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元アラサー女子はスライムとして生きて行く(仮)   作者: おんじゃく
第一章 (スライムと少年)

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33 解放

 ちらりとソラを見る。


 ソラは短剣を握りしめて立ち尽くし、ピクリとも動かない。俯いているから表情も分からない。


 戦闘音が暗い森の奥から聞こえてくる。遠くはないが近くもない距離。


 『索敵』と『鑑定』でナーガと盗賊達のHPを確認し、顔をしかめた。あまりにも残酷な数字が表示されていたから。


 “魔石”を使った攻撃は確かにナーガに有効だった。一時的とはいえ動きを止める事が出来たのも事実だ。けれど“魔石”で削る事が出来たナーガのHPは僅か30。

 麻袋にどんな魔石がいくつ入っているかは分からないが、ナーガに勝つことは不可能だろう。


 だが逃げる事も難しい。ナーガには『追跡』のスキルがある。


 全員バラバラに逃げれば誰かは助かるかもしれない、それなのに逃げずに立ち向かう事を盗賊達が選んだのは、彼等が戦って生きてきた人間だからだろうか。


 そして逃げる事が難しいのはソラも同じだ。ソラもまたナーガに感知されているはず。盗賊達が死ねばナーガはソラを追って来るだろう。


 気まぐれか、優しさか。

 あの男――バナハという男がくれたチャンスを無駄にしたくない。ソラに声をかけようと口を開いたその時、一際大きな戦闘音と共に大地が揺れた。


 盗賊達を表す黄色い点が2つ減っていた。


 ソラがふらりと一歩森へ歩みを進めた。


(ソラは戦う気かもしれない)


 そう思った瞬間焦りがピークに達する。


 どうしよう、どうすればソラを止められる? なんて言えば諦めてくれる? 泣けばいい? それとも怒る?

 気持ちばかり焦って何も思いつかない、そして……



「行くの?」


 驚く位普通な声が出た。

 ソラが立ち止まり青い目が私を映す。こんな時なのに“綺麗だな”と思い、こんな時に何考えてんだと可笑しくなってちょっと笑った。

 ソラが怪訝そうな顔をする。

 そりゃそうだ。死ぬかもしれない時に笑うって、頭が可笑しくなったと思われても仕方がない。でもお陰で少し落ち着いた。


「ソラは今”幸せ”って思える?」

「なに?」

「私を育ててくれた人がね――前世でだけど。死ぬ前に言ってた。ひとつでも“幸せ”って思える事があったなら、それはちゃんと生きてきた証拠だって」

「……」


「”幸せ”って思えないなら、それはまだ死ぬ時じゃないって事だって。……ソラは自分が”幸せ”って思える?」


 ソラが困ったような顔をする。


「そんなの。分かんねぇよ……」


 そうだよなぁ。

 だって、ソラはまだ11年しか生きてないのだ。



 そう、まだたったの11年(・・・・・・・)



 そう思った瞬間、今まで経験した事のない程のとてつもない悲しみに襲われた。涙腺が壊れたんじゃないかと思うくらい涙がぼろぼろ零れた。


 ソラが困惑した顔で私を見ていた。

 幼い顔だ。まだ親の庇護下にいてもおかしくないほどに。


(なんでこの子(ソラ)がこんな目に会わなきゃいけないんだ)


 そう思った。


 私はソラの事を何にも知らない、いきなり泣き出して困らせて、勝手に憐れんで、馬鹿だ、身勝手だ、お節介だ、余計なお世話だ、でも、それでも


「私、ソラに、死んでほしくない!」



 ソラは驚いて、そして思いっきり不機嫌そうな顔をして、それからぼろぼろ泣き続ける私を……


 握り潰した。


「うっぶぅぇっ!?」


 な、なんで!? え? え? ホントなんで?


「なに勘違いしてるか知らねぇけど、俺、死ぬ気ねぇから」

「……へ?」

「馬を逃がしに行くんだよ」


 そう言って小屋の奥を指でさす。

 よく見たら森の前に小さな獣道があって、その先に馬小屋のような物が見えた。

 そういえばナーガを追って『索敵』した時、外にいた盗賊がいた場所だ。馬の世話をしていたのかもしれない……。


「……」

「……」


(あ、なんか一人で盛り上がっててすんません)


 ちらっとソラを見ると呆れたような視線を向けられた。(こいつアホか)という副音声が聞こえた気がした。


 お、おぅ。痛い。私、痛い。



 すっ……と視線を反らす私にソラはため息をついて一言。


「あほ」

「す、すみません でした」


 おばちゃんもう黙るんで許したって下さい。ソラは私を肩に乗せ直し馬小屋へ走った。


「ちゃんと捕まってろよ」

「あ、はい」



 馬小屋には3頭の馬がいて落ち着きなく地面を踏み均している。ソラは一番手前にいた一番大きな黒毛の馬を馬小屋から出す。


「馬に乗って逃げるの?」

「違う。俺と一緒にいたらこいつらも殺される。でもここに置いて行っても死ぬ。だから逃がすんだ」


 そう言ってバナハから貰った短剣で手綱を切って外す。残りの2頭も馬小屋から出し手綱を切っていく。


 ソラが馬を解放するのを見ながら思い出した。馬は動物だから『索敵』に載らないのだ。虫が『索敵』に表示されないのと一緒。

 でも、だったら馬に乗って逃げた方がいいんじゃないのかな? と、私が疑問に思っていたのが分かったのか「森の中じゃナーガの方が馬より早い」との事。


 全ての馬を解放し終わると、ソラは馬小屋に置いてあった布を一枚とり、馬達に向かって「じゃあな」と言ってその場を離れた。

 ソラの肩から振り返って見ると、一番最初に解放された黒毛の馬がソラをじっと見ていた。だがやがて残りの2頭を引き連れて駆けていった。


 その時、一際大きな音がして地面が揺れ、慌てて『索敵』を確認した。


 盗賊を示す黄色い点が残り1つになっていた。

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