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元アラサー女子はスライムとして生きて行く(仮)   作者: おんじゃく
第三章~王都~

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76 葬列

 アーシェラちゃんも図書室に本を返しに行く途中だったそうなので、他愛もないお喋りをしながら渡り廊下を並んで歩く。


 巷で人気のお菓子の話題からブリュノー商会の新商品、新しく試してみた薬草の加工方法等々……次から次へと会話が移っていく。

 そんな中、アーシェラちゃんがふと思い出したかのように問いかけてきた。


「そういえば、ソラはそろそろ戻ってくるんじゃありませんの?」

「ああ、うん。今日の夕方頃かな?」

「そう、もう一週間も経ったのね」


 そう感慨深げに呟くアーシェラちゃんはソラと面識がある。というのも、私が何度か自宅にアーシェラちゃんをお招きした事があるからだ。

 ソラはもともと“ド”が付くほどの無口だし、アーシェラちゃんは異性とは距離感を持って接するよう教育を受けているご令嬢なので、会っても挨拶ついでに二言三言交わす程度だったのだが、よほど馬が合ったのだろう、気付いたときにはお互いを名前で呼び合うほどの仲になっていた。


「王宮警備はどうしても貴族を相手にしなくてはなりませんもの。大変でしょうね」

「あ~そうだろうね」


 アーシェラちゃんの言うように、ソラは一週間前から泊まり込みで王宮の警備任務に当たっている。正しくは王宮警備に行っている隊長さんと副隊長さんの侍従として同行しているのだ。


 ソラの所属する第7部隊の主な仕事は、一般人では対処しきれない、もしくは冒険者達に人気のない――費用がかかりすぎて倒しても赤字になる――魔物の討伐等なのだが、緊急時に王宮の警備が出来ないなどといった事がないようにと、年に数回ほど泊まり込みで王宮内の警備の一部を任されるらしい。


「でも、ソラ達が担当するのは倉庫や納屋みたいな人目のない場所だって言ってたから。大丈夫じゃないかな?」

「そうね。それに、ヨハン卿もいらっしゃるものね」


 ヨハン卿とは隊長さんの事である。

 隊長さん、実は一部の騎士や貴族からの人気が高い。

 それに王家からも一目おかれているようで、過去に王の親衛隊に入らないかとのお誘いもあったらしい。残念ながら出自等の関係や反対する貴族が多かった事もあり、その話は流れてしまったらしいけど。


 私の知っている隊長さんは、副隊長さんに首を絞められていたり、部屋の隅で副隊長さんにどつかれていたり、壺売りなんていう怪しげな小遣い稼ぎをしたお仕置きとして副隊長さんにスマキにされ馬小屋に転がされていたりする残念な兄ちゃんなのだが……。


 そういえばあの壺(・・・)どうしよう。 

 副隊長さんから情報提供のお礼だと2壺ほど頂いたのだが、使い道に困って倉庫に入れたままだ。

 ソラは部屋に置いてるみたいだけど……何に使ってるんだ?

 ……………………不安。





 ――リ――――――。


「ん?」


 ふと、何か聞こえたような気がして歩みを止める。


「どうかしたの?」

「……いや、なんか聞こえたような」


 私の言葉に不思議そうにアーシェラちゃんが首をかしげる。


 ――リ――――ン。


 やっぱり聞こえる。

 かすかにだが、高い、鈴の()のような音だ。


 どこかで聞いたことがあるような気がするが思い出せない。どこだったかなと思考を巡らせていると、突然、アーシェラちゃんに腕を引かれ廊下の端へと移動させられた。


「え? え!?」

「しっ! 黙って!」


 しばらくすると、私達がいる場所から少し離れた所にある建物から6名の人物が姿を現した。

 護衛の騎士が3人。侍女2人の後ろに、おそらく高位の貴族であろう女性の姿が見える。


 ここは王宮の敷地内なので、護衛や侍女を連れた貴族がいるのは珍しいことではないのだが、それを抜きにしても彼等は異様な雰囲気を纏っていた。


 まずは全員が灰色の衣服を身に付けているということ。しかも薄い灰色などではなく、今にもどしゃ降りの雨が降りそうな重い雲の色だ。

 そして侍女のひとりが手にしているガラスで出来たベルが、歩く度に透き通った、けれど悲しい音を奏でる。




 ――――葬列。




 こちらの世界の喪の色は黒ではなく灰色だ。

 彼等が出てきたのは王宮内の最奥に行くための手続きを行う建物。王宮の奥には王家の血を引く人達の霊廟があると聞いた。


 葬列が視界から消え、鈴の音も聞こえなくなると。


 ――――トントン。


 暗鬱とした雰囲気を吹き消すような軽やかな音に目を向けると、アーシェラちゃんが靴の踵を地面に軽く打ち付けていた。


「ぼんやりしてないでハルもやりなさいよ」


 そう言われアーシェラちゃんの真似をして靴の踵を鳴らす。この国では葬列に出会ったり参加した後に、こうやって靴の踵を鳴らす風習がある。


「モルガルド公爵婦人よ。今日は“星の日”だったのね」

「“星の日”?」

「亡くなった方を想って祈る日の事よ」

「……亡くなった人がいるの?」

「ええ。でも何年も前よ」


 20年前。

 モルガルド公爵婦人は不幸な事故でご子息を亡くされたのだそうだ。

 本来なら嫁ぎ先である公爵家の墓所に埋葬されるのだが、モルガルド婦人が王家と遠戚にあたるため、ご子息は王家の霊廟に納められる事となったらしい。


「20年前からずっと灰色の服しかお召しにならないそうよ」


 そう、小さく呟くアーシェラちゃんの声と共に、悲しげなベルの音が聞こえたような気がした。





★ ★ ★



 夕暮れ色に染められた自宅のキッチンで、私は死んだ魚の目で「どうしよう」と呟いた。


 視線の先にあるテーブルの上には――


 カリッと揚がった衣に甘酸っぱいタレをたっぷりと絡ませたチキン南蛮。それに添える大量の玉子たっぷりタルタルソース。

 グリーンサラダには自家製のクルトンと砕いた木の実を入れて食感をプラス、マテオさんの実家から頂いたチーズもふんだんに乗せた。

 魚介のスープには白身魚と、パスという名前のムール貝に似た貝、そして大きな海老も二尾入っている。


 1週間、王宮の警備――侍従としてだが――をやり遂げ、ヘロヘロになって帰ってくるであろうソラを“よく頑張ったね! お疲れ様!”と迎えるために心を込めて作った料理。

 その全てが――


「ムダって。まだしばらくの間、帰れそうにないって……ドユコト」


 詳しくは機密事項だとかで教えて貰えなかったが、どうやら王宮でトラブルが起こったらしく、ソラ含む隊長さん達が帰ってこれなくなったらしい。


 その事を、先ほど第7部隊の隊員のひとり、胡桃色の髪と深緑の瞳のスラリとした背の高い少年『マルクス=バルブレナ』君が全速力で走って伝えにきてくれた。

 マルクス君は今年成人し、騎士見習いから正騎士となったばかりなの15歳の少年なのだが、驚くほど優しく礼儀正しく真面目なのだ。


 テーブルの上の料理を見て「(夕飯は1人分でって伝えるの)間に合わなかった」と肩を落とした彼の口には、味見用のチキン南蛮をひとつ放り込んでおいた。とはいえ――


「仕事だから仕方ないけどさー。…………大変だったのになぁ」


 特にタルタルソース。

 なんせマヨネーズから作らなくてはならないのだ。元の世界ではスーパーに行けば簡単に手に入るのにと何度嘆いたことか。


 第7部隊の騎士達に食べてもらう事も考えたのだが、(くだん)のトラブルのせいで、しばらくの間、宿舎にいたりいなかったりと不規則になるらしい。

 チキン南蛮は冷めても美味しいが、油で揚げているので時間が経てばどうしても油っぽくなる。緊急事態で忙しいのにそれでお腹を壊したりしたら駄目だろう。


 「うーん」と呻きながらスキルの『索敵』を発動させ目的のものを探す。そして――


「は?」


 思考が止まった。


 何度も確認した。

 念のため『鑑定』でも確認した。

 それでも変わらない。


 そして止まった思考が動き出し、次に“なんで?”に支配される。


 いや。本当に。


 なんで?








「なんでソラ達、牢屋にいるの?」

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