終わり
暗闇から淡い光の粒が落ちてくる。
これはおそらく雪だろう。
今朝の天気予報で予報士のお姉さんが今年一番の寒波がくると言っていた。
私は今それを地面に寝転がってぼんやりと眺めている。
言っておくが私の意思ではない。ついさきほど私は車に跳ねられたのだ。
今年最後の仕事をなんとか終わらせ――諦めたともいう――会社の人達に「よいお年を」と挨拶をして家に帰る途中でだ。
帰ったら大事に取っておいたお酒を飲もうと楽しみにしていたのに!
(っていうか明日から連休! 連休なんですけど! あんの車!)
「……っ」
胸の辺りに強烈な痛みが走り、小さく呻く。
(痛い、めっちゃ痛い、もう、泣きそう)
なるべく体に負担をかけないようにゆっくりと息を吐きだすと、体の熱が白い吐息となって夜空に浮かんだ。
(寒い、なんかあったかい物が食べたい)
古びた家の冷蔵庫の中身を思い浮かべる。
そういえば冷凍うどんが残ってたはずだ。煮込みうどんなんてどうだろうか?
(牛肉の切り落としがちょっとだけ残ってたから、軽く焼いて砂糖と醤油で甘辛に仕上げて、あとはネギと卵。白菜も)
最後にとろとろになって鍋の底に残った白菜が好きだ。うん。良い。煮込みうどん良い。
(帰ったら煮込みうどん作ろう)
再びゆっくりと深く息を吸って吐くと、今度は鍋の蓋を開けた時に出る湯気みたいに薄い息が口から出てきて消えた。
(それにしても、今日は、本当に……)
「……(さぶい)」
私は最後にそう呟いて、34年の人生を終わらせた。