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元アラサー女子はスライムとして生きて行く(仮)   作者: おんじゃく
第一章 (スライムと少年)

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31 化物

 しとしとと雨が降る。


 ソラに「一緒に逃げよう」と言った後、私は1人、寝床にしている木の根本に戻った。


 ソラは結局頷いてはくれなかった。


「やっぱりすぐには無理か……」


 自分の命と今後の生活がかかっているのだ、そう簡単に決断する事は出来ないだろう。

 しかも逃亡仲間は最近出会ったばかりのスライム一匹。


 はぁ~と深いため息をつく。


 ぼんやりと雨粒を眺めていると、痣だらけのソラの顔が浮かんできて怒りと悲しみがぶり返す。


「……このままで良い訳ない」


 『索敵』で周囲の地形を確認する。

 逃げるなら川下だ。


 ソラに聞いた話では、少し遠いが川沿いに山を下ると港町があるのだそうだ。小さいながらも神殿もあり、それなりに賑わっているらしい。

 罪を犯している者は神官にはなれないそうなので、取り敢えずは神殿に逃げ込めば良いだろう。


 改めて地図を見る。

 『索敵』の地図があるので迷う事はないが、あまり森の中は移動したくない。

 レベルが低いとはいえゴブリンもヤートも生息しているし、毒草なんかも多い。


 けれど川沿いを進むルートも難しい。

 ここから少し下った先に大きな滝があるのだが、かなり高さがあった。恐らく30メートルはあるだろう。それを飛び降りるのは不可能だ。

 滝の周囲の壁を伝って降りるのも難しい。

 壁の土はかなり脆く、生えている草花も背丈が低いものばかりで、ちょっと引っ張っただけで直ぐに抜けそうだった。

 体重がほぼ無いスライムの私は大丈夫だが、ソラには無理だろう。


「やっぱ迂回するしかないか」


 そう呟いた次の瞬間、すっと冷たい風が吹いた気がした。


 体が震え、冷や汗が止まらない。

 上手く息が吸えずに呼吸が苦しい。


(怖い!!!!)


 これは恐怖だ。


 視線だけを木の根本の隙間に移動させる。

 いつの間にか外は薄暗くなっていた。雨が降っている以外はいつもと何も変わらない巣穴からの景色。

 けれど森が異様な程に静まり返っている。


 『索敵』画面を確認すると、地図の端にこちらに移動してくる赤い点がひとつ確認できた。他の赤い点は全く動かない。


 恐怖に震えながら動く赤い点を『鑑定』した。



【種族】ナーガ

【レベル】68

【HP】6560/6560

【スキル】『追跡(level7)』『索敵(level6)』『切断(level5)』



 「ひっ」と小さな悲鳴がこぼれ慌てて触手で口を覆う。まだ距離があるためナーガに私の声が聞こえる筈が無いと分かっていても、そうせずにはいられなかった。


(レベル68!? HPが6千!? なんでこんな化物がここにいるの!?)


 ナーガはゆっくりと近付いてくる。


 私が今まで知る限り一番HPが高いのは“バナハ”という盗賊の1820という数字だ。

 その数字にさえ驚いていたのにその約3.5倍以上だなんて、化物以外に例えようがない。


 必死で息を殺しているうちに自分の『擬態』のレベルが上がったのを感じた。それほどの危機だという事だろう。


 ズル……という重い物が地面を這うような音がどんどん近付いてくる。

 そして『索敵』画面の赤い点と私の点が重なる程に近くなったその時、木の根本の隙間から黒い鱗に覆われた蛇の胴体のような物が見えた。

 私の知る『ナーガ』といえば人の上半身に蛇の下半身を持つモンスターだが、この世界でも蛇のような体を持つ事は変わらないらしい。上半身は怖過ぎて確認出来ない。


 ナーガは歩みを止める事なく移動し続ける。

 あと少しでナーガが視界から消えると思った時、ナーガの動きが止まった。


(なんで!)


 私の疑問をよそに、ナーガは方向を変えて移動し始めた。幸いにも私のいる場所からは遠ざかってくれるようなのでほっとする。


 だが、ナーガの移動する音が聞こえなくなったので『索敵』を再確認した私は――――


 ゾッとした。


 ナーガは川を渡り始めていた。


 慌ててソラの居場所を確認する。

 ソラ達は『擬態』や『潜伏』のスキルを持っていない。それでも魔物がいる森の中で安全に生活していけるのは≪結界石≫というアイテムがあるからだ。≪結界石≫を住んでいる小屋の四隅に置くことにより、その結界の中では『索敵』から身を隠せるのだとソラが教えてくれた。


 けれど≪結界石≫にもランクがある。


 ソラ達が使っている≪結界石≫のランクで防げる『索敵』のレベルは確か――――


 気が付けば私は木の根本から飛び出していた。


 魔物としての本能が止めろ! 行くな! と叫ぶ。行ったら死ぬぞと語りかけてくる。


 怖い! でも走る!

 ソラを失う事の方がもっと怖いから!


 ナーガは確実にソラがいる方向へ向かっている。人化して川を飛び越えながらソラと盗賊達のいる場所を確認する。


 ソラは小屋の外。小屋の中に4人、小屋の外の少し離れた場所に2人。外にいる盗賊は小屋へ戻ろうとしているのか移動中だ。


 一度も入った事のないソラが住む森へと入ると狭いながらも小さな獣道があった。ソラが毎日歩いてできた道だろう。

 ナーガは道ではなく森の中を移動しているので、私はその道を全速力で駆ける。


 途中、森の中を移動しているナーガらしき影が見えた。大きい。3メートルはあるかもしれない。


 込み上げてくる恐怖と吐き気をグッと堪え、私は走るスピードをあげた。



 道を進んだ先にぽかりと拓けた場所があり、そこに小さな2階建ての粗末な小屋が建っていた。

 雨風で傷んだ板壁には所々隙間があるのだろう、そこから盗賊達の声と揺らめく蝋燭の灯りが漏れている。


 人の、盗賊達の気配に跳ねる心臓を抑えながら、私は急いで小屋を回り込んだ。


 ロープに引っ掻けるように吊るされた洗濯物を取り込んでいるソラの背中が見えた。


 近付く私の足音に気付いたソラがこちらを振り返り、ギョッとした顔をする。なんでと不思議に思った次の瞬間、自分の失敗に気付く。


(そういえば人化したまま(サロ○パス)だった!)


 焦る私に、けれどもソラは逃げずに私を凝視している。そして小さく呟いた。


「……もしかして……ハルか?」


(なんで分かったの!?)


 エスパーか? エスパーなのか!? と、そんなどうでもいいことを心の中で叫びながら、私はソラに駆け寄り叫んだ。


「ソラ逃げて!」

「……っ! バカ! でかい声出すな!」

「ナーガが来る!」


 私の言葉にソラが眉をしかめる。

 その時、小屋の扉が乱暴な音をたてて開く音がした。


「おい! うるせーぞガキ! なに騒いでやがる!」


 ソラは舌打ちをすると、小さな声で私に確認してきた。


「ハル! 取り敢えずスライムに戻れ! ナーガはどっちからくる!」


 スライムに戻りなからナーガが来る森の方を指差す私を拾い上げるながら、ソラは小屋の扉の方に駆けながら叫ぶ。


「イヴァン! ナーガが来る!」

「はぁ? 何言ってんだ? ナーガなんて化物が……」


 小屋から出てきたイヴァンと呼ばれた盗賊の姿が見えた。そして盗賊がこちらに一歩踏み出したその時。


 ヒュッという風切り音と共に、イヴァンと呼ばれた盗賊の頭が――――消えた。


 血が勢いよく吹き上がる。


 その向こうに化物(ナーガ)がいた。

【後書き】

ハル目線に戻りました。

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