40 二人の騎士
天幕に入ってきた二人の騎士を見て私は困惑した。
一人は金髪碧眼の美青年だ。
少しウエーブがかった長い髪を後ろで弛めにひとつで結わえており、シミひとつ無い白い開襟シャツと黒いパンツに焦げ茶色のブーツを履いている。
騎士というより休日の貴族と言われた方がしっくりくる。
別に彼は問題ない。
私が困惑した原因はもう一人の騎士だ。
「お、元気そうじゃねーか! 良かったなぁ!」
もう一人の騎士は赤茶色の髪を短く刈上げ、意思の強そうな金の瞳を持つ青年だった。
ニカッと笑った口元から白い歯が覗く。
黒い半袖のTシャツを着ているので騎士には見えないが、彼にはよく似合っている。
ただ……
(なんで頭にタオルを巻いてんだろ?)
彼は頭に白いタオルを巻いていた。
おかげで土木作業現場の兄ちゃんにしか見えん。
パンツがニッカポッカなら完璧だったのだが、残念(?)ながらパンツとブーツは美青年と同じだった。
ガテン系アニキ騎士の登場に驚く私に金髪碧眼の美青年が優しく微笑んできた。
(おお、なんかこの人キラッキラしてる!)
これはさぞかし女子にモテるだろう。10代の女の子なんか今の笑顔を一度向けられただけで一目惚れしてしまうのではないだろうか。
だが私は金髪碧眼の美青年とオシャレなカフェでコーヒーを飲むより、師匠さんと一緒に縁側でお茶を飲む方が良いと思う干物女である。
せっかくの笑顔を無駄にさせて申し訳ないなぁと思いながら、とりあえず助けて貰ったお礼を言う事にした。
「はい、私はもう大丈夫です。助けて頂いてありがとうございました」
お辞儀をして頭をあげると、ガテン系アニキが「坊主の方もとりあえずは問題ねぇみてぇだし、良かったなぁ!」と言いながら私の頭をグワッシグワッシと撫でてきた。
でっかい手が私の頭を覆いもの凄い力で撫でられる。
(ちょ、首! 首がもげる!)
アニキの力に耐えきれずに足元がふらついた時、スパーンと音がしてアニキの手が離れた。
「……ドクターひでぇ」
「……」
腕を組んだままそっぽを向く師匠さん。
どうやら師匠さんがアニキの頭を叩いて止めてくれたらしい。
「ハルちゃん大丈夫?」
トビーお兄さんが側に来てぐしゃぐしゃに乱れた髪を直してくれた。
「はい、ありがとうございます。大丈夫です」
師匠さんにも目線で感謝を伝えると、小さく頷いてくれた。
「ヨハン、貴方はもう少し女性の扱い方を学んだ方が良いと思いますよ」
呆れたように言いながら金髪碧眼の美青年が私の前にやってきて片膝をついた。
なんか騎士っぽい。いや、騎士なんだけどさ。
「初めましてお嬢さん。私はテミザ騎士団第7部隊の副隊長のレイ=グルベンキアンと申します。家名は長いので“レイ”と呼んで下さいね」
金髪美人さんは副隊長さんでした。
「ちなみにそこにいる赤毛の脳筋男が隊長です」
そう言いながら副隊長さんはアニキを指差す。
「ヨハン=ロイスだ! 俺も家名で呼ばれるのは好きじゃねぇからヨハンでいいぞ。つーか俺が脳筋ならレイは腹ぐ……」
「そういえばこの間の……」
「なんでもねぇ!」
隊長さんは脳筋で副隊長さんは……。
うん。なんとなくだけど分かってたよ。
「私はハルと言います。こちらこそ宜しくお願いします」
とりあえず隊長さんと副隊長さんのやり取りを華麗にスルーして名乗っておいた。
「よろしくお願いします」と返してくれた副隊長さんのキラッキラの笑顔に、照れているふりをしながら下を向く。
ついでにモジモジしておく。
……モジモジ。
……モジモジ。
もういいかな?
……飽きた。
その後、師匠さんの「とりあえず座って話したらどうだ?」という発言に全員が天幕内の長テーブルにつき、私は当初の予定通りスライムである事と本当のスキルの事以外を話した。
私が話したのは祖母とずっと一緒に暮らしていたがその祖母が亡くなってしまった事。
しばらくの間1人で森の中で暮らしていたが、ある日ラグノーに襲われて川に落ちてしまった事。
流されてたどり着いた場所でソラと偶然出会った事。
ソラは盗賊達の元で奴隷として働かされていた事。
そして、先日ナーガに襲われ、盗賊達がナーガと戦っている間にソラと2人で逃げ出した事。
祖母と暮らしていたのが異世界だったと言わなかっただけで、あとは全て本当の事だ。
しん……と天幕内が静まり返る。
ちなみに私の左にトビーお兄さん。
テーブルを挟んで左から師匠さん、アニキ、美人さんの順番だ。
みんな険しい顔をしている。
「ここらを根城にしてる盗賊といえば。……“黒の牙”か?」
「ええ、確か顔に大きな傷がある男がリーダーだったはずです」
「罠が得意な男もいたな、でもナーガとやり合うにゃ力不足じゃねぇか?」
「バナハがいたはずです。バナハならナーガとも戦えるでしょう」
「バナハか。だが奴がいたとしても……もう全員生きちゃいねぇだろうな」
副隊長さんが頷く。
「レイ、アレックスに『索敵』を使って周囲を警戒するように伝えてくれ。それからガレーパにナーガが出たと連絡を」
「分かりました」
副隊長さんが天幕から出て行き再び天幕内に沈黙がおりる。
(どうしよう)
隊長さんと副隊長さんの会話で気付いた。
もう『追跡』はされていないはずだが、だからといってナーガが私達を追って山を降りてこないとは限らない。
そしてその先に町や村があるかもしれないのだ。
「……あの」
「どうした?」
「ごめんなさい、私達がナーガを引き連れてきてしまう可能性を考えていませんでした」
隊長さんが目を丸くする。
「トビーにも聞いてたが本当にしっかりしてんなぁ」
「ヨハンさん話がずれてますよ」
「いや、だってよぉ」
「ハル」
師匠さんが私の名前を呼んだ。
落ち込んで俯いていた顔を上げると、私を真っ直ぐ見つめる師匠さんと目が合った。
「不幸はある日突然降りかかるものだ。お前達はそれを耐え、乗りきった。……大事にしなさい」
命を。
そう聞こえた。
小梅ばあちゃんに「ちゃんと生きなさい」と言われた時の事を思い出した。
きっと意味は同じだ。
「……はい」
膝の上でぎゅっと手を握り締め頷いた時、副隊長さんが天幕内に戻ってきて隊長さんに報告しながら椅子に腰かける。
「レイさんの報告が終わるまで少し休憩しましょうか。僕、お茶を淹れて来ますね」
重たくなってしまっていた空気を入れ変えるようにトビーお兄さんが笑顔で席を立つ。
その瞬間、私とトビーお兄さん以外の3人の顔がびしりと固まった。
隊長さんの顔は真っ青になり、師匠さんの眉間には皺が深く刻まれ、副隊長さんの笑顔に深みが増す。
(え? なになに? どうしたの?)
あまりの変化に戸惑う私と固まった3人に気付く事なく、トビーお兄さんは笑顔のままキッチンに姿を消す。
「……マジかよ」
「……まぁ、飲まなければいいんですよ」
「……うむ。ハル、飲まんでいいぞ」
その時、私の脳裏に呪いのポーションが「やあ! さっきぶり!」っと現れた。
ガタンッ!!!
私は挙手をしながら勢いよく立ち上がった。
驚きに目を見張る3人。
「ワタシ手伝ってきマス!!!」
私は返事も聞かずにトビーお兄さんを追いかけ、キッチンに駆け込んだ。
【後書き】
トビーステイ。




