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元アラサー女子はスライムとして生きて行く(仮)   作者: おんじゃく
第二章~邂逅と別離~

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37 違うけど同じ

 シュン……シュン……


 と、やかんのお湯が湯気を吐き出す音がする。

 ガスコンロではなくストーブの上で沸かした時の、あの柔らかな音。


 私はこの音が好きだ。

 暖かくて、優しくて、安心する。


 同時にゴリゴリと何かをすり鉢ですりおろしている音も聞こえてきた。

 それと同時に漂ってきた独特の青い草の薫り……。


(これヨモギだ)


 匂いの正体に気付き思わずにんまりする。


(小梅ばあちゃんのヨモギ餅だ)


 横山家ではヨモギ餅の中にあんこは入れない。お餅をトースターで焼いて、後から自分で好きなだけ餡を上に乗せるのが横山家流だ。

 パリパリに焼けたお餅に、甘く煮た小豆をたっぷりのせて頬張る。

 少し焦げたもち米の芳ばしい香りと、優しいヨモギの香り。そして甘さ控えめの自家製粒あん。最高である。

 粒餡が苦手な人も多いが、私は好きだ。小豆の皮の独特の歯触りが楽しい。もちろんこし餡もいい。


(ああ、なんて幸せな“夢”)



 雨の音、そして遠雷。

 徐々に意識が浮上する。


 そう、これは“夢”だ。


 小梅ばあちゃんは10年も前に死んでしまったし、私に至ってはもはや人間ですらない。

 今の私はスライムだ。



 盗賊の首が切り飛ばされた瞬間を鮮明に覚えている。そして血しぶきの向こうにいる化物の姿も。


 今更だけど恐怖で体が震える。

 この世界ではあまりにも簡単に人が死ぬ。


(怖い)


 汗が吹き出し、瞑った瞼の裏にじわりと涙が滲む。


(怖いよ、ばあちゃん)



 涙が一筋こぼれ落ちてこめかみを伝った時、また強くヤマの匂いがした。

 そうだ、これはヨモギじゃない、ヤマの匂い。ヨモギと同じ香りのヤマ。


 違う、けど、同じ。


(ヨモギ餅食べたい)


 数秒前に“怖い”と弱音を吐いていたのに、ヨモギに似たヤマの匂いに反応してそんな事を考えた自分に思わず苦笑する。


 あ~あと思いながらも“怖い”より“美味しい”の方がいいので思考を切りかえる。


(……ヤマで作れるかな? ソラはヤマの味が好きだから喜んでくれるはず)


 ソラが食事をしている所を思い出す。

 本人が気付いているかは知らないが、ソラは美味しい物は最後に食べる派だ。


 ゾジャの実にヤマをのせて焼いたのが好き。

 それからタケノコ……フートゥとヤマを炒めたのも好き。

 どちらも最後に食べる為に、一口分残すようにして食べ進める。


(かわいい奴め)


 ヤマの薫りを思いっきり吸い込む。


(ばあちゃん心配かけてごめん。私、大丈夫だよ)


 ゆっくり目を開けた。



 どうやら大きな天幕の中にいるらしい。ベッドの上に寝かされているようだ。

 天井近くに張られたロープから垂れ下がった厚手の白い布が壁代わりらしく、その向こう側から音がする。


 首だけを動かして右を見るとソラが同じようにベッドの上に寝かされていた。眠っている。

 音をたてずにそっとベッドから降り、ソラの額に手をあてて熱を測る。


(良かった。だいぶ熱下がってる)


 呼吸も安定しているし顔色も悪くない。まだ安静にしておいた方がいいだろうが取り敢えずは問題なさそうだ。

 ほっとしてソラの額から手を離し、人化した自分の手を見る。


(人化解けなかったんだ。スライムに戻ってる可能性もあったんだけど……助かった)


 自分を『鑑定』する。


【名前】ハル

【種族】人間

【年齢】10

【レベル】5

【HP】72/72

【スキル】

『索敵(level5)』『逃走(level7)』

『錬金術(level2)』


 これはダミーのステータス。


 “ドクター”は『鑑定(level3)』を持っている。

 ドクターに『鑑定』されたら、私がドクターよりレベルが上の『鑑定』持ちだという事がばれる。なので救助される前に『擬態』でダミーのステータスを作成しておいたのだ。


 『錬金術』を表示させたままなのは私達の価値を上げるため。そして、人間の世界で生活する事になった時の為に仕事を確保するためだ。

 ソラの隷属は盗賊が死んだからなのか解除されているが、まだ隷属期間が終わっていない、と再び隷属状態にされるかもしれない。

 けれど親の借金で奴隷になったのなら、お金を返済すれば奴隷に戻らなくても済むかもしれない。

 『錬金術』のスキルはこの世界では珍しいから、錬金術で作られるポーションも高値で取引されている可能性は高い。だからあえて『錬金術』は表示させたままにしている。

 レベルを下げたのは“筆頭”でもある“ドクター”より私のレベルが上なのは流石に不味いと思ったから。

 あまり価値を上げすぎると今度は危険度が増す。


 木の根本の穴の中で色々考えておいて良かった。

 盗賊達から逃げ出して港町に行った時に試そうと思っていた事を、まさかこんな状況で実践するとは思わなかったけれど……。



 改めて周囲を見回す。

 モンゴルの天幕、ゲルのようだ。円形に組み立てられた木材と布で出来ている。天井の高さもかなりある。


 『索敵』で周囲の様子を確認する。


 この天幕には私とソラ以外に一人。


 他の人達は外にいるようだ。

 こんな雨の中で何やってるんだろうと疑問に思うが、取り敢えずは天幕にいる人を『鑑定』してみる。



【名前】トビー=モリス

【種族】人間

【年齢】18

【職業】イムティア王国 医師(見習い)

【レベル】28

【HP】356/356

【MP】957/957

【スキル】

『索敵(level3)』『逃走(level3)』

『錬金術(level3)』『土魔法(level5)』

『水魔法(level3)』


(この人もお医者さんだ……見習いって事は“ドクター”のお弟子さんってとこかな? ……それにしても18才か。……若っいわぁ)


 頑張ってるんだねぇ、おばちゃんアイスとか奢りたくなっちゃう。とか思いながらそっと壁がわりの布を捲る。


 そこには木の椅子に座り、木のテーブルの上にあるヤマをすり鉢ですり潰している青年がいた。

 灰色がかった鳥の巣みたいなもっしゃもしゃの髪に小さな丸メガネ、濃いオリーブグリーンのローブを身に纏ったひょろっとした青年だった。気の弱いお兄ちゃんって感じだ。


 観察していた私の気配に気付いたのか、顔をあげた青年と目が合う。

 ちょっと驚いた顔をした後、垂れ目がちな茶色の目を細めて微笑んだ。


「あ、起きたんですね。良かった~」


 想像した通りの優しい声だ。

 緊張で強張っていた体が解れた。


「はい、もう大丈夫です。助けて下さって有り難うございます」


 ペコリと頭を下げ顔をあげてにっこり微笑む。


「私はハルと言います。お兄さんの名前を教えて貰っても良いですか?」


 あと、色々と情報くださいな。

【後書き】

ステータスとかちょこちょこ訂正入れる可能性ありです。

ハルさんのステータスは変わらないと思うのですが……。

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