44 番外編~副隊長の思惑3~
「戦い方をですか?」
驚きに目を見張るもすぐに納得した。
ハルが頷き、隣に座るソラの方を見たからだ。
戦い方を学びたいのはハルではなくソラかと問うと、そうだと返事がかえってきた。
成る程と納得しながらソラを観る。
目付きの悪い少年だ。
年齢のわりに体が小さく、細すぎる手足を見れば栄養が足りていない事は一目瞭然だ。
それに、褐色の肌のため分かりにくいが、ぼろぼろの服から覗く手足にはかなりの数の傷痕が確認できた。
日常的に暴力を奮われてきた者の体だ。
(だが目は死んでいない)
青い瞳には強い意志が感じられた。
決意した者の瞳だ。
(こういう瞳には弱いんですよね)
ちらりと隣に座る上司兼親友を見る。
そして予想通りのぽけーとした顔を見て脱力感に襲われた。
(戦っている時は……いえ、今はそんな事を考えている場合ではありませんね)
でももう少し真面目な、せめて話をきちんと聞いているふりをしてはくれないだろうかと思いながら二人に視線を戻す。
「方法は様々ですが、手っ取り早いのは冒険者になるか騎士見習いになるかですね」
冒険者は自分のランクに合った依頼をこなしレベルを上げながら実戦で戦い方を学んでいく。
ただし訓練などで武器の正しい使い方を学ぶ事はないので、無駄な動きが多く、武器の使い方を知っている者からすればかなり不格好な姿に映る。
もちろんそれが悪いとは言わない。
敵に次の攻撃を悟られないという意味では基本に忠実ではない無頼の剣の方が有効な場合も多々ある。
デメリットは病気や怪我をした場合の保障がないという事だろう。
もちろん冒険者でもポーションを購入する事は可能だが、巷に出回っているのはランクの低い低級ポーションばかりで、大きな怪我に効果のある中級ポーションを購入し使用できるのは、ある程度のランクにあがった上位の冒険者位だ。
もうひとつの方法、騎士見習いは、国に所属しているため怪我や病気になっても騎士団に配布されているポーションを優先的に使用してもらえる。
戦い方も様々な武器の特性なども交えて基礎から学べるので、戦い方を学ぶには良い環境が整っているといえる。
しかし、見習い期間中の初めの1~2年は、基礎体力造りや馬の世話、先輩騎士達の服の洗濯のような下働きの仕事が多く、剣を振るって戦闘に参加するような仕事は基本的にはない。
実際、理想と現実のあまりの違いに嫌気がさして辞める者も多くいる。
そもそも最低でも15歳にならないと騎士とは認められない為、ソラはあと4年間は騎士にはなれない。
説明が終わるとハルが小さく「自営業か4年後に正社員になることが決まっているアルバイト……」と呟くのが聞こえた。
ジエイギョウとセイシャインとアルバイトとは何だろうと思ったが、口を挟まずに二人の反応を待つことにする。
すると隣でぽけーっとしていると思っていた男が突然喋りだした。
「うちに入るか?」
「へ?」
「……は?」
(……ヲイ)
ヨハンの言葉にソラとハルが驚きの声をあげる。
いや、驚いたのはハルで、ソラは警戒したような声だったが。
というよりいきなり何を言い出すんだこの脳筋。
「……ヨハン」
ちょっと黙れの意味を込めて名前を呼んだが通じなかった。
「ソラは光魔法が使えるんだろ? うちには光魔法を使える奴がいないからちょうどいいんじゃね?」
「……それは、そうですが」
頼むから余計な事は言うなよ。
そう願ったが私の願いは聞き届けられなかった。
「ソラがうちに入ればハルは俺達とポーションの契約を結ぶだろ?」
「な!」とヨハンは笑顔でハルの方に身を乗り出す。
(この脳筋が!)
そんな事を言ったらソラがハルの契約を止める可能性が高いだろうが!
今のはソラを餌にハルと契約したいと言っているようななもの……というより言ったのだこいつは。
ハルとソラ。
おそらくこの二人の絆は強い。
ソラが戦い方を学びたいと言ったのもハルの為だろう。もちろんそれ以外の要因もあるだろうが一番はハルだ。
これは勘だが間違ってはいないだろう。
そんな二人に対して、どちらか一方を利用するような話をするのは不快感と不信感を与えるだけだ。
案の定ソラは不快げに顔を歪めて私達を睨んできた。
ハルもヨハンの意図する事に気付いたはずだ。さすがに不愉快そうな表情をしているだろうとそっと伺って。驚いた。
「良いんですか!? 是非お願いします!」
ハルは嬉しそうにヨハンの方に身を乗り出していた。
「おい!」
慌てたのはソラだ。
まあまあとソラを宥めたハルは「少しソラと二人だけで話して来てもいいですか?」と腰をあげながら私に問いかけてきた。
「あ、ええ、はい。構いませんよ」
「ありがとうございます。そうだこれ。昨日、師匠さんに材料を頂いて私が作ったポーションです。待っていただいている間に確認して下さい」
「一応師匠さんに確認してもらって売っても問題ないと確認済みです」ハルはそう言うとポーションを3本テーブルの上に置き、ソラの腕を引っ張ってベッドのある部屋へと消えていった。
ハルの予想外の反応に唖然としていたが、はっと我に返る。
とりあえず今は二人を待つしかないと思い、テーブルの上に置かれたポーションをひとつ手に取りドクターにポーションのランク聞く。
「ランクは4~6だ」
「4~6! 素晴らしい、さすがドクター。どんな教え方をされたんですか?」
「……まだ何も教えてなくてそのランクだ」
その言葉に私だけではなくヨハンとハルムートも息を飲む。
『錬金術』で作成されるアイテムには全て1~10のランクが付けられる。
ランクだけ聞くとハルのポーションは平均に思えるだろうがそれは違う。
作成方法をしっかり学んだ見習いの作成するポーションのランクの平均は2~4。
なんの知識もなく作成したポーションのランクが4~6ならば、ドクターに師事したハルが作ったポーションはどれ程のランクとなるのか。
もしかしたらハルは上級ポーションを作る事ができる才能を持った『錬金術』持ちかもしれない。
そこまで思い、いくらなんでもそれは無いと首を振る。
(さすがに上級ポーションは期待しすぎですね。ですがハルさんが優秀というのは紛れもない事実。ドクターに師事すればランク8~10のポーションも作れるようになるかもしれない。……将来が楽しみですね)
ヨハンのせいで予定は若干狂ったが結果的には問題ない。
ヨハンが言った第7部隊に光魔法を使える者がいないことも事実だし、光魔法が使用できる隊員が欲しかったのも事実だ。
それにソラが第7部隊に入ればハルが契約してくれる可能性が高いのも事実。
(ハルさんはソラ君をうちに入れる気があるようですし、二人の力関係からみてもソラ君が退く可能性は高い。……ヨハンはあとで一発どつくぐらいで勘弁してあげましょう)
ハルのポーションを眺めながら契約書の内容を考える。
唯一気になるのがソラの隷属状態だが、さすがにこれは神殿で確認して貰うほかない。
ソラを雇った商人は既に別の犯罪で奴隷落ちしており一年も前に死んでいた。
店も畳まれ、ソラが働いていた頃の従業員も散り散りになっており見つけるのは困難だ。
ハルムートと契約書の内容や金銭面について相談していると、ドクターの視線に気が付いた。
「どうかされましたか?」
「……あまりあの子達を見くびらんことだ」
第7部隊の現状を説明しろと暗に言われた気がした。『包み隠さず全て話して契約しろ』と。
ハルなら受け入れてくれるかもしれないとは思う。
だが『思う』程度の感覚で危険な賭けには出られないし出るつもりもない。
これは隊員達の命に関わる契約なのだ。
私はドクターに微笑みを返し、ドクターは小さくため息をついた。
数分後、ハルから『第7部隊にソラを見習いとして入隊させ、戦い方を教える事を条件にポーションの契約をする』と申し出があった。
【後書き】
師匠の低級ポーションのランクはもちろん10。
そしてトビーの低級ポーションのランクは……なんと8~10! 駄目なのは味だけ!
色んな意味で凄い子!




