変態と書いて本物と読む
まさかのスライム一択でした!
スライムってあれでしょ? あのRPGの最弱モンスター。
始まりの町近くにいて力の使い方のコツをつかむために一番最初に殺される可哀想なモンスター。
「絶対に無理」
「そこをなんとか……」
手を組み合わせてうるうるした目で見てきてもダメ。 ダメなものはダメ! 可愛くってもダメ!
「ですが転生しなくては輪廻の輪にはもどれません」
「じゃあせめてミジンコとか寿命が1ヶ月程度で終わるような種族にしようよ! そしたら自動的に輪廻の輪に戻れるからその次は記憶なしからのスタートでいけるよね? そもそもなんで記憶ありのまま転生!? スライム一択なのもおかしくない!?」
人であった頃の記憶持ちのスライム……。絶望的な未来しか見えない。
それにスライムってそもそも寿命あるの? え、ありません? じゃあ無理、無理無理無理! 絶対無理!!!
断固拒否の姿勢を貫く私と、そこをなんとかと私ににじりより食い下がる女神ちゃん。
この娘、結構しぶといな!
そんな攻防をどれくらい続けていただろうか、突如めんどくそうな声が白い空間に響いた。
「ま~だ落としてなかったのかニャ」
…………ニャ?
おもわず声のした方を振り返ると、そこには一匹の茶トラのネコがいた。
しかも瞳と同じ色のちっちゃなオリーブ色のポシェットを身に付け、二本足で立っている。
「主神様!」
うん? 女神ちゃんいまなんつった?
「たっく、本当にリーハはどんくせぇにゃあ……。女神にゃんだから人間の一人や二人さらっと捌いてほしいにゃ」
やる気なさそうにトテトテとこちらへ近づいてくる茶トラのにゃんこ。
ちょい太めのしましま尻尾がゆらゆらゆれる。
(ぉ、おお、しっぽの先っちょ白い!)
「しかし説明して了承を頂かなくては転生の処理は出来ませんし……」
「バッカ、だからって別に1から10まで親切丁寧に説明しにゃくてもいいにゃ! そもそも、そういうことをでっけー声で言うんじゃにゃいにゃ! 聞かれちまったじゃにゃーか!! シャー!!!」
「すみませんすみません」
え、ナニコレ? なんか色々と突っ込みどころがありすぎて訳わからん。
突然現れた口の悪いにゃんこは女神ちゃんの上司? しゅしん? しゅしんってもしかしなくても主神? 主神って一番偉い神様じゃなかったっけ? え、猫の神様とかじゃなくって?
しかも見た目は可愛いにゃんこなのに言ってることは893……。
でもにゃんこ。茶トラのしっぽぶっといにゃんこ。
「……ねこ……ねこ……」
「あ~あ、固まっちまったにゃ。ど~うすんにゃー。その可愛い顔でにっこり笑って『ファンタジーな異世界に転生できるにゃ~』って言って、とっとと転生させればそれで終わりだったのににゃ」
「だ、ダメですよ! 大体、私が扉の鍵をかけ忘れたのは主神様が私に内緒で地球に遊びに行っちゃったからじゃないですか!」
「にゃんと! 見習い女神がくちごたえかにゃ? 最近の若いやつはなってないニャア……んにゃ?」
「ねこーーーー!!!!!!」
「ニギャーーーー!?!?!!」
「ハ、ハルさん!?」
「ね、ねこ! ねこぉ!!」
「なんにゃ!? はなすにゃ!!」
「ハ、ハルさん落ち着いて下さい!!」
「スリスリするにゃ!! 匂いを嗅ぐにゃぁ!!」
10分後。
女神ちゃんの真っ青になった顔と、本気で嫌なときのにゃんこの「シャー!!!!」という声に我に返った私は、女神ちゃんと女神ちゃんの後ろに隠れているにゃんに土下座した。
「ごめんなさい」
「ハルさん、ねこ好きだったんですね」
「そうです。自他共に認めるねこ好きです」
「……ほっぺた引っ掻かれてますが大丈夫ですか?」
「全然平気! これ、ご褒美だから。ふっ」
「そ、そうですか……」
「そいつ、変態だにゃ……」
誉め言葉ですね!
【後書き】
全然転生出来ない…。
なんで?
こんなつもりは無かったのに…。