23 少年と私。2
私は今非常に機嫌が悪い。
こんなに美味しそうな私に向かって「気色悪ぃ……」とは! なんて失礼な少年だろうか。いくら怪我人とはいえ、言っていい事と悪い事がある。
プルプルするのを止めて少年をジロリと睨む。
少年は顔をひきつらせながら私を見る。
「も、森の主?」
「ブッブー。ハッズレー。そもそもそんな奴いませ~ん」
あ、物凄いイラッてした顔された。
ちょっと大人気なかったか、反省。
そう言えば私の言葉がちゃんと通じてる事に今更ながらに気付いた。
少年は明らかに日本語ではない言語を使用しているのに、私には日本語に聞こえる。不思議だ。便利だからいいけど。
「ゾジャの実のお焼きだよ、お腹空いてるんでしょ? 早く食べなよ」
「……毒とか入ってないだろうな」
ニッコリと微笑んで少年を見る。
「食べ物を粗末にする奴など滅びてしまえ」
「……そうか」
なんか疲れたような顔をしている少年を尻目に、お焼きの入っている包みをほどいて中身を見せる。少年の視線はお焼きに釘付けだ。
止めとばかりに『錬金術』で錬成空間を作り、お焼きを温め始める。
しなっとしていたお焼きの表面が徐々にパリパリになって行くのが分かる。
振り返って少年を見る。
どや。
「そんな事も出来るのかよ」
少年は持っていた盥を地面に置き、顔をひきつらせながらもゆっくりとこちらに近付いてくる。まだ警戒はしているが空腹には勝てなかったようだ。
いい感じに温まったお焼きを錬成空間からアチアチ言いながら取り出して、包んでいた葉っぱの上にのせる。
香ばしい匂いが辺りに漂う。
少年は少し離れた場所に立ってこちらを窺っている。
「座って」
「あ?」
「ちゃんと、座って、食べて」
ちょいちょいと近くの平な石を指しながら少年に教育的指導を行う。
少年はまたもや複雑そうな顔をする。
「……お前は俺のおかんか」
ため息混じりに呟きながらも大人しく座ってくれた。
ふむ、口は悪いがなかなかに聞き分けの良い少年である。後でなでなでしてあげてもいい。
少年が座ったのを確認してから、私はお焼きの乗った葉っぱを差し出した。
「どうぞ」
少年は差し出されたお焼きをひとつ手に取り、臭いを嗅いだ後、恐る恐る口に運んだ。
その後は早かった。
あっという間に3つのお焼きが少年の胃袋に収まった。結構どっしりした食べ物なのにまだ物足りなさそうな顔をしている。仕方ないので『収納』からゾジャの実を取り出して錬成空間で焼く。
「『収納』まで使えるのかよ……」
少年は諦めたように呟いた。
「本当、お前なんなの?」
「知らね」
少年が睨んできた。
でもしょうがないじゃないか、私が“何か”なんて説明出来ない。う~むと、考えて自分で分かっている範囲の事を答える。
「見て分かんない? スライムだよ」
「普通のスライムは喋らねぇよ、それにそんな変……色も違う」
変って言おうとしたので『あぁん?』って顔で凄んだら言い換えた、お利口さんですね。
私は焼けてパカリと開いたゾジャの実をひとつ取り出し、砕いた岩塩を振りかけて葉っぱにのせた。
美味しそうに頬張る少年。食べ物に関しては警戒心が溶けたようだ。
まぁ、目の前で調理してるのが大きいのだろうけど。
ゾジャの実の焼け具合を見ながら少年の問いに更に答える。
「私の色が変わってる理由は分からない。でも私が喋れるのは私に前世の記憶があるからだと思う」
「……は?」
「私、前世は人間だったから」
「……は?」
ヤマを取り出し若い葉っぱの部分だけを千切る。ヤマの若い葉っぱはアクがない上に柔らかくて食べやすいのだ。
それ以外の部分はポーションに使うので再び『収納』に仕舞う。
焼けたゾジャの実の上にヤマをのせ、ヤマがしんなりしてきたら出来上がりだ。上から岩塩をかけて味付けしたらお皿にのせる。
「食べないの? 冷めちゃうよ」
ちょいちょいと葉っぱの上に乗ったゾジャの実を触手で指す。
大人しく食べる少年。
岩塩だけよりヤマをのせている方が好きらしく、目がキラキラしている。次もこれにしてあげよう。光茸も焼くか。
「ちなみに前世はイシュハンメルとは違う世界」
「……は?」
「独身、アラサー女子でした」
「……は?」
他に何かあったかな……と考える。あ、そうだ、大事な事をいい忘れていた。
「名前は“横山ハル”。ちなみに“横山”は苗字だから」
「……」
「“ハル”でいいよ、宜しく」
ついに「……は?」も言わなくなった少年に触手を差し出した。少年は固まってしまっている。
仕方がないので左手の小指に触手を絡ませて勝手に握手しておいた。なんだか指切りみたいになったけど仕方がない。
もしかしたら触られるのを嫌がるかな……と思ったが少年は抵抗しなかった。ちょっとだけビクッてしたけど。
「じゃあ次は君の番だよ」
君はいったい何者なの?
【後書き】
ハルさんは自分が転生した事を隠すつもりはありません。
進んで話はしませんが、聞かれたら答える。
それで信じてもらえなくても「まぁいっか」程度に考えてます。




