主神'sとお菓子の行方
女神ちゃんにもうひとつソファーを出してもらい、そこにトラちゃんとハリネズミ君が、もうひとつのソファーにコツメカワウソ君と私が座る。
女神ちゃんはトラちゃんの指示で転生の手続きの書類を取りに行ってくれている。
「じゃあリーハちゃんが戻って来るまでに自己紹介でもするか。オレはエギーユ、トラとは別の界の主神だ。トラと、そこで菓子をガン見してるゾフルとは幼馴染ってとこだな」
ハリネズミ君が呆れたような視線をコツメカワウソ君に送る。
それに気が付いたコツメカワウソ君は、私を見上げながら恥ずかしそうに自己紹介してくれた。
「ごめんねぇ、ボクお菓子が大好きなんだぁ。ボクはゾフルっていうの、よろしくねぇ」
そう言ってコツメカワウソ君は小さな手を差し出してきた。
こ、これは握手を求められているのですね!
喜んで! キャッホイ!
と、心の中ではしゃぎながらも、大人な私はにっこり微笑みながらコツメカワウソ君と握手を交わした。
「初めまして、私は横山ハルといいます。エギーユ様、ゾフル様。この度は私の転生にお力を貸して頂けるそうで、感謝いたします」
にぎにぎ。お手てちっちゃかわええ。
「……さっき俺の全身を揉みしだいた奴と同一人物とは思えねぇな」
「まったくだにゃ」
ちょっとそこのにゃんことハリネズミ『うえ~っ』て顔しないの。
「はぁ……。取り敢えず『様』は要らねぇよ、好きに呼んでくれ。あと敬語も要らねぇ」
「俺様もだにゃ」
「ボクも呼び捨てでいいよぉ」
私は少し悩んだ。
見た目がいくらアニマルズとはいえ、神様を呼び捨てで呼ぶのはちょっと気が引ける。
でも今を逃したら神様と知り合うなんて一生無いだろうし――もう死んでるから一生は終ってるんだけど――出来れば仲良くしたい、仲良くなりたい。
考えた末に私は神様達をこう呼ぶことにした。
「わかったよ、トラちゃん、ゾフル君、ハリー」
「何でオレだけ呼び捨てなんだよ! あと本名と全然被ってねぇ!!!」
まあまあとトラちゃんがハリーを宥めてくれているうちにお茶菓子をチェック。
女神ちゃんが用意してくれたのは三種類の和菓子だった。
今の季節に合わせ、ほんのり赤く色付いた求肥で包まれた椿の形の和菓子に、ウサギの形の蒸かし饅頭、そして少し黄みがかったきんつば。
きんつばは柚子風味かな? と思いながら数を数える。
10個あるので数的に一人2つ。
幸せそうな顔でお菓子を眺めているゾフル君に聞いてみた。
「ゾフル君、どのお菓子がいい?」
「全種類食べたい!!!」
おっと、いきなりのオーバーランだ。
「う~ん、数的に一人2つまでなんだけどなぁ……」
私はショックを受けるコツメカワウソを初めて見た。そして分かりやすく落ち込む姿も。
「じゃあ、私のをひとつゾフル君にあげる。私は一個でいいよ」
「え!? で、でもぉ……」
お菓子は食べたい、でも他人の物を貰ってまでは……。という葛藤がゾフル君の顔に浮かぶ。
「う~ん。実は私あんまりお腹減ってないんだよね。だからゾフル君が食べてくれるとすっごく助かるんだけどなぁ……」
ゾフル君の顔が光輝いた。
本当に分かりやすい子である。そして勿論この笑顔が見たいがために私は一人2つまでと言いましたがなにか問題でも?
別に嘘はついてない。
数的に人数で割ると一人2つになるよと私は言っただけだ。
ゾフル君のお皿に三種類の和菓子をのせ、笑顔でどうぞと差し出す。
キラッキラな笑顔で「ハルありがとぉ」と言いながら受けとるゾフル君。
「おい、やべぇぞ。ゾフルが落ちた」
「完全に落ちたにゃ」
気付くのが遅かったな、ゾフル君のキラッキラの笑顔は既に頂いた。大変美味しゅうございました。
勿論その後、書類を手に戻ってきた女神ちゃんとトラちゃんとハリーにもどのお菓子がいいか確認して配りましたよ。
まぁ、女神ちゃんに初めにお菓子を選んで貰ったけど、その位の男女差別は許してくれてもいいと思う。
トラちゃんとハリーには女神ちゃんに先に選んで貰っていいか確認もしたし――笑顔で――、私自身は最後に残ったお菓子にしたしね。全く問題ない。
女神ちゃんが嬉しそうに「ありがとうございます」と言ってお菓子のお皿のある私の隣に腰かけたけど、誘導なんかしてないヨ?
私が可愛い子達に挟まれて座っているのは全くの偶然だ。
偶然なんだから、トラちゃんとハリーは『うわ~っ』て顔しないの。
そんな可愛い顔してるともふっちゃうぞ。