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開催


 理科室を後にして、すぐに訓練場へと向かう。

 しかし、この時間帯になると露店の買い物客が訓練場へと押し寄せてしまう。

 なので、予め百合に教えて貰っていた裏口からひっそりと中に入った。


「あっ、双也。ちょっと遅かったんじゃないの?」


 そう言って、百合は頬をかるく膨らませた。


「悪い。ちょっと露店で買い物しててな」


 膨らんだ頬を指先で押しつつ、言い訳をする。

 そしてご機嫌取りをするように、百合に差し入れを差し出した。


「なに? これ。あぁ、五大属性キャンディーか。双也はなにが当たった?」

「俺は雷だった。舌がぴりぴりするぞ」

「ふーん。じゃ、あとで食べよっかな。あ、でもリズちゃんに上げちゃダメだからね、これ。試合前なんだから、火や土が当たったらとんでもない」

「わかってる」


 火属性にあたると、本当に口から火を噴くらしい。

 土はたしか大量の砂糖になる、だったかな。

 どちらにせよ、試合まえに渡していい食べ物ではない。


「だから百合に渡したんだよ。どうせ、今日は試合ないんだろ?」

「うん。シード枠だからね」


 百合は特待生、この武闘会の花形だ。

 目玉は一番盛り上がる二日目まで取っておこうという算段らしい。

 なので、百合とリズのドリームマッチが成立するとしたら明日になる。

 リズには、是非とも頑張ってもらいたいところだ。


「リズの様子はどうだ?」

「いまは控え室で集中してる。呼んでこよっか?」

「集中が乱れたりしないか?」

「んー……むしろ、元気が出るんじゃない?」

「そうか?」


 まぁ、俺は百合と違って武闘会に参加しないからな。

 ライバルと気負うことなく見知った顔に会えば、いくらか緊張が和らぐのかも知れない。


「なら、頼んだ」

「うん。じゃあ、呼んでくるから」


 そう言って百合は女子の控え室に入っていく。

 俺のほうはすることがなくなったので、壁を背にして待つことにした。


「しかし、思っていたより多いな」


 目の前を行き交う生徒のほとんどが、武闘会に参加する。

 そう考えると武闘会のネームバリューと、実行委員の努力のほどがよくわかった。

 成績が実績としてある程度だが認められると言うのも頷ける。

 参加するということは、即ち腕に自信があると言うこと。

 この中でそれなりの成績を残せれば、自身を魔術組合にアピールできる。


「おっ? 双也じゃねーか。なにしてんだ?」


 百合を待っていると、ちょうど心が通りかかる。


「もしかして参加する気に――」

「なってない」

「だと思ったよ」


 思ったなら訊ねないでもらいたいものだな。


「リズを激励に来たんだ。あ、心のこともな」

「俺はついでかよ」

「冗談だ。俺は知り合い全員を満遍なく応援するつもりだ。心も頑張れ」

「おうとも。見てろ、思いっきり楽しんで戦ってやるからよ」

「あぁ、俺もそれを楽しみにしてる」


 それを最後に、心はどこかにへと去って行く。

 その背中を見送っていると、間隔の短い足音が聞こえてくる。


「双也」

「双也さんっ」


 タイミングよく、百合がリズを連れてきた。


「よう。体調のほうはどうだ?」

「身体のほうはなんとも。でも、心がほわほわしていて。な、なんだか落ち着きませんっ」


 かなり緊張しているらしい。

 元王族ということで、衆目に晒されるのは慣れていると思ったけれど。

 そうでもないらしい。

 まぁ、王族として振る舞うのと、一生徒として舞台に立つのとでは、性質がまるで違うか。

 リズが緊張してしまうのもしようがない。


「そういう時は、手の平に人の字を三回書いて飲むといいぞ」

「人の字、ですか?」

「昔からあるおまじないだ。ただの気休めだけど」

「な、なるほど。やってみますっ」


 リズは素直に手の平に人の字を三回書く。

 そして、勢いを付けてごくりと飲み込んだ。


「どうだ?」

「……すこし、落ち着けた……ような?」

「ははっ。まぁ、おまじないなんてそんなもんだ」


 実感できるほどの効果なんてない。

 ただほんの少しだけ、気が楽になれた気がするだけのものだ。

 けれど、そのほんの少しが、案外ばかにならなかったりする。


「大丈夫だよ。試合が始まれば緊張なんてすぐに吹っ飛ぶ。ただ誠心誠意、相手にぶつかればいいさ」

「……はいっ! 私、百合さんと戦えるように頑張りますっ!」

「明日を楽しみにしてるからね。リズちゃん」


 すこしはリズの緊張も解れただろうか?

 そう思い始めたところで、実行委員の声が響く。


「もうすぐ時間です。集まってください」


 話しているうちに、時間がなくなってしまったようだ。


「私、行ってきます」

「あぁ、行ってこい」


 掛けていくリズを見守り、その背中が見えなくなるまで見送った。


「じゃ、私たちは観客席に行こっか。特等席、用意してあるから」

「それも特待生の特権か?」

「まぁね。ほら、はやく行こ」


 百合に連れられて、観客席へと向かう。

 連れてこられた特等席は、周囲にほかの生徒が一人もいない場所だった。

 なかなかどうして、快適で過ごしやすい。

 それにここからなら試合の様子がはっきり見える。

 前の席に座った誰かに煩わしい思いをさせられずに済むというのは、精神衛生上とてもよろしい。

 まぁ、特等席は特等席で目立ってしまうので、ほかの観客席からの視線がしばしばくるが、試合がはじまれば嫌でも視線はそちらに向く。

 それまでの辛抱だと思って起こう。


「はじまるみたい」


 しばらくして、訓練場の中心に一人の男子生徒が躍り出る。

 マイクを片手に軽く会釈をした彼は、始まりを告げるために言葉を紡ぐ。


「さー、みなさん! お待たせしました! 今日明日と行われる武闘会――若干名、自業自得で参加することが叶わなくなった生徒もいますが……まぁ、それはそれとして! 無事に開催することが出来ました!」


 参加が叶わなくなった生徒って。

 もしかして、この前のあいつらか?

 そう言えば、無河先生が処罰を与えると言っていた。

 こういう形の処罰だったのか。


「さて、前置きはこの辺にして。みんな、試合がみたいですよね? 見たいですよね!」


 その問いかけに答えるように、観客席から声が上がる。

 盛り上がりは上々だ。

 すこしうるさいくらいだが、それが祭りにはちょうどいい。


「では、早速はじめましょう! これより二日間に渡る武闘会を開催します!」


 割れんばかりの歓声と共に、武闘会は始まりを告げる。

 リズの出番はいつになるだろうか? いまから楽しみでしようがない。

試験的にリメイク版を投稿しました。

設定や展開などが変わっていますので、もしよろしければ目を通していただけると嬉しいです。

この作品の更新は続きます。

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