料品店にならあるかと思いますが……」
申し訳ありませんと頭を下げるお姉さん――14歳位かな?――に大丈夫ですからと慌てて頭を上げてもらい、目の前に置かれた庶民向けの下着、カボチャパンツを見る。
どうやらこの世界では体にフィットするタイプのパンツは高級品らしく庶民は使用しないらしい。
(マジか~。いや、私スライムだし必要ないっちゃないけどさ。つーか今着ているワンピースもパンツも私の一部だし? ……あれ? もしかしなくても私って現在進行形ですっぽんぽん……)
恥ずかしい女と書いて……。
違う。断じて違う。
無いよりはマシと目の前にあるカボチャパンツと、胸辺りに当て布が施されたタンクトップを3セット適当に選び、早く服をゲットしなくてはと周囲に目を向けると、ピンクや黄色の鮮やかな洋服が目に飛び込んできた。
使っている布は同じでもちょっとずつデザインが違っていて、どれもリボンやフリルを使用したとても可愛らしい物ばかりだ。
(なるほど、これをアラサーに着ろと? ……ふっ)
死ぬぜ! 心がな!
せめてもう少し落ち着いた色はないんかいと死んだ魚の目で店内を見渡していると、一着のワンピースが目に留まった。「ぁ」っとお姉さんの小さな声が聞こえたが気にせず近寄りまじまじと眺める。
それは落ち着いた紫色のワンピースだった。
襟と袖に細かな草花の刺繍が施され、釦が近くの天窓から射し込む光に当たって七色に輝く。綺麗だ。
(これだ! これしかない!)
「これ試着しても良いですか!」
嬉々として振り返ってそう言うと、お姉さんがびっくりしたような顔をし、そしてすぐに戸惑ったように眉をよせる。
「もちろん構いません。ですが……。あの、そちらは……その、お嬢様には地味ではありませんか? もう少し明るいお色の方が宜しいのでは?」
「流行りの型でもありませんし……」と何故か沈んだ顔で他の商品を進めてくる。
もしかして売りたくないのだろうか? けれど私はこれが気に入った。形も綺麗だし縫製もしっかりしている。
それに何よりもこれなら抵抗なく着れる、というかこれ以外は着れない。
「そんな事ないですよ。確かに落ち着いた色ですが私は品があって良いと思います。それにこの襟と袖の刺繍なんて凄く細かくて綺麗だし、この釦も可愛い。私これが欲しいぃい!?」
必死にこれが欲しいんです売って下さいアピールをしながら振り返った私は、驚愕した。
お姉さんが泣いていた。
【後書き】
女の子の登場です(^.^)
でも小話なのに前後編(-.-)
しかも後編まだ出来てない(_ _)
ソラの買い物はアイナちゃんが呼んだ下働きの男性が対応しています。普通の服や赤ん坊向けならともかく下着類は同性の従業員が対応します。




