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露店


 時は流れて、武闘会当日。

 祝日である今日は金曜日。

 今日と明日の二日間、武闘会は行われる予定になっている。

 日曜日は参加者と関係者全員で後片付けだ。

 まぁ、観戦客としていく以上、俺には関係のない話だけれど。


「随分と賑わっているなー」


 学生寮を出て魔術学校の敷居を跨ぐまでに、沢山の学生に追い抜かれた。

 見覚えのない学生服を着た生徒が、続々と校門を潜っていく。

 どうやら他校の生徒も招き入れているらしい。

 想像していたよりも、ずっと規模が大きいのかも知れないな。

 武闘会って言うのは。


「露店まで出てるのか。いつの間に用意してたんだ?」


 学校の敷地内に入ると、あちらこちらから良い匂いがした。

 イカ焼き。焼きそば。たこ焼き。カステラ。などなど。

 実に様々な商品を取り扱っている。

 ここまで来ると文化祭だ。

 それも一般高校のそれを遥かに超えた規模である。

 武闘会の名前から想像もつかないほどの賑わいを見せていた。


「ちょっと、ぶらついてみるか。せっかくだし」


 幸いにも、武闘会が始まるまで、まだ時間が少々ある。

 この辺を見て回るくらいの時間は、十分にあるだろう。

 お祭り気分満載のところを、一人で巡るというのも味気ないけれど。

 まぁ、そこはしようがない。割り切るとしよう。


「んー、なにが良いかな」


 懐が暖かくなってからと言うもの、迷うことが増えた気がする。

 金がない時は、必要なものを必要な数だけ買うのが鉄則だった。

 しかし、いざそれがなくなると、今度は選択肢の多さで迷ってしまう。

 貧乏性が板に付いた弊害だ。

 ああでもない、こうでもないと、露店から露店へと目が映る。


「お?」


 その途中で、ふと見知った顔を視界の端にみた。


「……理緒か? あれ」


 視界の中心に捉えてみて、それは確信に変わる。

 いつも理科室から出ない理緒が、外に出ているのを見るのは久しぶりだ。

 理緒でも、たまには祭りを楽しむらしい。


「周りにいるのは……」


 しかし、その表情は退屈そうだった。

 その原因は、周囲にいる他校の生徒たちだろう。

 数人の男子生徒に言い寄られている。

 理緒は無視を決め込んでいるが、かなり食い下がられている。


「助けたほうがいい……よな?」


 知り合いにも見えないことだし、助け船を出そう。

 そう思い、そちらに踏み出そうとしたところで。


「あ」


 ちょうど理緒と目があう。

 そして、にやりと笑うのが見えた。

 すごく、嫌な予感がする。


「あー! やっと来たー! 私のダーリン!」

「だ、だーりん?」


 嫌な予感は、ものの見事に的中する。

 こちらに駆け寄った理緒は、そのまま俺に抱きついてきた。

 人目も憚らず、大胆に身体を密着させてくる。


「理緒、おまえ」

「いまだけ話を合わせて」


 耳元でそう呟かれる。


「お願い」


 そう言われると弱い。

 理緒には大きな借りがある。

 それが少しでも返せるなら、これくらいの話は合わせよう。


「……わかった。いまだけな」

「ふふーん。ありがとー!」


 了承を得た理緒は、更にだめ押しとばかりに腕を組む。

 そして、見せつけるようにまた密着した。


「という訳だから。キミたちとは遊べませーん。ほかをあたってねー」


 その効果は覿面のようで。


「チッ、男持ちか」

「行こーぜ」


 他校の男子生徒は、悪態をつきながら去って行った。


「行ったな」

「行ったねー」


 だが、理緒は離れようとしない。


「いつまで続けるんだ? これ」


 周りの視線が突き刺さるから、はやめに離れてほしいものだが。


「もうしばらくはお願いしたいな。また絡まれちゃうと面倒だし、このまま防波堤になってよ」

「波消しブロックになれって?」

「厳密には男消しブロックかなー」


 嫌なブロックだな。

 世界中の男が激減して、女だらけの終末が訪れそうだ。

 男視点からしてみれば、最悪の人類史の終焉だろう。


「――わかった。これからしばらく、俺は男消しブロックだ」

「そーこなくっちゃ! さー! しゅっぱーつ!」


 俺の腕をぐいぐい引っ張って、理緒は歩き出す。

 相変わらず周囲の目が突き刺さるが、これはしようがないと諦めよう。

 理緒が楽しそうにしているなら、この視線も気にはならない。


「――なにが出るかな? 五大属性キャンディー!」

「口の中がぴりぴりする」


 雷属性を引いたらしい。

 これが火や土だと思うとぞっとした。


「――とってもカラフル! 魔鳥まちょうの茹で卵!」

「ダチョウの間違いだろ、このサイズ」


 卵殻は色鮮やかだが、白身が青色で、黄身が緑色。

 青身と緑身。食欲がかなり減退する。


「――鉄分たっぷり! 甘味亀の生き血かき氷!」

「色の種類が赤しかない!」


 けれど、意外と甘くて上手い。

 原材料を直視しなければ普通に食べられる。

 その原材料が致命的なのだけれど。

 他にも構築式の型抜きだとか。

 弾が乱反射する魔銃を使った射的。

 網を食い破ってくる金魚すくい、などなど。

 様々な露店を理緒と巡り歩いた。


「――あー、楽しかった!」


 そうして一通りの露店を巡り、最終目的地である理科室へとたどり着いた。


「たまになら、お祭りもいいものだねー。大満足ー」

「ここに来たってことは、武闘会は見ないのか? 観戦しない?」


 理緒の性格上、参加はもとからしていなさそうだし。


「見ないよー。だって、キミは参加しないんでしょ? じゃあ、特に興味はそそられないかなー」

「行くか行かないかの基準が俺なのかよ」

「キミは興味が尽きないからねー。それに私はもともと戦闘に快楽を見いだすタイプの人間じゃあないから。スポーツとかもほとんど見ないし、興味なーい」


 そう言って、理緒は丸イスに腰掛けた。

 本当に観戦には行かないつもりなのだろう。

 お祭りの雰囲気を感じただけで満足で、その先のメインには興味がない。

 そういう人種も少なからずいるものだ。


「もうそろそろ武闘会がはじまるし、行くんでしょ? 観戦に」

「ん――おっと、もうこんな時間か」


 理科室に備え付けられた時計に目を向ける。

 時刻はすでに午後一時を迎えようとしていた。

 もうすぐ武闘会が始まってしまう。


「今日は付き合ってくれてありがとー。キミといられて、楽しかったよ」

「俺もだ。じゃあな、また今度」

「うん。じゃーねー」


 理緒に別れを告げて、理科室を後にする。

 こうして男消しブロックから、普通の人間へと戻ることが出来た。

 俺はすこし急ぎ足になって、訓練場へと向かった。

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