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元アラサー女子はスライムとして生きて行く(仮)   作者: おんじゃく
第二章~邂逅と別離~

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42 番外編~副隊長の思惑~

「話は明日にしろ」


 そうドクターに言われて騎士団隊長と副隊長の私は天幕から追い出された。

 天幕を出ると既に雨は止んでおり、赤く染まった空に小さな星が瞬くのが見え、思っていた以上に時間が経っていた事に気付く。

 途中すれ違った隊員と軽く挨拶を交わしつつ、自分達の天幕へと向かう。

 ドクターとトビーが使っているような立派な物ではなく、周囲の木を切り倒して作った骨組みの上に撥水性のある布を被せただけの簡易なものだ。


 中に入ると一人の青年が書類を読んでいて、顔もあげずに「契約書ですか?」と問いかけてきた。


 察しが良い事を喜ぶべきか、それとも自分の考えを読まれている事に苦笑すべきか迷うところだ。


「いえ、残念ながらそれは明日になりそうです」


 そう言うと青年は顔を上げ、初めてこちらを見てきた。


「ドクターに追い出されましてね」


 私が肩を竦めながら答えると、青年は「少年の目が覚めたから追い出されたんですね」と返し、興味を失ったように手元の書類に視線を戻した。


 彼の名前は“ハルムート=ボット”。

 黒髪黒目浅黒い肌の細身の体型の青年だ。

 今年18になったばかりだが、その冷静沈着な性格と行動を評価され、現在この騎士団の隊長と副隊長である私の補佐役として働いてくれてる。

 信頼出来る青年だし、よくよく話してみると真面目で仲間思いの優しい性格だと気付くのだが、無表情と歯に衣着せぬ物言のせいで誤解されやすい。

 第7部隊に配属された理由を、前隊長と反りが合わなかったせいだと聞かされているが、反りが合わなかった理由はそれだろう。


 今読んでいるのは奴隷や孤児に関する法例書のようだ。

 恐らく保護された子供達の事を気にかけているのだろう。そしてこれから起こる事を予想して……といった所か。


(彼を手放すとは前隊長は本物の馬鹿ですね。私としては優秀な部下が増えてありがたいですが。それにしてもトビーと同い年とはとても思えませんね。まぁ、トビーが特殊なのでしょうけど……)


「契約書? 誰と契約するんだ?」


 そういえばもう一人特殊な人間がいたなと後ろを振り返る。我らが隊長だ。


「……ハルさんとですよ」

「ハルと? なんでだ?」


 少しだけ頭痛を覚えるが気にしない事にした、ヨハンと話をしているとよくある事だ。

 今回の契約は騎士団として行う予定だったので、軽くだが事前に説明していたはずなのだが……。


「ハルさんに会う前にも説明したと思うんですけどね?」

騎士団(うち)に所属して貰うって話だろ?  でも無理だろ?」


 覚えていたのかと思うと同時に無理と断定された事に違和感を覚える。


「無理とはどういう事ですか?」

「ドクターがハルの事をすっげぇ気に入ってる」

「……」

「……」

「……それだけですか?」

「十分だろ?」


 はぁ……と思わずため息が出る。


 指摘された事が事実だったからと、もうひとつの契約したい理由をすっかり忘れているようだったからだ。


「ヨハンの言うとおり、ドクターが二人を引き取ると言うなら、当初予定していた“ハルさんに騎士団に所属して貰う”という契約は不可能です。ハルさんは『錬金術』のスキル持ちですから、ドクターに引き取られた方が安全かつ合理的でもありますし、ハルさん自身もドクターには心を開いているようですからね」


 その言葉に「だろ?」と言いながらヨハンが頷く。


「ですが、だからと言ってもうひとつの“ポーションの契約”を諦める理由にはなりません」


 『錬金術』で作成されたポーションは全て国が管理を行う。

 その為、簡単には手に入らないし使うことも出来ない。


 ただし例外がある。

 それは見習い期間中に作成したポーションだ。

 『錬金術』のスキルを持つ者は必ず師の元で『錬金術』の知識を得る必要がある、これは義務だ。

 『錬金術』は一見素材を錬成空間に放り込むだけのお手軽な作業に見えるが、実はそうではない。さまざまな薬草と病に関する知識、そして病に合わせた薬草の処理方法。

 その処理方法も多岐に渡り、同じ薬草でも処理方法をかえる事により効能が大きくかわる。

 そんな薬草が基本となる物だけでも数百種類。基本以外もあわせると千を優に越える。


 そして見習いはその基本となる数百種類の薬草と、その処理方法全てを頭に叩き込まない限り一人前とは認められない。

 あまりの難しさに20年以上見習いだった者もいたそうだ。


 そんな見習い期間中に作成されたポーションは、正規のポーションよりも品質が劣るといった理由から自由に売買する事が許されている。

 もちろん売買するにしても厳しい規定はあるし、値段や販売個数などを国に報告する義務もあるが、基本は作成した者に権利がある。

 “平等に売買しなくてはならない”という取り決めもあるにはあるが、そこに法的な拘束力はなく、大抵の者は事前に契約を交わした相手とだけ取引を行う。

 売買する度にいちいち契約を交わすのは面倒だし、ポーションの材料を購入したり採集しに行くときに護衛を頼みやすいからだ。

 それに知らない人間よりも、いつも世話になっている相手を優先したいと思うのは人として当然だろう。


 現在、第7部隊と直接契約を交わしている見習いはいない。

 今はヨハンがドクターと旧知の仲の為、見習いのトビーの作成したポーションを融通をきかせて貰っている状態だ。

 しかし……。


「トビーのポーションでは身が持ちません」

「……確かに、あれは酷い」

「俺も嫌ですよ。トビーのポーションは身体にかけても異常状態になりますから。……死にはしませんけど。いざというとき動けなくなるポーションなんて無いのと同じです」


 書類から顔をあげたハルムートも顔を歪めて会話に加わる。ハルムートにとってもポーションは重要な案件のようだ。


「トビーのポーションは飲んだら確実に動けなくなるし、身体にかけても痺れたり強烈な睡魔に襲われますからね」


 ヨハンも青い顔で頷く。

 恐らくあの味を思い出しているのだろう。

 自分も思いだしそうになったが、頭を振って思考を切り替える。


 見習いを斡旋してくれる部署もあるが、第7部隊は少々特殊な部隊の為なかなか紹介して貰えない。


 理由のひとつはヨハンだ。

 別にヨハンが何かした訳ではない。

 大抵の騎士団の隊長には貴族の身分を持った者が就くがヨハンは違う。ただそれだけの理由だ。

 そしてもうひとつの理由が、隊員のほとんどがヨハンを頼ってきた庶民出身者や、貴族の上官と反りが合わずに問題行動を起こし、部隊から追い出されたような問題児達ばかりだという事だ。


 簡単に言うとお行儀の良い貴族の役人連中に嫌われているのだ。

 もちろん全ての役人がそうではないが、大抵そういったお役所のトップには位の高い貴族が就く。

 わざわざ上に逆らってでも見習いを紹介する物好きはそうはいない。


 なのでハルの存在は見習いと契約出来ない第7部隊にとっては渡りに船だったのだ。

 ハルは第7部隊がどのような者達の集まりかを知らないし、助けて貰った事に対して恩も感じている。

 『錬金術』の才能は不明だがトビーほど酷くは無いだろう。というのも『錬金術』は何故か料理の才能と比例している事が多いからだ。

 ハルが作り方を教えたという飲み物は美味しかったし問題無いというのが私の考えだ。


 礼儀正しいしっかり者の『錬金術』のスキルを持った見習いの少女。ぜひとも契約したい。


 もちろん性別や外見は『錬金術』とは全く関係ないが、むさ苦しい男が作ったポーションより可愛らしい女性が作ったポーションの方が飲みたい。

 男ならみなそう思うだろう、少なくとも自分はそうだ。


 こんないい条件が揃った見習いはなかなかいないし、いたとしても貴族などと契約して騎士団に回ってくる事は殆どない。

 ましてや自分達の第7部隊になど夢のまた夢である。

 ならば横槍が入る前にさっさと契約を交わしてしまいたい。

 契約には国の役人の同席が必要だが、ドクターも役人に含まれるのでこの場での契約は可能だ。

 もしハルが渋るようなら少年の借金の全額返済を申し出れば確実に頷くだろう。

 ハルの少年に対する気持ちを利用するようで少々申し訳無い気もするが、別に彼等に不利益な契約内容にするつもりはないし、ポーションの値段も規定に乗っ取った金額を支払うつもりなのだから良いだろう。


(貴族と契約した方が儲かるでしょうが。わざわざいう必要もありませんしね)


 これでポーションに悩まされる事が無くなる。

 そう思い微笑む私を見てヨハンが呆れたように呟いた。


腹黒(わっり)い事考えてる顔してんな」


 ヨハンの言葉に、副隊長(わたし)は笑みを深くした。

【後書き】

ハルさんぴーんち


副隊長のレイさんは別にロリではありません。

……念のため追記。

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