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元アラサー女子はスライムとして生きて行く(仮)   作者: おんじゃく
第二章~邂逅と別離~

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41 トビー君

 キッチンは思っていた以上に広く、充実していた。

 石で出来た洗い場に調味料を仕舞える棚付きの食器棚、そして予想外にコンロのような物まである。

 そして食材が入っているだろう大きめの木の箱がふたつと作業台がひとつ。

 作業台の上には大きめのポットと人数分のコップが用意されており、ポットの側には師匠さんが淹れてくれたお茶と同じ葉っぱが用意されている。


 作業台の前に立ってお茶の準備をしているトビーお兄さんが私に気が付いて声をかけてくれる。


「あれ? ハルちゃんどうしたの?」

「……手伝いに……きました」

「そうなの? 休んでくれていても良かったのに。でもありがとう」


 笑顔で嬉しそうにお礼を言ってくれたが、私の視線はトビーお兄さんの手元に釘付けだ。


 だってトビーお兄さん手に包丁を持っている。

 そして作業台には何故か大きな肉の塊が乗っている。しかも豚の角煮とか作るときに奮発して買うような塊肉。


(んん? トビーお兄さんお茶を淹れるって言ってたよね? あれ? 私、聞き間違えた?)


 脳内に警鐘が鳴り響く。

 怖い。怖いが聞かねばならぬ。


「あの、そのお肉どうするんですか?」


 もしかしたらお茶を淹れるついでに夕飯の下拵えをするのかもしれない。

 そうだ。きっとそうに違いない。

 そう思った。思いたかった。

 しかしそれは次に発せられたトビーお兄さんの言葉によってあっけなく砕け散る。


「お茶に入れるんだよ」

「!?」


 肉をお茶に入れる? 肉を? え? お茶? え? あれ?


 エラー発生。理解不能。意味不明。


 はっ! そうだ! もしかしたらこの世界ではお茶にお肉を入れる風習があるのではないだろうか? もしくはお茶という名のスープとか?


 …………だめだ。自分をごまかせない。

 だって師匠さんの淹れてくれたお茶は普通だった。

 そ、そうだ。もう一度聞いてみよう! そうしよう! 頑張れ私!



「に、肉をお茶に。入れ、る、んですか?」

「うんそうだよ? お肉入ってたら嬉しいでしょ?」

「!?」


(肉が!? お茶に!? 肉が!?)


 少し想像してみよう。ハーブティーに浮かぶ肉の塊。


 ………………。



 やだ。


 うん、よし。

 こういうのはハッキリと、シッカリと、ガッツリと、バッサリと直球で伝える事が重要だ。でなければ再び同じ悪夢が訪れる可能性がある。曖昧にしてはならないのだ!

 私は腹に力をこめ、拳を振り上げながら答えた。


「全! 然! 嬉しくないデス!」

「ええ!? ハルちゃんお肉嫌いなの!?」


 違うそうじゃない。


「お肉は好きですが、お肉はお肉で、お茶はお茶で楽しみたいのデス!」

「……そっかぁ。じゃあお肉はやめとくね」


 そう言って若干しょんぼりしながらトビーお兄さんはお肉を紙に包み直し、木箱に戻してくれた。

 よぉしよしよし良い子だぞぉ。


「それじゃあ卵とミルクを代わりに入れてみようかな?」

「!?」


 ええぇえぇぇぇぇぇ!? なんで!?

 ちょっ! ちょっとトビーお兄さ……ええい!!!

 トビー君はお茶に何かを加えないと気が済まないんですか!?

 慌てて止めようと口を開いたその時、ふと良い事を思い付いた。


 木箱から卵とミルクをいそいそと取り出すトビー君の後ろ姿を眺めながらにんまりと嗤う。

 そそっと近付いて、トビー君に話しかけるついでに礼儀知らずだとは思うがちらっと木箱の中をチェック。

 ……ほぅ、なかなかいいもん揃ってるな。


「ねぇねぇトビー君。私、ハチミツ入れたいなぁ」

「ハチミツ? ……いいかも!」


 そう言いながら楽しそうにハチミツを取り出すトビー君。よしよしよぉしよし!


「じゃあトビー君。お鍋に卵とハチミツを入れて白っぽくなるまでかき混ぜてみようか?」

「鍋? ポットに直接入れないの?」

「ポットは使わない (直訳:やめろ)」


 笑顔で首を横に振りながら近くにあった鍋と、吊るされていた泡立て器を手に取ってトビー君にどうぞと手渡す。

 ハンドミキサーが無いと混ぜるの大変なんだよね。『錬金術』を使えばいいのだが、さすがに今ここで披露する気はない。


「卵3個とハチミツは多目に入れて、弱火ね」

「まかせて」


 トビー君は材料を鍋に入れると嬉々として混ぜ始める。ええ子や。


 コンロはツルツルした石で出来ていて、表面に赤い魔石が円を描くように等間隔に嵌め込まれている。魔石の大きさは大きめの大豆位だろうか。

 光っている石の回りに小さな文字のような模様が浮かび上がっては消えていく。

 数個しか光っていないのは私が弱火でと言ったからだろう。


 しばらくして鍋の中身がよく混ざり、白っぽくなったところでミルクを加えてまた混ぜる。

 あとはミルクが温まれば出来上がり。

 西洋風の卵酒“エッグノッグ”だ。

 お酒は入れてないしシナモンもないから温かいミルクセーキと言った方が良いかな?


 トビー君に「手を止めちゃ駄目だよ~」と言いながら出してあったポットと茶葉をさっさと片付け、出来上がったエッグノッグをコップに少しだけ注いでもらい味見をする。


 卵とミルクの味が濃くて美味しい。

 個人的にはもう少し甘くてもいい気がするけど、これでも十分だ。


「これ美味しいね!」


 トビー君の口にも合ったようだ。

 人数分のコップに均等になるように注いで完成。


「ハルちゃんこれも入れてみない?」


 トビー君の手には茸が握られていた。

 うん、それ光茸だよね? しかも乾燥してるやつ。


「入れない(直訳:やめろ)」


 あまりのチョイスにおばちゃん痺れちゃう。

 そしてきっと全員痺れる。




 もっと何かを入れたそうにしているトビー君をなんとか説得し、完成した飲み物を運ぶ。

 師匠さん達は配られたエッグノッグをしばらく警戒していたが、私が飲んでいる所を見て恐る恐る口にした。


「お、甘いけど旨いなこれ」

「本当に、美味しいですね」

「旨い」

「ハルちゃんが教えてくれたんですよ~」


 良かった。こちらの世界でも受け入れて貰える味のようだ。

 トビー君にも美味しいと言って貰っていたから大丈夫だとは思っていたのだけど。ほら、トビー君だし。……ねぇ。


 まぁ、無事に出来て良かったと思いながらもう一口飲もうとした時。




(ハル)


 ソラに呼ばれた気がした。


 駆ける。


 仕切りにしてある布を勢いよく捲ってベッドに駆け寄りソラの顔を覗きこみ、汗で額に張り付いている髪をそっと剥がす。


「ソラ?」


 小さな声で名前を呼ぶと、瞼がゆっくりと持ち上がり、空色の瞳に私の顔が写った。


「…………はよ」

「……おはよ」



 泣きそうになった。

【後書き】

やっとソラ起きた。

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