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元アラサー女子はスライムとして生きて行く(仮)   作者: おんじゃく
第二章~邂逅と別離~

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52 敵?味方?

 ソラが≪ラ・ルゥ≫である事を知ると、隊長さんは「奴隷に戻らずに済んで良かったなぁ」とソラの頭をぐっしゃぐっしゃに撫でまわして喜んでくれた。

 ソラは迷惑そうな顔で隊長さんの手を払いのけていたが、本気で嫌がってはいなかった。

 それになんとなくだがすっきりとした顔をしている。

 ソラは自分が≪ラ・ルゥ≫であり、もう奴隷にならずに済む事を神殿に来る前から知っていたようだが、やはり神殿長という立場にいる人にはっきりと奴隷にならなくても大丈夫だと言われた事で安心したのだろう。

 隊長さんだけでなく他の騎士達からの「良かったな」という声にも、表情はあまり変わらないもののきちんと反応を返せている。

 まだ完全に心を開いている訳ではないが、この様子なら騎士の人達とは上手くやっていけそうだ。

 師匠さんも私と同意見らしく、問いかけるように視線を向けると頷いて肯定してくれたので、私もほっと胸を撫で下ろした。

 師匠さんも嬉しそうだ――表情は変わらないけど。


 だが神殿長さんに隷属期間や借金の残高については別室で詳しく説明したいと言われた途端に、師匠さんの眉間に皺が寄る。


「なぜ別室に行く必要がある? 奴隷期間と借金の残額が分かる証明書を貰えればあとは役所の仕事のはずだ」


 そう、≪ラ・ルゥ≫だからと言って借金が無くなる訳ではない。≪ラ・ルゥ≫はあくまで隷属を付与出来なくなるというだけの物だ。

 ソラには少なくともあと二年分の借金が残っている。

 それを証明する書面は神殿で作成・発行されるが、その後は役所で手続きを行うのが一般的だ。

 今日はソラの隷属状態がどうなっているかを調べ、残りの隷属期間と借金の額を確認してそれを解約するための書類を発行して貰うために神殿に来たのだ。

 本来であれば役所で借金の返済を済まし、それを証明する書類を持って再び神殿に赴き、神殿長さんに隷属解除を行ってもらう予定だったのだが、ソラが≪ラ・ルゥ≫である事が判明したために、神殿から証明書を貰えればそれで終わりのはずだ。


 書類といっても相続奴隷の隷属を解除する書類はそんなに複雑な物ではないそうで、唯一手間取るのが神殿長の許可を得る事なのだそうだが、今回はそれには当てはまらない。

 確かに死んだはずの奴隷が生きていたなんて珍しい事ではあるが、きちんと残りの期間分の借金を払えば問題ないはずだ。

 別室で説明を受ける必要はない。というか受けるほどの説明はない。


 神殿の廊下を進みながら、神殿長さんが申し訳なさそうな声で言った。


「実は少々厄介な事になっていまして」

「厄介? どういう事だ?」

「ソラ君に遺産を残した者がいるのです」

「俺に? 人違いじゃないか?」


 訝しげに眉を寄せるソラに神殿長さんが首を振る。


「ソラ君で間違いありません。その方は生前、自分に何かあった場合の遺産の全ての受取人をソラ君にすると神殿で誓約されています。当時の書面も全て残っていますし、前神殿長にも確認しました。……テッドという農夫に心当たりは?」


 農夫の名前にソラが足を止め息をのむ。

 小さく「じいさん?」と呟くのが聞こえた。

 前を歩いていた神殿長さんも足を止めて振り返りソラを見る。


「心当たりがあるようですね」


 ソラは答えずに俯く。顔は見えないがきつく拳を握り締めていた。

 そんなソラを視界の隅に入れつつ師匠さんは質問を重ねる。


「……確かに珍しい事ではある。だが問題はなかろう? 何が厄介なんだ?」

「テッドさんが亡くなられたのはソラ君の死亡届けが出される前でしたので、土地や建物、金銭は既に借金返済に充てられています。ただ、ソラ君の死亡届が出された後にひとつだけ査定から漏れていた物が見つかりまして」

「それが厄介事の原因か?」

「はい、それを詳しくお話しします」


 そう言って案内された部屋の中に身なりの良い男が1人立っていた。

 絹独特の光沢のある質の良い焦げ茶色のスーツを身に纏い、赤と緑の大きな宝石が付いた指輪を右手の中指と薬指に嵌めている。

 40代後半位の年齢だろうか、白髪混じりの灰色の髪は整髪剤で後ろに丁寧に撫で付けられ、腹部に付いた余分な肉が男に貫禄を与えていた。


(どっかの企業の会長っぽい)


 そんな感想を持った。

 私と目が合うと驚いたように目を見張ったが、すぐににっこりと微笑んできた。

 誰だろうと疑問に思っていると、私の前に神殿長さんが身を割り込ませ男の視線から私とソラを隠す。


「ブリュノー様? なぜ貴方がここにいらっしゃるのですか? こちらからお呼びするまで神殿には来ないようにとお伝えしていたはずですが? ……神官達にも通達していたはずなんですがね」


 さっきまでの神殿長さんとは別人のような冷たい声だ。表情も固く、部屋の隅で縮こまっている若い神官と男性を睨み付けている。

 神殿長さんの鋭い視線を受けた若い神官さんは真っ青だ。

 それに対してブリュノーと呼ばれた男は全く動じておらず、笑みさえ浮かべている。


「申し訳ありません猊下。しかし少年が見つかったと聞きいてもたってもいられず……。ああ、私を案内してくれた神官様をどうか叱らないでやって下さい。私の気持ちを察して案内してくださったのです」


 姿は見えないが男の声が聞こえる。優しげで落ち着いた張のある声だ。

 その言葉に神殿長さんの側で常に影のように控えているダグと呼ばれていた神官が部屋に入る。


「どのような理由があっても神殿において神殿長の言葉は絶対です。クライブ=ブルートン!」

「は、はいっ!」

「今すぐ自室に戻れ。許可があるまで出るな。……詳しい話は後で聞く」

「か、畏まりました」


 真っ青な顔で震えながら一礼をすると若い神官は足早に去って行った。

 副隊長さんが側にきて私とソラにそっと耳打ちしてくれた。


「クロード=ブリュノー。この国で1・2位を争う商会のトップです。奴隷も扱っています」


(げっ。本当に企業の会長クラス!?)


「少年だけでなく可愛らしいお嬢さんもいらっしゃるようですね? マルチーノ様が新しいお弟子さんを取ったと噂になっておりましたが、もしかしてそちらのお嬢さんがそうですかな? 『今後の取引』の為にも紹介していただいても宜しいですか?」


 どうやら私を紹介しなければ『今後の取引』とやらに影響するようだ。

 無理矢理ここを立ち去って『今』を乗り切る事も可能だが、明日以降、再び神殿を訪れてもこの男性には会うだろう。

 こういう人はとにかくシツコイ。


 何処にでもいるんだなぁ……と前世の取引先を思い出して、思わず遠い目をしてしまった。


 神殿長さんは師匠さんにどうするかと目線で問う。

 師匠さんはため息をつきながら今から商人(あいつ)に会うが大丈夫か? と私とソラを見た。

 ソラは顔を上げて覚悟を決めたように頷き、私も仕方ないと頷いた。


 奴隷を扱う商人だからといって、この男性を悪い人だと決めつけるのは時期尚早だろう。

 私はこの男性を知らないし、何をしたいのかも、何が欲しいのかも、何を求めているのかも知らない。

 そもそもテッドという人がソラに何を残したのかも知らない。


 けどひとつだけ確かな事がある。


 ソラの敵は、私の敵だ。

【後書き】

なんか商人出てきた……。

あれ? こんな人予定にないんですけど?

というか、神殿長さんと楽しくお話して盛り上がって終わる予定だったんですけど!?


※農夫のテッドに関しては第1章の番外編をご覧ください。

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