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元アラサー女子はスライムとして生きて行く(仮)   作者: おんじゃく
第二章~邂逅と別離~

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53 月鳥の羽

「マルチーノ様が新しいお弟子さんをとられたと聞いてはいましたが、まさかこんなに可愛らしいお嬢さんだとは思いませんでした」


 そう言って私達の前に立つ商人は思っていたよりも小柄な人物だった。

 姿勢が良く着ている物は派手だが品があり嫌味を感じさせない。自分の見せ方を知っている人だ。


「お嬢さん達のお名前を伺っても?」

「この子はハルだ。隣にいる少年がソラ。二人共わしが身元保証人だ」

「ハルと申します。よろしくお願いします」

「ソラ…………です」


 師匠さんの紹介に合わせて挨拶をする私とソラに「こちらこそよろしくお願いします」と笑顔を向けてくるが、その瞳に感情はない。

 子供だからと適当に対応しないのはさすがと言うべきだろうか? もちろん師匠さんが保証人である事と、私が『錬金術』のスキル持ちである事も関係しているだろうけど。


「お嬢さんは何歳ですかな?」

「アーシェラ嬢と同じ年だ」


 師匠さんが答えに「そうですか」と言ってブリュノーさんは口元を撫でた。

 初めてその瞳に人間らしい感情が灯る。

 ブリュノーさんの感情を動かすアーシェラ嬢という人物が気になったので師匠さんに問いかけた。


「アーシェラ嬢?」

「ブリュノー殿の御令嬢だ」

「お嬢さんと同じ『錬金術』のスキル持ちでね。王都で顔を合わす事もあるだろう。少し気難しい所もあるが悪い子ではない。良ければ仲良くしてやってくれるかな?」

「はい、勿論です」


 どうやらブリュノーさんには私と同い年――人間設定の私の年齢だけど――のお嬢さんがいるらしい。しかも『錬金術』のスキル持ち。

 6歳の頃に『錬金術』のスキルに目覚め、現在は師匠さんとは別の人の元で見習いとして勉強しているそうだ。

 才能もあるがそれに甘んじない努力家でもあり、史上最年少で一人前の『錬金術』使いになるのではと噂されるほど優秀なお嬢さんらしい。


 それはさぞかし自慢の娘さんだろうと思ったのだが、なぜか娘さんの事を話すブリュノーさんの顔は――なんというか困惑気味?

 なんでだろうと違和感を覚えつつも簡単な自己紹が終わると、ブリュノーさんがソラに残された遺産についての話し合いに自分も参加したいと言ってきた。

 師匠さんにどうするかと問いかけられたソラは少し悩んだ後に頷いた。

 納得したというよりも、ブリュノーさんの「神殿側との話が終わった後でも構いませんよ? いつまででもお待ちしますから」の笑顔付の言葉に逃げられないと判断したからだろう。


☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆


 神殿長さんに案内され、応接室のソファーに師匠さん、ソラ、私の順で座る。

 対面には笑顔だが若干不機嫌そうな神殿長さん、その後ろにダグさん――ダグさんは神殿長さんの護衛兼この神殿の副神官だそうだ。

 そしてそんな私達を横から商人のブリュノーさんが1人用のソファーに座って眺めている。

 ちなみに騎士の皆は少し離れた所で周囲を警戒中だ。


 神殿長さんがじろりとブリュノーさんをねめつける。


「ブリュノー様。ソラ君とソラ君の保護者でもあるマルチーノ様の許可があるとはいえ、今から話す事は全て他言無用でお願いします。また私の話が終わるまで決して口を挟まないで頂けますか?」

「もちろんですとも。神殿長様の話に口を挟むような事は致しません。神殿側の話が終わってから個人的にお話をさせて頂きます。ああ勿論、神殿長様のお手を煩わすような事は致しませんのでご安心ください」


 と神殿長だけではなくこの部屋にいる全員に宣言する。

 直訳すると神殿長さんとの話が終わるまでは大人しくするが、それが終わったら商談するぞって事だ。

 そして神殿長のお手を煩わす事はしない、の本当の意味は神殿側の話には口を出さないのだから商人側の話に神殿側は口を挟むなってところだろう。

 ちらりと神殿長さんの顔を見ると、その意味に気付いたのか苦虫を噛み潰したような顔になっていた。ブリュノーさんは笑顔のままだ。

 そんな二人のやり取りをやれやれとため息をつきながら師匠さんが神殿長に話しかける。


「それで? テッドという農夫はソラに何を残したんだ?」

「現物をお渡しします。……ダグ」


 名前を呼ばれたダグさんが小さな木の箱を神殿長さんに手渡す。

 何の装飾も施されていない質素な箱を開けると、その中には白い布に包まれた何かが入っていた。

 箱をテーブルの上に置いた神殿長さんの「どうぞ」の言葉に師匠さんはソラに視線をやる。

 ソラは僅かに躊躇ったのち、箱から取り出して布を開いた。

 そこには焦げ茶色の革に吊るされた銀色の鳥の羽のペンダントが入っていた。


「……月鳥(つきどり)の羽か」

「月鳥?」


 疑問の声をあげた私に師匠さんが教えてくれる。

 月鳥とは満月から新月の夜に現れる鳥の姿をした精霊の事で、嘘か本当かは分からないが月鳥が月の光を食べる事により月が欠けると言われているらしい。

 その月鳥が現れた晩の早朝に、ごく稀に銀の羽が落ちており、それを見つけるのは吉兆とされるそうだ。


 どう見ても良くできた銀細工にしか見えないのだが、このペンダントトップの鳥の羽は本物の鳥、というか精霊の羽だそうだ。

 ソラの了承を得て手に持たせてもらう。

 軽い、そしてふわりと柔らかい。

 けれど同時に金属の光沢も持ち、光が当たる角度によって青にも、白にも、銀にも見える。

 凄く綺麗だ。


 これは欲しがる人も多いだろう。商人であるブリュノーさんが求めるのも分かる気がする。

 そう思ってブリュノーさんを見て思わず首をかしげた。

 ブリュノーさんは月鳥の羽ではなく懐から懐中時計を取り出して時間を見ている。欲しがるどころか興味すら無さそうだ。


(なんで? これが欲しいんじゃないの?)


 普通、自分の求めている物を目の前に出されたらどんな状況だろうが目を奪われるのではないだろうか?


「テッドが手に入れてペンダントに加工するよう職人に頼んでいたのですが、出来上がる前に亡くなってしまったそうです。彼には他に身内もおらず、困った職人が神殿に相談に来て発覚しました。ですがその時には既にソラ君の死亡届けが出されていましたので神殿で預かる事になったのです。……職人の話では知り合いの空色の瞳の少年に渡すのだと言っていたそうです」


 月鳥は精霊だ。目に見えても捕まえる事は出来ない。

 月夜の晩に誰にも縛られる事なく自由に空を舞う。――そんな月鳥は『自由』の象徴なのだそうだ。


「……テッドさんもソラに自由でいて欲しかったんだね」


 そう呟きながらソラの手の平にそっと羽を戻した。

 手の平に乗せられた月鳥の羽に視線を落として複雑そうな顔をして黙り混むソラに神殿長さんが優しく微笑む。


「ソラ君に渡せて良かった。テッドも喜んでいるでしょう」


 少しだけしんみりとした空気が室内をみたす。

 だがそんな空気を吹き飛ばすような張りのある声が室内に響いた。


「話はもう終わりましたかな?」


 神殿長さんの顔が嫌そうに歪んだ。

【後書き】

KY商人。

まぁ、わざとだろうけど……。

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