スライムの寿命
なんとか旦那さんをモフモフしたお許しを頂いたので、改めてスライムについて教えて貰うことにした。
「でもスライムの寿命は『不明』かぁ……。大体の寿命も分かんない?」
神様'sは顔を見合せるが誰も発言はしなかった。やはり『不明』らしい。
「なんでそんなに寿命が知りたいんだにゃ?」
「なんでって、生きる目安になるでしょ? 私は最後までちゃんと生きて天寿を全うしたいの」
説明をしたけど皆、不思議そうにしている。
そういえば神族に寿命はないって女神ちゃんが言ってたっけ。じゃあ分からないのも仕方ないか。
そんな風に思っていたら女神ちゃんに質問された。
「ハルさんはどうしてそんなに天寿を全うしたいんですか?」
いやいや女神ちゃんや。事故や病気で、ましてや殺されて死ぬ事を望む人がいるとでも?
それとも神様達には事故や病気で死ぬのも、殺されて死ぬのも、天寿を全うして死ぬのも大して変わらないんだろうか。
そんな疑問が透けて見えたのか慌てて女神ちゃんが言葉を付け足す。
「あ、いえ、何だか天寿を全うする事にとてもこだわってらっしゃるように感じたので。不思議だなって……」
「確かにそうだにゃ、大抵の生物は転生する時にいつ死ぬかなんて考えないにゃ」
神様'sの好奇心という名の視線が集まる。
ええい、散れ! っとばかりに眉を寄せてみたが――効果ありませんでした。
空気の読めるトラちゃんとハリーは何か感じとってくれているようだが、だからといって何をするでもない。
説明すんの嫌だなぁ……。
いや、単純に面倒くさい。しかし話さない事には収拾が着きそうにない。それも面倒だと判断した私は話す事にした。
「大した理由はないよ。ただ、小梅ばあちゃん……。私を育ててくれた人なんだけど、その人に小さい頃からいつも言われてたんだよね『諦めても、逃げてもいい。ただ、最後までちゃんと生きろ』って。今となっては遺言みたいなもんだし、転生後も『私』なら約束守ろうかなって思っただけ」
話し終えると居心地の悪い沈黙が流れた。
トラちゃんは『ヤッベー事聞いちまった!』的な顔をし、ゾフル君はプルプル震えだして今にも泣きそうだ。女神ちゃんに至っては既に泣いていた。
あ~、だから言いたくなかったのに。というより泣くほどの話だったか?
女神ちゃんとゾフル君はこんな泣き虫でちゃんと世界を管理出来るのだろうかと、余計な心配をしてしまう。
そういえばハリーは静かだな。
泣いてる女神ちゃんとゾフル君を呆れ顔で眺めてんのかな、なんて思いながら視線を向けた。
「うおおおおおおおおお!!!!」
突然ハリーが絶叫した。
ハリーの声に掻き消されて聞こえなかったみたいだけど、おもわず「ヒイッ!」って声出たから、私。
ハリーの隣に座ってたトラちゃんも驚いたようで全身の毛が逆立っている。
そんなに? と思うなら想像してみて欲しい、突如絶叫するハリネズミを……。
………………怖い。
「そうか……。死んだばあちゃんとの約束を守ろうと……。泣かせるじゃねぇか!」
そうか?
「見直したぜ! ハル! お前は小動物をモフモフするだけの変態じゃなかったんだな!」
「うん!」
私は全力で肯定した。
モフモフだけでなくクンクンもするからな。言わないけど。
「それならば俺は協力を惜しまねぇ! 会議だ! 会議を開くぞ! 皆で知恵を出しあってハルが天寿を全う出来るようなスキルの組み合わせを考えるんだ! 議長は俺がやるぜ!」
「では私は書記をしますわ!」
「よし! 頼んだぞ!」
「ぼ、ぼくはなにしたらいいのぉ!?」
アワアワと焦るゾフル君に、女神ちゃんは何処からともなく取り出した丸い缶を押し付けた。
「ゾフル様はお菓子を食べる係をお願いします!」
ひでぇ! なんて分かりやすい戦力外通告!
「トラ様はお茶係ですわ!」
もっとひでぇ! あんたの旦那だよ!?
「わ~クッキーだぁ」
喜ぶな! 気 付 け!
コポコポ……。
素直に茶を淹れるんじゃない!!
【後書き】
ちょい前半シリアスっぽいですが、ハルさんはそこまで深く考えていません。
そういう教育を受けてきたので、ハルさんにとっては当たり前なんです。