19 少年
疲れている事も忘れてこの世界で初めて見る人間に近付く。もちろん隠れながらだけど。
どうやらその人間は洗い物をするために川に来たようで、盥の上に乗った大量の布を両手で抱えるようにして持っていた。
背格好からして少年のようだ。
ボーイッシュな少女の可能性も捨てきれないけれど。
年齢はよく分からないが、おそらく10歳位ではないだろうか。もしかしたらもう少し上かもしれない。
だが近付くにつれてある違和感に気付く。
(右足を怪我してる?)
初めは大量の洗濯物を抱えているからかと思ったが、それにしては動きがぎこちない。右足を引き摺るように歩いている気がする。
気付かれないようにそっと近付いて対岸の石の影からそっと窺う。
やはり10歳位の少年のようだ。
褐色の肌と、蒼銀色の髪。
俯いて洗い物をしているため顔はよく見えないが、彫りの深い顔立ちをしている。東洋系の顔では無さそうだ。
改めてここが異世界なのだと実感する。
日本、というより地球に蒼銀色の髪の人なんていない。
なんとなく蒼い空に浮かぶ月を思い浮かべた。とても綺麗な色だ。ちょっと羨ましい。
まぁ、今の私に髪の毛なんか生えてたら気持ち悪いだけだから要らないけど……。黴が生えてるみたいになりそうだな。
そんな下らない事を考えながら少年を観察する。
だが観察していくうちにどんどん自分の眉間に皺が寄っていくのが分かった。
少年の服――Tシャツとガウチョパンツ――があまりにもボロボロだったのだ。しかも結構汚れている。上下とも白だから余計目立つ。
今洗っている布は汚れているけど傷んではなさそうなので、そっちを着ればいいのに……。と思うほどだ。
それともう一つ。
少年があまりにも細すぎるのだ。
スレンダーで羨ましい系ではなく、ちゃんとご飯食べてるの? と、問いただしたくなる程には不健康な細さだ。
まぁ、この年頃の少年は成長期だし、食べる量以上に成長する速度が速いので、細くなってしまうのはある程度仕方ない事なのかもそれないが、それにしてもちょっと細すぎる気がする。
私は子供と小動物と女の子はちょっとふっくらしている方が好きだ。細い子を見ると無性にお腹一杯食べさせたくなる……。
う~ん、と悩みながら『収納』の中を確認する。
『収納』の中にはゾジャの実で作ったお焼きが3つ入っている。
洞穴から川へ行く時に、途中の休憩で食べようと思って朝多めに作って『収納』に入れておいたのだ。
ラグノーとの命懸けの追いかけっこのせいで食べれずにそのまま残っている。
悩んでいるのは声を掛けるかけるかどうか。
今の私はスライムだ。
最弱とはいえ人間からしてみたらモンスターだし、そもそも喋れるスライムなんて私位しかいない。珍しいモンスターとして捕まって売り飛ばされるなんて御免である。
疑いたくはないがこの少年が善人とは限らない。そして善人がずっと善人であるとも限らない。
どうしたものかと私が迷っているうちに、少年は洗濯を終わらせたようで、洗い終わった洗濯物を一緒に持って来ていた盥の中に入れて立ち上がった。
少年の顔が見えた。
やはり彫りの深い顔立ちをしており日本人ではなかった。おそらくなかなかの美少年だ。
そう、おそらく……。
私は声を掛けるか悩んでいる事も忘れて固まった。
固まるしかなかった。
少年の顔はあざだらけだった。
転んだりして出来る痣なんかじゃない。口の端が切れて血が滲んでいる。頬は腫れ上がり、場所によっては内出血もしているのだろう、赤黒く変色していた。
明らかに誰かに殴られてできた傷だ。
しかも一回や二回ではない、何度も繰り返し毎日殴られているようなそんな感じだ。
殴り合いの喧嘩なんかした事のない私でも分かるぐらいの酷い有り様だった。
私に気付く事なく少年は右足を引摺りながら帰っていく。
改めてよくみると、服の隙間から見える右足のふくらはぎ辺りが酷く腫れていた。褐色の肌だから分かりづらいだけで、もしかしたら身体中傷だらけなのではないだろうか。
頭の中に“虐待”という恐ろしい文字が浮かび、せっかく暖まっていた体が急速に冷えてゆく。
少年の姿が森の中に消える直前、私はとっさに少年を『鑑定』した。
「……嘘でしょ?」
【名前】なし
【種族】人間
【年齢】11
【レベル】6
【HP】75/111
【MP】86/86
【スキル】
『索敵(level3)』『逃走(level3)』
『水魔法(level2)』『光魔法(level1)』
【状態】隷属
『隷属』
“主”となる者に全ての権利を譲渡している状態。
魔法陣を身体に刻み込み、“主”の魔力を流す事により発生する。
禁術であり、多くの国ではこれを人に行う事は違法とされている。
しかめっ面で私は空を見上げ、吐き出すように呟く。
「……犯罪の臭いがする」
【後書き】
新キャラは少年でした~!
まだ喋ってもいませんが……。
少年の年齢少し下げました。




