49 番外編~騎士達の見解~
「おう、お疲れ! どうだった?」
「お疲れ様です。どうでしたか?」
隊長と副隊長の問いにアレックスは思わずにんまりと嗤った。
毎年この時期になるとドクターは高級ポーションの材料となるレナトゥスを求めて山に登る。
俺が第7部隊に配属されてもう3年になるが、ドクターは毎年第7部隊に護衛を依頼してくれている。
別に難しい仕事ではない。
レナトゥスがある山にいる魔物は弱い種族ばかりだし、夜営地となる場所までは舗装こそされてはいないものの馬車が一台通れる道もある。
戦いなどとは無縁の民間人ならいざ知らず、常日頃から危険地帯にいる魔物と命のやり取りしている第7部隊にとっては余程運が悪くない限り怪我をする事も無い。
それでもドクターが第7部隊を指名してくれるのは第7部隊のポーション事情を気遣ってくれているからだ。
国から護衛や討伐などの命令が下った場合、事前に一定数のポーションが部隊に支給されるのだが、このポーションには返却の義務がない。
使用しなかったポーションを保管しておいて別の仕事で使用しても構わないのだ。
僅かとはいえ、見習い錬金術士と契約をしていない第7部隊にとっては最高級のポーションを確保できる貴重な仕事といえるだろう。
今年も護衛をしつつ山中での訓練をして終わる簡単な仕事だと思っていた、だが今回は少々様子が違った。
レナトゥスを手に入れ、もう2・3日他の野草等を採取して帰ろうかという時に、子供を二人保護したのだ。
ひとりは目付きの悪い奴隷の少年、もうひとりは人懐っこそうな少女だ。
だからといって別段興味は無かった。
詳しく事情を聞いたとしても俺達に出来る事などない、せいぜいガレーパまで連れていって孤児院に預ける位だろう。そう思っていたのだが事情が変わった。
人懐っこそうな少女、ハルが『錬金術』のスキル持ちだと判明したからだ。
ポーション問題に日々悩まされている第7部隊の前に『錬金術』のスキルを持った者が現れるなんてそんな都合のよい話があるかと思ったが、ハルの話に矛盾は無い。無いが怪しい。
そのため、今後のためにも馬車内で二人を見極めろと副隊長から命令を受けたのだが――。
☆
「あいつら面白ぇっす!」
「面白い――ですか?」
満面の笑みでぶんぶんと頷くアレックス。
どうやらあの二人を気に入ったようだ、人間嫌いなアレックスにしては珍しい。そう思いつつアレックスの隣にいるグリシャに視線を向け報告をするよう促す。
「ハルさんは好奇心が強い、初対面の人間にも物怖じしません。ですが引くときは引ける子ですし頭も良い。ただ、人懐っこそうな笑顔に騙されそうになりますがあの子は人をよく見ています。副隊長から聞いていたとおりの子でした。――子供だからと油断しているとこちらが食われますよ、あれは」
そして最後に「あの子本当に10歳なんですか?」と言って、グリシャは心底疲れたようにため息をついた。その様子を横目に今度はアレックスを見る。
「グリシャさん、自分が獣人の血を引いてるってばらしちまったんですけどね――」
「おい! アレックス!」
「いいじゃないっすか」
ニヤニヤ顔のアレックスをグリシャが慌てて制する。
「なんだ、もうばらしちまったのか?」
「……話の流れで言ってしまいまして。黙っていても王都に行けばいずれはばれますから」
「それもそうですね。ですがハルさんは騒いだりはしなかったのでは?」
ハルなら驚きはしてもすんなりと受け入れそうな気がする。「へ~そうなんですか~」とか言いそうだなと思っていると、グリシャが戸惑ったように口を開いた。
「……俺の。その……獣姿が見たいそうです」
「「……は?」」
「ケモミミを触りたいってさ!」
「けもみみ? ですか?」
「けもみみって……耳の事か?」
「……はい、獣の耳を略して『ケモミミ』と言うそうです」
「ケモミミ触らしてくれるんなら来月のポーション代無料にするって言ってたっす!」
「アレックス!? お前それ言うなって!」
「……」
「……ふ、副隊長? ……嫌ですからね。…………副隊長!?」
「あ~レイ? なんか言ってやれよ」
ヨハンの声と、どんどん顔色を悪くしていくグリシャに安心させるようににっこりと微笑む。だがヨハンとグリシャは盛大に顔をひきつらせた。失礼な。
「なんなんですか二人共、その顔は。いくら私でも本気で嫌がる仲間を売ったりはしませんよ」
私の言葉にグリシャは安堵のため息を深くつき「そうですよね、すみませんでした」と謝罪したが、ヨハンは何も言わずにちろりと疑うような眼差しを私に向けた。
さすがヨハン。付き合いが長いだけの事はある。
いざとなれば話は別だというのは言わないでおいてあげた方がグリシャの為だろう、と思った私の心の声に気付いたようだ。
「それで? ソラの方はどうでしたか?」
私の言葉にグリシャとアレックスが顔を見合わせると、困惑気味にグリシャが口を開いた。
「ソラ君は警戒心が強いので私はまだなんとも……。育ってきた環境が環境ですからね。ただアレックスが――」
「あいつ。これに気付きやがった」
そう言いながらアレックスは腰にあるベルトのバックル部分を指で弾き、キンッという高い金属音が室内に小さく響いた。
それは一見何の変哲もない革のベルトだ。
だがアレックスのベルトのバックル部分には小型のナイフが隠されている。
普通の人間なら気付くことはないし、隠し武器の知識があったとしても疑う程度だろう。
「それは……。なかなか観察力がありますね」
「盗賊と暮らしてたならある程度の知識はあるんだろうが……。いつ気付かれた?」
「ヒントを出してすぐっすね」
その報告に思わず息をのむ。
様子見のためにもあえてヒントを与えるような動きをしろと指示は出したが、そんなにも早く気付かれるとは予想外だ。
「疑われるのではなく『気付いた』という確証は?」
「あるっす。気付く前から距離はとってたんですが、気付いてからは武器が届かない距離を保つようにしてました。あと、ハルと俺が直線上に並ばないように気を配ってましたね」
そう言ってアレックスは3つ連なったピアスを弄りながら「これはただの勘っすけど」と言った後、本性をさらけ出した酷薄そうな笑みを浮かべ口を開いた。
「俺と同じ――あいつには殺しの才能がある」
★
「……」
「ハル? お前なに眉間にしわ寄せてんだ? ……分裂うまくいかなかったのか?」
「それはうまく出来たけど……あ、帰ってきた」
風呂あがりのソラと会話をしていると、天井近くにある排気口からにゅるりと一匹の白いスライムが出てくる。
「おかえり私」
「ただいまボス」
ペチンと触手でハイタッチを交わすと、役目を終えた分身は私に吸収されるように姿を消した。
「……問題なさそうか?」
「うん。この建物内程度なら離れても大丈夫っぽい」
「じゃあなんで機嫌悪そうなんだ?」
「……明日」
「明日?」
「明日釘刺しとく」
「釘?」
「大丈夫」
「?」
☆
翌朝。神殿に向かう前に打ち合わせをしている隊長さんと副隊長さんに笑顔で駆け寄る。
「隊長さん、副隊長さんおはようございます」
「おはようございます」
「おう! おはよう!」
「あの……。私、ひとつ言い忘れていた事があって……」
もじもじしながら恥ずかしそうにうつ向くワタクシ。
「なんだ?」
「どうしました?」
不思議そうな顔をする二人に、顔を上げてキラキラした笑顔で私は宣言した。
くらえ。
「――ソラに変な事させたらポーションに下剤入れるから」
「「…………ぇ?」」
「遅効性の」
「「…………」」
「めっっっちゃ! きっついやつ!」
「「…………」」
「それだけでーす。じゃあ今日もよろしくお願いしまーす」
笑顔のままペコリと頭を下げ挨拶を終えると、私は離れた所で待っている師匠さんとソラの元へ駆け戻った。
【後書き】
もうひとつの副題は「撃破」。
撃破されるのが騎士達の思惑なのか腹なのか……。
ハル「ランダムで入れちゃう」




