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元アラサー女子はスライムとして生きて行く(仮)   作者: おんじゃく
第二章~邂逅と別離~

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38 トビーお兄さん

 ぽかんとした顔を向けられている。

 何か変な事を言っただろうか?

 この世界の挨拶を知らないので不安になる。

 もしかしたら初対面の相手に名前を名乗ったりしないのだろうか?


 ……反応してほしい。


「あの~」


 お兄さん、小さな女の子が(笑)困ってますよ~。と心の中で言いながら話しかける。


「あ、あ、はい。すみません。あ~僕は『トビー=モリス』です、トビーって呼んで下さいね」

「はい、トビーお兄さん」


 良かった、名前は名乗っても問題なかったみたいだ。


「いやぁ、しっかりした挨拶だったので驚いちゃいました」


 もっしゃもしゃの頭をさらにかき混ぜながら照れたように笑う。

 ふむ、なかなかに可愛らしい。

 そういった嗜好は持ち合わせていないが、思わずいたずらしてみたくなる。

 ボールとか投げて取っておいで~とか言いたくなる……ん? 犬?


「あ、そうだちょっと待ってて下さいね」


 そう言ってトビーお兄さんは椅子から立ち上がると、近くにあった木の棚から一本のビンを取り出した。

 『鑑定』したら低級ポーションと表示された。


「まだ体がしんどいでしょう? これ、飲んで下さいね」


 わざわざ背の低い私と目線を合わせる為に屈んでポーションを渡してくれるトビーお兄さん。ええ子や。


「ありがとうございます」と受け取ってから(あれ?)っと思う。


(私の作ってるポーションと色が違う)


 私の作った低級ポーションよりかなり色が濃い。私のは薄い緑、緑茶みたいな色だけど、これは濃茶みたいな緑をしている。なんでだろう?


「どうかしましたか?」


 ポーションを見つめたまま黙りこんでしまった私に、トビーお兄さんが不思議そうに声をかけてきた。

 まさか自分の作ったポーションと色が違うとも言えずに慌てて答える。


「あの、私、お金持ってないんです」


 私の返事に「ああ」と納得したように頷き、トビーお兄さんは微笑む。


「気にしなくて良いんですよ」

「けど……」


 お高いんでしょう? みたいな感じでお兄さんを見上げる。


(大体でいいから値段教えてくんないかなぁ、私がポーション売る時の目安にしたいんだけど)


 私が遠慮しているのだと勘違いしてくれたお兄さんが困ったなぁ~みたいな顔で答えてくれた。


「低級ポーションですからそこまで高くはありませんよ。一本300ペソ位ですから」


 300ペソ。


 ソラの話では50ペソで小さなパンが一つ買えたとの事なので、日本円に換算して300円~500円位の価値だと思えばいいだろうか? ちょっとお高い栄養ドリンクみたいな?


 けど、貴重な『錬金術』で作成されたにしては安い気がする。

 トビーお兄さんが嘘をついているとは思わないが、少し違和感を感じた。


 でもこれ以上突っ込んで聞くのも不信に思われそうだと思い「じゃあ頂きます」と遠慮がちに微笑んでポーションを一口、口に含んだ。


 そして……。


 私はその場に膝から崩れ落ちた。



(ま、まぁっずうぅぅぅぅ!!!)


 強烈な苦みと酸味、そして舌を刺すような刺激と辛味。


 これ本当にポーション!?

 違くね!?

 そもそも飲み物ですらないと思う!

 だって飲み込めないもの!

 それに、口に含んだだけなのに目がしばしばするのは何故!?


(ナニコレ!!! 毒!? いや、ちゃんと『鑑定』で低級ポーションだって確認したし!?)


 ト、トビーお兄さぁぁぁぁん!?


 ビンを持っていない左手で口を押さえてトビーお兄さんを見上げる。


(あ、あんた何してくれちゃってんの!?)


 そこには慌てふためくトビーお兄さんがいた。


「え!? あれ!? だ、大丈夫!? なんで……あっ!」


 慌ててポーションを取り出した木の棚に駆け寄るトビーお兄さん。


「あっ!」て何!? 「あっ!」って!

 怖いわ!


「あー!!! すみません! それ僕の造ったポーションでした!!!」


 これお兄さんが造ったの!?

 これを!? どうやって!?

 ていうか、これがポーションなのは間違いないの!?

 う、嘘でしょ!?


 笑 劇 !

 違った! 衝 撃 !!!


「こっちを! 師匠のポーションを飲んでもらうつもりだったんです!」


 そう言って見せてくれたのは私のポーションより色の濃い。けれどトビーお兄さんのポーションよりは薄い、綺麗な透き通った緑色のポーションだった。

 真っ青になってブルブル震えて動けない私に慌てて駆け寄るトビーお兄さん。


 ちょっ! ま、まて! そんなに慌てて走ると!


 案の定トビーお兄さんが自分のローブの裾を踏み転びそうになる。

 だが、とっさに側にあった木のテーブルにすがり付き幸いにも転ぶことは免れた。

 が、テーブルの上には先程まで磨り潰していたヤマや、よくわからない木の実やらが所狭しと乗っている。


 ……はい。結果でたー。


 ガシャンやらパリンやら様々な音が天幕内に響き渡る。


(ひーっ!!!)


 呪いのポーションを口に含んだままその場で固まった私。そして、


「あわわわわわ!」


 パニック状態のトビーお兄さん。

 もうトビーお兄さんが慌てふためくゴールデンレトリーバーにしか見えない。


「はっ! 取り敢えずこれを!」


 パニックになりながらも私を救おうとするその姿勢には感謝する。


 が! 前を良く見て!

 お兄さんの前にストーブあるから!

 ストーブの上にやかん乗ってるから!

 あっつあつだから!



 突然だが横山家には様々なルールが存在する。

 各家庭にも有るだろう。

 例えば門限だとか、食事中はテレビを見ないだとかそういったルールの事だ。

 横山家のルールの一つに“一度口に入れた物は腐っていない、体に害がない限り飲み込む”と言うものがある。

 ある程度の好き嫌いは許すが食わず嫌いは許さない、そして食べ物を粗末にしない。という小梅ばあちゃんの考えからきたものだ。

 私もそれには大いに賛同する。


 が、今回はどうだろう。


 腐ってはいない。

 体に害がある訳ではない。……たぶん。

 ただ死ぬほど不味いだけだ。


 私は記憶の中のばあちゃんに涙目で問いかけた。


(ばあちゃんこれ飲み込まなきゃダメ!?)


 ばあちゃんはにっこり微笑んで――――頷いた。

 マジか。


(残 酷!!!)


 でも確かに飲み込んでトビーお兄さんを止めなくては熱湯地獄だ。

 吐き出してから危ないと叫ぶには時間が足りない。吐き出しなから叫ぶという手もあるが……ごめん被る。

 緑の液体を口から撒き散らしながら叫びたくない。なぜに自ら進んで黒歴史をつくらにゃならんのだ。



(うええええぇぇええぇぇいっっっ!)


 ごくん。飲んだ。そして叫んだ。


「トビーステイ!!!」


 もう必死。


 トビーお兄さんがストーブの前ギリギリで静止する。



「た」


(助かったぁぁぁぁぁぁぁぁ!)




「……なにやっとんじゃ?」


 天幕の入り口に細い銀のフレームの眼鏡をかけた気難しそうな白髪の老人が1人立っていた。


「し、師匠」


 どうやら飼い主が帰ってきたようです。

【後書き】

腹黒ハルさんは天然どじっ子のトビーお兄さんに撃沈しました。

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