21 人化
「ダルイ、シンドイ、ネムイ」
人間だった頃の口癖を呟きながら私は川原へと向かっている。
呟いた言葉どおり、歩みは遅くプルンと丸い体も何時もより平たく潰れている。
少年が去って行った後、私は川原から少し離れた場所の木の根本に僅かな隙間を発見し、その中で体を休める事にした。
が、やはり『索敵』に表示される少年の事が気になって仕方がない。
目を離した次の瞬間に少年のHPが0になってしまうのではないかと、恐ろしくて一晩中『索敵』画面に表示された少年のステータスを見続けた。
そして、それと同時に少年の周囲を『鑑定』した結果、少年と一緒にいるのが6人の盗賊達だと分かった。
『鑑定』したら【職業】盗賊 と表示されたので分かった。
小さい声で思わず「職業なんか~い」って突っ込んだけど。
あと少年以外に隸属の表示がある人間はいなかった。
それから少し気になったのが、盗賊達の中にMPの表示がある人間がいないという事だ。
隸属は魔方陣に魔力を流し込む事によってその力を発揮すると『鑑定』にあった。なら、魔力を少年に流した魔力持ちがいるはずなのに、盗賊の中にはその魔力を扱えるMPを持っている者がいない。MPを持っているのは隸属中の少年だけだ。
もしかしたら何処かへ出掛けていて今はいないだけかもしれないし、人を隸属状態にする事が出来る魔法道具なんかがあって、それで少年の事を隸属状態にしている可能性もあるけれど……。
一晩中考えた。
けれど、やっぱりこの先どうするかを決める事は出来なかった。
情けないとは思うが助けた後の事を考えると決断する事が出来ない。そしてその決断の結果少年を死なせてしまうかもしれないと思うとどうしても躊躇してしまう。
それに自分が痛い目に会うのも嫌だ。
ただ少年の傷はなんとかしてあげたい。
せめてポーションさえ渡せれば……。と考えに考えた末に、私はあるアイデアを思い付いた。
それが出来るかどうかの確認の為に私は早朝の川にやって来たのだ。
私が打ち上げられた場所は川の流れが滞っており水面に姿が写せる。ここなら結果がすぐに分かる。
そう、そのアイデアとは私が人間に擬態して少年に直接ポーションを手渡すというものだ。
それに上手くいけば――言葉が通じるかどうかは不明だが――話をする事が出来るかもしれない。
当然警戒はされるだろうけど、スライムのまま渡しに行くより遥かにましだろう。
さすがにスライムから「ポーションどうぞ」といきなり手渡されても受け取らないと思う。
最悪、攻撃されて終了だ――私が。
なので、スキルレベルが上がった『擬態』で人間になれるかどうか確認する為にここにやってきたのだ。
なんとなく、感覚で人間になれる確信はあるのだが、実際なってみなくては分からない。それにもしかしたら時間制限があるかもしれない。
私は周囲に敵がいない事を確認すると『擬態』で体を変化させてみた。
自分の体が大きく膨らんでいく。なんだか風船になった気分だ。
人間の手を、足を、顔を、イメージしながら人の自分を造り上げていく。
やがて一定の大きさになり、形が安定したのを感じたので目を開けた。
白い小さな人間の手が目に入ってきた。どうやら子供サイズが今の限界のようだ。
水面に写る“人間”の自分をみる。
水面に写っていたのは10歳位の少女だった。
白い肌。緩くウエーブした腰までの白い髪。
人間になった手で自分の顔をペタペタとさわってみる。
体温は若干低い気もするが触感も人間の肌そのものだ。凄い、本当に人間の姿になっている。
立ち上がって全身をくまなくチェック。
手が三本あったりしっぽが生えたりとかもしていない。改めて水面に写る自分を見る。
「うん」
水面に写る少女が決心したように頷く。
「却下」
そう、却下。
幾らなんでもこれは不味い。
確かに姿は人間だ、完璧と言ってもよい。見た目も自分で言うのもなんだがなかなかに可愛らしいし、服もちゃんと着ていてイメージ通りのシンプルなワンピースだ。
『擬態』はかなり良い仕事をしてくれたと思う。
駄菓子菓子。
違った、だがしかし。この姿には致命的な欠点がある。
「これサロ○パスのCMの人だ」
子供バージョンだけど。
全身真っ白。眼も真っ白。服も真っ白。
これでは色の付いてないマネキンだ。
こんなんが森からひょっこり出てきたら悲鳴を上げて全力で逃げる自信がある。この姿で会う位ならスライムのまま会った方がまだましだ。
私は少年にポーションを渡し、出来る事ならお話がしたいのだ。
このままではたちの悪いイタズラドッキリになってしまう。傷だらけの少年にそれはない、どんないじめだ。
「いいアイデアだと思ったんだけどな……」
がっかりしながら水面に写る自分を見る。
やだ、怖い。我ながらめっちゃ怖い。自分だと分かっているのに怖い。
「やっぱ却下で」
しょんぼりしながら辺りを見渡す。
「……でもやっぱり人間の体はいいなぁ」
そう呟きながら周囲を歩き回ってみた。
何より視界が高いし広い。子供サイズでもスライムとは大違いだ。
スライムだと川原ですら移動するのが難しい。
「これなら川の向こう側に行ける」
出来るだけ水深の浅い場所を選んで川を渡る。少年と会う事は無理でもポーションを渡す事は出来る。
昨日少年が洗濯をしていた場所にポーションを置いておくのだ。
“置いとくから飲め!” である。
準備は整った。
よし、少年よ。こい!
【後書き】
次話で遂に少年と話します。
ぼっち卒業!




