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元アラサー女子はスライムとして生きて行く(仮)   作者: おんじゃく
第一章 (スライムと少年)

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29 番外編~ラグノー~

「おい、それはなんだ」


 目の前にある物体を見て俺は思わず眉をしかめた。


「……何って。……今日のご飯?」


 白いスライムが俺を見上げながら、手に持った竹で出来た菜箸とやらで錬成空間内のそれ(・・)をつつく。


 そこには様々な食材が――嘘か本当か分からないが――魚の骨から取った出汁とやらの中で煮込まれていた。

 それは別に良い。見た目も旨そうだ。しかし、ひとつだけ気になる物が入っていた。


「その……棒みてぇなのは何だ?」

「これ?」


 そう言って菜箸でそれを挟んで持ち上げる。間違いない。一歩後退りした。


「ラグノーの脚だよ」


 俺は思わず手を口に当てた。


(なんてモン入れてやがる!!!)


 ラグノーは8本の足を持つ魔物だ。

 非常に好戦的で、身の危険を察すると鋭い牙を鳴らして仲間を呼ぶ。一匹のレベルは低いが毒を持っている事もあり集団で襲われると非常に厄介な相手だ。

 戦いに慣れている冒険者でもラグノーには手を出さない。


 そのグロテスクな見た目から山の悪魔とも呼ばれ忌避されている存在だ。

 そのラグノーが――脚だけとはいえ――食材として煮込まれている。


「……それ食えるのか?」

「美味しかったよ?」


 もう食ったのかよ!


「……ラグノーには毒があるだろ?」

「脚には無いから大丈夫だよ」


 そう言いながら竹の器に盛り、はいどうぞと目の前に置かれる。


 グロイ。


 淡い色合いの野菜の中にどす黒い物体が横たわっている。そっと箸とやらで持ち上げてみると、脚の先に細かな黄色い毛が生えている。

 気色悪ぃ。


「おい」

「何?」

「これ本当に食い物か?」


 ハルがムッとしたような顔をした。こいつ機嫌が悪いと少し膨らむんだよな。


「ちゃんと味見してますぅ」


 そう言いながらハルは、錬成空間に残っていたラグノーの脚を一本取り出した。

 なにするつもりだ? と思いながら眺めていると。


 バキッ


 ラグノーの脚の、関節の部分を勢いよく折った。

 スープが飛び散るのもお構いなしに、グチッベキッと音をたてながら捻り切る。

 そして完全に千切れた脚を両側からゆっくり引っ張ると、殻の中から白い肉がどろりと出てくる。


 自分の顔がひきつっているのが分かる。


 ハルは俺を一瞥すると、ラグノーの肉を口に入れた。


「!!!」


 マジかよ! こいつ食いやがった!!!

 声にならない悲鳴が喉を震わせる。


 そんな俺を無視したままハルはモグモグと口を動かし、ゴクンと飲み込んだ。


 そしてドン引きしている俺をチラリと見て、馬鹿にしたように「へっ」と笑った。


 くっそ腹立つ。




「おい、ガキ……ってお前、何変な顔してんだ?」


 川原から戻ったら壊れかけの小屋の前に置いてある椅子に座っていた酒好きのイヴァンに声を掛けられた。よく見れば近くに女好きのルドルフと、俺と同じ名無しで仲間内からトカゲと呼ばれる痩躯の男がいた。

 三人が囲んでいるテーブルの上にカードが散らばっている。賭け事をしていたのだろう。

 神経質なトカゲがカードを纏めている。


「俺、変な顔してる?」

「ああ、なんかあったのか?」


 イヴァンは酒癖が悪いが素面の時はまともな奴だ。今日は珍しく酔っていないので安心して近寄れるし喋れる。


「……なぁ、ラグノーって食えると思うか?」

「はぁ!?」


 イヴァンの素っ頓狂な声にルドルフとトカゲが此方を見てきた。


「お前何言ってんだ!? あんな気色悪ぃもん食えるわけネェだろ?」

「なになにどったの?」


 ルドルフが赤毛の髪をぐしゃぐしゃとかき混ぜながら近付いてきた。ルドルフは面白い事や変わった事が好きなのだ。


「いや、こいつがラグノーは食えるのかって」

「おえっ。キモッ」


 カードを片付け終わったトカゲも会話に加わる。


「何でそんな事を思ったんだ?」

「河原でラグノー見て何となく思った」

「うえ~何となくでも普通思わねぇだろ」

「ラグノー食うなんて聞いたこともねぇぜ」


「……やっぱそうだよな」


 普通はそう思うだろう。あんなモンが食えるとは思わない。


 だが俺は食った。

 ハルの「お子様にはこの味は分からないか……」という言葉に反発して、思わず「俺も食う」と言ってしまったのだ。俺が「食う」と言った瞬間のハルのニヤリとした顔に、嵌められたのだと悟ったが、次の瞬間には殻を剥き終えたラグノーの脚を差し出されていた。味はというと……。


(……なんであんなに旨いんだ)


 はぁ……とため息をついた時、小屋の向こうからこちらに近付いて来るボスとサソリの姿が見えた。ボスはいいがサソリはヤバい。あいつは俺、というよりガキが嫌いだ。


「俺、洗濯物干してくる」

「お、おお」


 俺はイヴァンに声をかけてその場を離れた。




「あいつヤバくね?」


 ルドルフの言葉にイヴァンは頷いた。


「ああ、ラグノーの脚が食えるかとか普通考えねぇよな?」

「食事の量が足りてないんじゃないか?」


 トカゲの言葉にイヴァンが呻く。


「あ~あの年頃は食っても食っても腹が減るからなぁ……量を少し増やしてやるか?」

「え~俺の取り分が減るだろぉ」

「ガキか!」

「ガキはあいつだろ!」

「二人とも止めろ。取り敢えずポムを食わせれば良いだろう。あれは腹に溜まるからな」

「だな」

「へーへーお優しいこって」



 その日の夜、薄いスープと硬いパンのいつものメニューに蒸かしたポムが加わった。不思議そうにしていると、イヴァンが「たまには良いだろ」と言って肉を少し分けてくれた。

 ルドルフが「ズリー」と騒いでいた。

【後書き】

地球でいう昆虫食みたいなイメージです。

美味しさを知っている人にとっては魅力的な食べ物でしょうが……。


味は

ハル「見た目は変わった蟹、味は甘海老」

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