表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
元アラサー女子はスライムとして生きて行く(仮)   作者: おんじゃく
第二章~邂逅と別離~

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

54/109

36 長い一日

 夜が明け、空が青い色を取り戻す。


 随分前に雨は止み今は川の流れる音だけが聞こえる。


 私はオール状に『擬態』した触手を必死に動かして川を下っていた。


 私の中で眠っているソラはぐったりとし、呼吸も荒い。どうやら風邪を引いたらしい。

 雨の中の命懸けの逃走、長時間の移動、長年の栄養不足、そして……家族の死。


 心と体に一気に負担が掛かったのだろう。体調を崩して当然だ。


 『錬金術』で服を洗って乾かして着せ、低級ポーションも飲ませているが早く医者に見せた方が良い。

 この世界の風邪が私の知っている風邪と同じとは限らないし、もしかしたら他の病気かもしれないのだ。


 一晩中川を下り続けたので川幅が広くなってきた。だけど辺りは鬱蒼とした森。そして『索敵』画面に表示されるのはゴブリンやヤートなどのモンスターばかりだ。


 暖かな布団と薬が欲しい。


 川の水で触手を冷しソラのおでこに乗せる。

 ソラの苦しそうな顔を見て思わず泣きそうになり、慌てて唇を噛んで耐える。


(バカハル! 泣いてどうなる! しっかりしろ!! そんな暇があるなら少しでも前へ進め!)


 まばたきを繰り返して涙を止め『索敵』と『鑑定』を続けようとしたその時、ビクッと体が震えた。

 『索敵』画面の左の隅に黄色い点がひとつ表示された。


 盗賊を連想してしまったが、違う。

 彼等はもういない。


 これは盗賊達以外の人間の表示。


 ゴクリと唾を呑む。

 別の盗賊の可能性もある、期待するのは厳禁だ。けど――


(どうかまともな人でありますように!)


 『鑑定』。



【名前】ヨハン=ロイス

【種族】人間

【年齢】23

【職業】イムティア王国 テミザ騎士団 第7部隊 隊長

【レベル】50

【HP】1692/1692

【MP】95/95

【スキル】

『剣術(level8)』『火魔法(level3)』



「強っよ!」


 バナハという盗賊よりはHPは下だがこの人も十分強い! しかも騎士! さらに隊長!


「これ、助けてもらえるんじゃ……」


 いや、待て。


 騎士だからいい人だとは限らない。ソラの命が懸かってるんだ。


(落ち着け、慎重に!)


 そう自分に言い聞かせ深呼吸をする。失敗は許されない。

 とにかく今は情報が欲しい。

 ソラを乗せたまま川から上がり黄色い点の方向へ進む。

 騎士団とあるくらいだ、一人でこんな山奥にいるとは考えにくい。隊長とやらは『索敵』画面の端に映っているだけなので、この人より奥の画面を表示すれば他の騎士がいるはずだ。



 いた。黄色い点は全部で7。


 『鑑定』でひとつずつ調べ、少し離れた所にある点を『鑑定』したとき、私はその鑑定結果を凝視した。



【名前】エドモンド=マルチーノ

【種族】人間

【年齢】65

【職業】イムティア王国 筆頭医師

【レベル】56

【HP】583/583

【MP】2150/2150

【スキル】

『錬金術(level5)』『鑑定(level4)』

『土魔法(level8)』『水魔法(level4)』

『補助魔法(level4)』『回復魔法(level5)』



(お医者さんだ! しかも“筆頭”って事は一番って事!)


 彼等がいる場所は距離的にはそれほどない。だが、決して簡単な道のりではない。

 まず目の前に2メートルの土壁。その先には魔物のいる森。


 それ以上に問題もある。

 もしかしたらこの世界の階級制度で、庶民の診察なんて出来ないと言われるかもしれない。

 けど、薬を分けて貰えるかもしれない。助けて貰えるかもしれない。


「行こう!」


 私は目の前の土壁に触手を伸ばした。



☆ ☆ ☆


 どの位経っただろうか。

 ゼーゼーという自分の呼吸音が鬱陶しいと思う事すら無くなった。

 時折ソラを『鑑定』してHPが減っていないかを確認し、錬金術で発生する錬金水に少しだけ岩塩を混ぜたものを飲ませる。普通の水は危ないので、料理する時も私はこの錬金水を使う。


 騎士達がいる場所まであと500メートルといった所だろうか?


(っていうか、なんで誰も私達に気付かないんだよ!)


 騎士達の中には『索敵』持ちが数人いる。

 レベルは1~3と低いが、ここまで近付けばもう表示されているはずだ。


(せっかく『擬態』解除してるのに!)


 そう、私は既に『擬態』を解除している。

 もちろん騎士達に見付けてもらう為だ。


 表示は赤い点で魔物と見分けがつかないかもしれないが、明らかに自分達の方に向かって来ているのだ、何かしら動きがあっても良さそうなのに全くと言っていいほど反応が無い。


(こいつらハズレじゃねーだろうなぁ)


 焦りと不安と疲れに言葉と心が荒む。


 『擬態』を解いたという事は、騎士達だけではなく魔物にも発見される危険があるという事だ。

 私は細心の注意を払いながら、山中を這いずり、時に迂回し、ありとあらゆる危険を回避しながら移動しているのだ。多少の暴言位は許して貰いたい。


(でも本当に、なんで誰も気付かないんだろ?)


 そう思いながら止まる事なく歩み続ける。

 そしてある可能性に気付いた。


(もしかして『索敵』を発動してない?)


 思い付いた途端、それだ~と遠い目になった。

 私にとっては魔物が闊歩する危険な森だが、騎士達にとっては危険でも何でもないのだろう。

 騎士達のレベルは平均30越え。HPも半数以上が1000を越えている。きっとゴブリンやヤートなんて敵ですらないのだ。


(くっそぉおぉぉぉ~! チートどもめぇぇ!!!)


 歯を食い縛りながら前に進む。

 何故か山の上にいる騎士(チート)達。

 お陰でずっと上り坂である、しかもかなり急勾配。


(いじめか!? いじめなのか!? )


「ふっ、ふふふふっ……。受けてたつ!」



☆ ☆ ☆


 それからさらに一時間かけ、私は遂にたどり着いた。だがまたしても


(か、壁……)


 今度は5メートルはある、しかもほぼ垂直。もう登る力は残っていない。

 それに今は人化中だ、スライムだと知られたら殺される可能性があるから。


 余談だがもうサロ◯パスのCMの人ではない。

 小休憩の時に確認したのだが、どうやらナーガのお陰(?)で『擬態』のレベルが上がり、瞳と肌に色が着いたのだ――髪は相変わらず白いままだが。

 これなら逃げられたり殺されたりする事はないだろう。


 助けを求めようとしたがもう声もでない、出るのはゼーゼーという呼吸のみ。

 遠くで剣戟の音が聞こえる。

 魔物と戦っているわけではなさそうなので、おそらく訓練中といった所だろう。

 声が出たとしても聞こえないかもしれない。


 辺りを見渡す。

 何も無い。


「……!」


 駄目だ。声が出ない。


(やっとここまで来たのに!)


 ソラを背負った背中が熱い。

 その熱に頑張れと励まされたような気がした。


(諦めるもんか!)


 辺りを見渡し必死に考える。


(何か、何か音の出るもの……)


 音が出る……物。


(ある。あった! あるよ!! 私持ってる!!!)


 急いで『収納』から取り出し、最後の力を振り絞ってそれ(・・)を握りしめた。


 助けて!!!



『ギョェェェェェェ……』



 剣戟が止む。


「なんだ今の音? 魔物か?」

「隊長、あちらに表示が2つあります」


 近付いてくる複数の足音。

 逆光でよく見えないがこちらを覗き込む人影。


「子供!? おい! 急いでドクターかトビーを呼んでこい!!」


(……アタリだ)


 ゾフル君のぬいぐるみを握りしめたまま、私はその場に崩れ落ちた。

【後書き】

二章スタートしました。

ハルさんの頑張りがちゃんと伝わっていると良いのですが……。


人一人を抱えての山登り……。

普通の人でも難しい。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ