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元アラサー女子はスライムとして生きて行く(仮)   作者: おんじゃく
第一章 (スライムと少年)

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34 絶対に

 舌打ちをし、ソラは走りながら馬小屋から持ってきた布を身に纏う。どうやらポンチョのような外套らしい。

 ソラの肩に乗っていたので視界が遮られる。

 モゴモゴと首の穴から顔を出して改めて気付いた。


 暗い。もうすぐ日が完全に落ちて夜になる。

 夜の森は恐ろしく暗い。

 夜目の効かない人間では危険度が跳ね上がり、ナーガから逃げる事がさらに難しくなる。じわりと不安が押し寄せる。


「ソラ、どうやって逃げるつもり?」

「これを使う」


 ソラの手にあったのはバナハから貰った短剣だった。よく見ると鍔の部分に小さな丸い石が4つ嵌め込まれている。全て色が違っていて、赤・青・白・黒の四色だ。


「黒い石は“姿隠しの石”だ、一時的に『追跡』から逃れられる」


 あんまり長くは持たないけどな。そう小さく呟いたソラの顔は強ばっていた。


 ソラが黒い石を親指で強くグッと押すと、バチンッという音がして発光する黒い文字かいくつも空中に浮かび上がった。

 文字は暫く不規則に動いていたが、やがて一列に並びソラの回りをぐるぐる高速で回転しはじめる。光の帯状になって消えた後、『索敵』の画面からソラの青い点が無くなっていた。


 鍔に嵌め込まれた他の石を『鑑定』する。


 それぞれ異なった力があるようで、赤い石は火を起こし、青い石は水を発生させ、白い石は体力を回復出来るらしい。

 黒い石はソラのいう通り『索敵』や『鑑定』『追跡』の探索系のスキルを一時的に無効にする力があるようだ。けれど……


(時間が短かすぎる)


 鍔の黒い石を『鑑定』して出てきた減っていく数字。おそらくこれが黒い石の発動時間だ。

 そして無効に出来る時間は残り≪9:42≫。

 約10分。


 ナーガの『索敵』のレベルは私より上だから、最低でも今表示されている私の索敵マップからは出なくてはならない。


(馬に乗って出来るだけ遠くへ逃げた方が良かったんじゃない?)


 そう思ってすぐに無理な事に気付いた。


 馬で森の中を逃げるには途中にある湖を大きく迂回しなくてはならない。湖の中には中型の魚系のモンスターがいるので、馬が湖に入れば襲われてしまう。

 湖を迂回していては時間が掛かりすぎるし、馬の足音でナーガに気付かれてしまう可能性もある。


 何かいい案はないだろうかと必死で考える。



「……お前」


 ソラのぽそりと呟いた声に思考が一時中断され、なんだろうとソラの横顔を見つめる。


「お前だけならナーガから逃げ切れるんじゃないか?」

「……」


 私は強張ったままこちらを見ないソラの横顔にそっと触手を伸ばし――耳の穴に触手を思いっきり突っ込んだ。


「……うぉ!! 何すんだ!!!」

「いやぁ、ちょうどいい穴があったので……。つい」


 にっこり微笑みながらうねうねと触手を動かして答えると、ソラは顔をひきつらせながら耳を押さえた。かなり嫌だったみたいだ。また馬鹿な事を言う事があったらやろう。



 ……ドンッ


 という音が遠くから聞こえ、『索敵』画面を見て驚いた。ナーガのHPが3000を切っていた。


 凄い。でもヤバい。ナーガがこちらに向かって移動して来る。


「ソラ! ナーガがこっちに来る!」


 ソラが息をのみ握っていた短剣の柄を握りしめる。気付いたのだろう。ナーガがこちらに向かって来ているという事は、盗賊達が全員死んだという事に。


「……ちくしょう」


 小さな、本当に小さな声が、噛み締めた歯の隙間からこぼれおちた。


 『索敵』画面を見るともうナーガは小屋に到着していた。黒い石のお陰で『追跡』からは逃れられている。ナーガもかなりの痛手を受けているし、このまま諦めてくれないだろうかと思いながら画面を見続ける。


 だがナーガはこちらに移動を開始した。


(なんで分かるの!?)


 ソラは小屋の前で黒い石を発動させていた。それならソラが小屋からどっちの方角に逃げたかなんて分からないはずだ。黒い石がちゃんと機能しているのは私の『索敵』でも確認済み。

 なのになぜナーガは迷う事なくこちらに向かってこれるのか……。



 ”ピット器官”


 前世の知識がひとつの可能性を導き出す。獲物の体温を感知する事が出来る、蛇の特殊器官だ。

 違うかもしれない、走る振動などで感知している可能性もある。でもどちらにしろどうしようもない。体温を消す事は出来ないし、立ち止まるなんて危険な賭けには出られない。


 けれどこのままではすぐに追い付かれる。ナーガが追ってこれなくなる狭い道や洞穴なんて都合の良いものはこの辺りにはない、この周辺にあると言えば……。


 はっとした、盗賊からソラと逃げる時どうすれば良いか考えた案にそれはあった。危険だからと却下した案だ。そしていざというとき使えるなとも思った案。


 迷ってる時間はない。

 “出来る”か“出来ない”かじゃない、今決めるべきは”やる”か”やらない”かだ。


 だったら私は”やる”。

 ソラが生き残れる可能性がある方を私は選ぶ。


「ソラ! 左に!」

「けどあっちは……!!!」


 ベキバキと木がへし折られる音が徐々に近づいてくる。


「大丈夫」


 真っ青な顔のソラが私を見る。


 絶対に。


「ソラを死なせたりしない」


 青い瞳が見開かれる。


 死なせるもんか。


「っ! 分かった!」


 ソラが森の中を駆ける。

 まだ姿は見えないけれど、ナーガはもうすぐそこまで来ている。


 森が途切れて川が見えた。ザーザーと水の落ちる音が聞こえる。

 河原を駆けながらソラが声をあげる。


「ハル! 滝だ! どうすればいい!?」


 その時、森から出てきたナーガの姿が見えた。


「滝から飛び降りて!」


 ソラは「分かった!」と言って滝に向かって走った。

 あまりにもあっさり了承されて拍子抜けした。いくらナーガに追われているとはいえ、30メートルもある高さから飛び降りろと言ったのだ、さすがに躊躇してしまうだろうと思っていたのに。けれど、


「行くぞ!」


 ソラは少しも迷う事なく滝から飛び降りた。


 フワッとした浮遊感。そして一気に流れる景色の中、私は体を最大限まで広げソラを包み込む。


 30メートルの高さからの落下になんてスライムも人も耐れる訳がない。HPが高いナーガでも大怪我は免れないだろう。


 でも、(ハル)は違う。

 私には『ノーダメージ』がある。どんなダメージでも一度は必ず防げる、トラちゃんとリーハちゃんから貰ったスキル。


 近付いてくる真っ暗な水面に、大丈夫だと分かっていても怖くて思わず目を瞑る。ソラの体が自分の中から出ないよう必死に抱き込む。


 そして……


 水しぶきが上がる。衝撃はあるけれども痛みはない。

 『鑑定』してソラのHPにも変化が無い事を確認しほっとした。


 見上げた滝の上に、身を乗り出してこちらを伺うナーガの影をみて体が強張る。

 川に流されながらナーガの影ををまばたきもせずに見続けた。


 ナーガの姿がどんどん小さくなっていく。


 そしてついに姿が見えなくなり、強まる雨の中、ナーガの悔しげな咆哮が森に響き渡った。

【後書き】

やっとここまでこれた……。

もう少ししたら新キャラ出てきますので、お楽しみに!

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