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元アラサー女子はスライムとして生きて行く(仮)   作者: おんじゃく
第二章~邂逅と別離~

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54 商人

 ブリュノーさんと神殿長さんが笑顔で睨み合う。

 それぞれの顔に「若造が」「老害が」と書かれているのが見えるが――ぶっちゃけどっちもどっちだ。

 そう私が心の中で思っていると、大人な師匠さんが仕方ないとばかりにと口を開いた。


「神殿側の話はとりあえず終わりだろう。ブリュノー殿の話とはソラが相続した月鳥の羽に関する事で間違いないか?」


 師匠さんの言葉にブリュノーさんは「マルチーノ様は話が早くて助かります」と余計な一言を発しながら椅子ごと体をこちら側へと向ける。


(お、大人気ない……)


 神殿長さんは……。うん、見なければよかった。


「マルチーノ様の仰るとおりです。私にその月鳥の羽を譲って頂きたいのです」

「……確かに月鳥の羽で『色無し』は珍しい。だがブリュノー殿程の商人が求める品とは思えんのだが?」


 『色無し』とは新品――というよりも長い間人に触れられていない月鳥の羽を指すのだそうだ。

 月鳥の羽は持ち主によってその羽の色を変える。もちろん永遠にではなく、持ち主が身に付けていなければやがて元の『色無し』の状態に戻る。ただし色を抜くのには最低でも三ヶ月はかかるらしい。

 

「『色無し』の月鳥の羽が欲しいのですが約束の日までもう時間がないのです。それに今回は商人としてではなく一個人として必要としておりまして」

「……相手はアーシェラ嬢か?」


 師匠さんの言葉にブリュノーさんは肩をすくめ苦笑で返答した。どうやら当たりのようだ。

 ブリュノーさんは前のめりになり真剣な眼差しでソラに語りかける。


「相続奴隷として幼い頃から働いていた君なら分かっているだろうがあえて言わせてもらうよ。――どんなに綺麗事を言っても生きる為にはお金が必要だ、とね。保護者であるマルチーノ様は君に不自由な思いはさせないだろう。けれど、君は本当にそれで良いのかい?」

「おい、わしを引き合いに出すな」


 師匠さんに諭されたブリュノーさんはすぐに「申し訳ありません」と謝罪をして引き下がった、だがもう遅い。

 ブリュノーさんの言葉を受けたソラの顔には明らかに迷いが生じていた。

 そんなソラにブリュノーさんは更に言葉を付け足す。


「もちろん無理を言うのですから最低でも相場の10倍は払うつもりです。もしこの場で即決して頂けるのなら……そうですね20倍の値段で引き取りましょう」


 現在の月鳥の羽――『色無し』――の相場は一枚3万ペソ。

 珍しい品にしては思っていたより安い。ブリュノーさんが求める位だからもっと高価な物だと思っていた。

 けれど改めて考えればそうだろうなとも思う。

 月鳥の羽は頑張って探せば無料(タダ)で手に入れられる品物だ。

 そもそも農夫のテッドさんがペンダントにして奴隷であるソラにプレゼントしようと思う位なのだからそんなに高い筈がない。


 3万の品がブリュノーさんに売れば30万、今ここで即決すれば60万になる。

 かなりの金額だ。

 普通に売れば3万の品を60万で買い取ると言われれば余程の思い入れがない限り大抵の人は売ってしまうだろう、生活に不安がある人ならば尚更だ。

 そして『今なら』と期限を決める事により相手の不安と焦燥感を煽り、短時間での決断を迫る。商人としては当然の、駆け引きともいえないやり方。――けど。


(こういうやり方嫌い。それに……)


「ソラ。もう一回見せて」


 ソラは戸惑ったような顔をしながらも月鳥の羽を私の手の平に乗せてくれた。――私はソラの首に月鳥の羽をかけた。


「ハル?」

「駄目だよ」


 ソラの手を取って月鳥の羽に――ちょうど心臓の部分に――当て、ソラの手を上から強く押さえる。


「お金なら稼げばいい。師匠さんに申し訳ないと思うのなら、これから頑張って働いてちょっとずつ返していけばいい。だけどこの羽は、テッドさんの形見は、売ったらもう二度と手に入らない」

「……っ」


 私の言葉に月鳥の羽をソラがギュッと握りしめたのが分かった。当たり前だけどソラはこれを売りたくないんだ、だったら――


 その時「はぁ……」とわざとらしいため息が聞こえてきた。もちろんブリュノーさんのため息だ。


「お嬢さんは世間というものを知らないようだ。――テッドという農夫は彼の『自由』を望んでいたのだろう? 『自由』にはお金が必要なんだよ? そもそもその月鳥の羽は死亡届けが出されていなければ借金の返済に充てられていた物だろう?」


 ブリュノーさんは子供の我儘を諭すような呆れたような、苦笑混じりの顔をこちらに向ける。目は……「黙れ小娘」の目だ。


「お金がなくてもソラはもう『自由』です。それに……」

「それに? なんだね?」

「ブリュノーさんのお嬢さんは人の遺品をプレゼントされて喜ぶような方なのですか?」


 形見分けならともかくブリュノーさんのお嬢さんとテッドさんは赤の他人のはずだ。

 何の関わりもなく知りもしない人の遺品をプレゼントされるなんて……私なら嫌だ。

 そう思って反撃したのだがブリュノーさんはその問いかけを鼻で嗤った。


「わざわざそれを娘に言う必要があるのかね?」


 あまりにもあんまりな言葉に唖然とする私を見て「そんな事を気にしていたら商品など売れないよ。そもそも商品を買う時にそれがどういった経緯で売りに出された物なのかを気する人間などいないだろう?」と続け、そして最後に「物は物だ」と言い放った。


「………………あ~そう。ソウデスネ」


 私の言葉を肯定と捉えたブリュノーさんは「そうだろう?」と一人満足そうにうなずく。

 師匠さんと目が合う。

 私の無言のお願いに仕方なさそうにうなずく師匠さん。よし、許可は得た。

 にんまりと満面の笑みを浮かべた私にソラが『げっ』って顔をした。あと警護と称してブリュノーさんの斜め後ろで聞き耳たててた副隊長さんも。……ひどくね?


 とりあえず目の前の問題をとっとと片付けようと深呼吸をひとつ。そして商人に向き合う。


「……ブリュノーさん、私、師匠さんの弟子になったんです」

「は? あぁ、そうだね、知っているよ?」


 突然何を言い出すんだこの子供(ガキ)みたいな目で見られたけど気にせず続ける。


「王都で修行するんです」

「そうだろうね」

「アーシェラ嬢ともお会いする機会があるでしょうネ」

「……そう、だね」


 さすが商人。私が今から言わんとする言葉を悟ったようだ。口元がピクピクしている。


「アクセサリーの話になるかもしれませんネッ」

「……」

ソラの(・・・)ペンダントをアーシェラ嬢が身に付けていらっしゃったら『あら嫌だわお嬢様! ご存知ありませんの!? それ遺品ですわよ!』――って言っちゃうかもしれませんネッ! ハハッ!」

「……」


 おう、どうした商人? 顔色が悪いぞ?

【後書き】

ハルさんも大人気ない。ちょっと怒ってるんです。許してあげてください。


☆おまけ~ハルさんの無言のお願い~☆

ハル(ヤっちゃっていいですか?)

師匠さん(……ほどほどにな)

ハル(イエッサー!)


ハルさんに甘い師匠さんでした。

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