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元アラサー女子はスライムとして生きて行く(仮)   作者: おんじゃく
第一章 (スライムと少年)

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27 迷子

 魚とクレッテ――牛蒡もどき――の葉っぱの包み焼き。≪ポム≫と光茸とタンポポの素揚げ。筍……じゃなかった、フートゥとヤマのお吸いもの。


 ちなみに新食材の≪ポム≫はゴルフボールサイズのじゃがいもです。

 野生の芋なので形は歪だけど味は良い。そして驚く事なかれ、ポムは木に実るのだ。しかも実がカラフル――味は全部一緒だけど。

 ひとつの枝に5~6色の実が10~20個程、蜜柑のように実る。木の枝から色とりどりの実が鈴生りに実った様はなかなかに可愛らしい。


 今日も美味しそうに出来た。けれど私は料理の前で唸っている。何故かというと……。


「塩が足らん」


 そう、岩塩がそろそろ尽きそうなのだ。

 『収納』にはいざという時の為に大きめの岩塩の欠片を1つ入れていたのだが、大半は洞穴に置いてきてしまっている。

 ポラと魚の出汁でなんとか誤魔化しながら節約していたのだがそろそろ限界だ。洞穴に取りに帰る事も考えてはみたが、そもそもどのくらいの距離を流されて来てしまったのかが分からない。

 川上に戻ってみるか川下で新たに探すか……。レベルも上がっているし少し位遠出をしても大丈夫だろうか?


 悩んでいたらソラが『索敵』に表示された。


(ソラにも聞いてみよう)


 もしかしたら何か知っているかもしれない。そう思って森の中から出てきたソラに声をかけようとして、私は硬直した。


 せっかく腫れが引いてきた顔が出会った頃に戻っていた。


 居ても立っても居られずに川べりまで移動する。


 ソラが川を渡り座った所で声をかけようとしたら、先にソラが不機嫌そうに口を開いた。


「何にも言うな。あと、その顔やめろ。……大丈夫だから」


 そう言われてぐっと言葉を飲み込む。


(なにが大丈夫だ! そんなわけ無いじゃないか!)


 頬は腫れ上がり赤黒く変色してしまっている。口元も切れて血が滲んでいるし腕にも細かな擦過傷がある。服に散った小さな血の跡を見て全身に震えがはしった。


 俯いて息を止めて涙を堪えた。私に泣く資格はない。怒りと悲しみと悔しさで頭の中がぐちゃぐちゃになる。


 盗賊達と、そして何よりも今まで何もしなかった自分自身に一番腹が立つ。


 怪我が順調に治っていたから。そして、盗賊達がソラと同じ環境で育ったと聞いたから。

 いつの間にか安心してしまっていた。大丈夫だと思ってしまっていた。だから迷う事が出来た。ソラを連れて逃げ切る事が出来るかどうかを。逃げた後の生活の事を。


 でも今ハッキリ分かった。

 次にソラが暴力を振るわれて死なない保証なんて何処にもないという事が。いや、初めから迷っている暇なんてなかったのだ、ソラは常に命の危険に晒されている。


 黙々と食事をする傷付いたソラの横顔に、私は覚悟を決めた。


「ソラ、一緒に盗賊達から逃げよう」


 食事の手が一瞬止まり、再び動き始める。


「……俺は奴隷だ、逃げるのは不可能だ」

「それは隸属の印があるから?」

「……」

「解除出来ると言ったら?」


 再び手が止まり青い瞳が私を見た。その瞬間、あれ? っと思った。ソラの瞳の中に畏れのようなものを感じたからだ。


 けれどすぐに思いあたった。ソラは日常的に暴力を振るわれているのだ、逃走が失敗し連れ戻された場合を想像してしまったのだろう。その恐怖は私以上に大きいはずだ。

 でもそれでは駄目だ。ここにいてもソラは絶対に幸せにはなれない。


 私の中にも迷いと畏れはある。この選択はソラを必ず危険に晒すと分かっているから。

 最悪の結果が脳裏をよぎり言葉が詰まる。

 けれど振り払う。


 今、この迷いと畏れから逃げては駄目だ。逃げた先にはきっと絶望しかない。


 私が揺らげばソラが惑う。だから、ソラの目を見据えて自分の気持ちを伝える。


「私はソラが大事だよ」


 ソラが驚いたように目を見開く。


「だからソラが傷つくのは嫌だし幸せになって欲しい」


 ソラの瞳の中の畏れが薄まり、そこに戸惑いが混じる。


「ソラはどうしたい? どうなりたい?」

「俺……?」


 ソラは戸惑ったように視線を宙に彷徨わせた。


「俺が、どうしたいか……?」



 少しの沈黙の後、ソラがポツリと小さな声で呟いた。


「そんな事、考えた事もなかった……」


 途方にくれた迷子の子供のようだと思った。

 行くべき場所も、帰る場所も失った小さな子供。

 その顔が、声が、あんまりにも不安定で、幼くて、寂しそうで、頼りなくって、悲しくて。


 私は、なんだか無性に泣きたくなった。

【後書き】

次話はソラの話の予定です。

閑話になるか、何話か続く事になるかは不明。

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