武闘会
人造怪異の一件が白日の下に晒されたことによって、四風院家はその罪を問われる形で没落することとなった。
魔術組合に食い込んでいた派閥の一つは、これで消えてなくなったことになる。
そして、取って代わるように台頭したのが二海堂だ。
世間では、というか魔術師界隈では、二海堂が四風院の罪を暴いた、と言うことになっている。なっているもなにも、その通りなのだけれど。
その功績の中に、俺たちの名前は載っていない。
手柄は丸ごと持って行かれた。
その代わりなのか、俺たち四人の口座には多額の口止め料が振り込まれている。
これをやるから欲を出さずに黙っていろ、という訳だ。
こちらとしても、それはそれで文句はない。
もともと、俺たちの最大の目的はリズの安全だった。
それが成し遂げられた以上、それから先は望まない。
寧ろ、邪魔であるとすら思える。
だから、口止め料はありがたくいただくことにして、俺たちはこの一件の完全終了を改めて認識した。
それからまたすこし時が経ち、魔術組合の新体制にも慣れ始めたころ。
「武闘会? なんだそりゃ?」
男子寮の食堂にて。
冬馬と心から、聞き覚えのない言葉を耳にした。
「そう言えば、双也は知らなかったっけ」
「武闘会っつーのは、あれだ。生徒主催のお祭りみたいなもんだよ」
生徒主催の祭り。
名前の響きからして、武術大会みたいなものだろう。
危険そうだが、まぁ、そこは魔殻があるから大丈夫か。
「生徒主催って言っても、それなりに影響力があるんだぞ? 目立てば名指しの依頼が沢山くるし、順位も実績としてある程度は認められるんだ。まぁ、半分、伝統行事みたいなもんさ」
「ふーん」
まるで体育祭だな。
張り切る奴は張り切るし、頑張らない奴はとことん頑張らない。
俺も普通の高校に通っていた頃は、体育祭なんて適当に流していたしな。
花形競技には参加せず、玉入れとか、玉転がしとか、その辺の地味な競技に徹していた。
魔術師が一般人に紛れて本気を出すわけにもいかないし。
それじゃあ御山の大将だ。
「開催日は今度の祝日、場所は訓練場。トーナメント形式で、自由参加。学年、男女問わずの無差別だ」
つまり生徒なら誰にでも参加資格があるってことか。
「双也! お前も一緒に参加しようぜ!」
「断る」
「なんでだ!?」
なんでって。
「武闘会って言ったって、要するに折角の祝日に暇人共が集まって手の内大公開祭りをするってことだろ? 参加なんてするかよ、面倒臭い」
実績作りや名を売れる利点があるのがわかる。
参加者の大半はそれが目当てに違いない。
でも、いまの俺にはどれも、いまいち魅力的には映らない。
それよりも面倒臭さのほうが目立つ。
例の一件のこともあって、今はゆっくりとしたい気分だ。
だから参加はしない。したくない。
「意外だな。双也なら食いついてくると思ったのに」
「俺が? まさか。そこの戦闘狂ならともかく」
心なら利点なんて考えることなく、ただ戦えると言うだけで参加しそうだ。
というか、実際にするつもりだろう。
「でも、いつも貧乏だの、極貧だの、ぼやいてたじゃないか」
「あぁー……それもそうだったな」
最近、色々と忙しくて自分でも忘れそうだったけれど。
俺はもともと万年金欠病の罹患者だった。
けれど、多額の口止め料が振り込まれてからと言うもの、金には困っていない。
魔術師としての仕事もじわじわと増え続けている。
だから、取り立てて食いつくような話題では、もはやないのだ。
「とにかく、参加はしない。悪いな、心」
「ふーむ、乗り気じゃないなら、しようがねーか。この前のリベンジって思ってたんだけどな」
「まぁ、それはまた次ぎの機会にな」
とは言え、また随分と先にのことになるだろうけれど。
「でも、そうなると皆がっかりするだろうな」
「がっかり?」
「知らないのか? 結構、有名人だぞ、双也」
有名人?
「……そいつは良い意味でか? それとも悪い意味でか?」
「両方だな。みんな双也の実力を計りたがっているし。ここだけの話、妬んでいる奴もいる」
「人の恨みを買うようなことをした憶えはないけどな」
「憶えがなくとも、知らず知らずのうちに買ってるもんさ。恨みなんて。交通事故みたいなもんだ」
「交通事故、ね」
妬み、嫉み、嫉妬とする。
その対象になってしまうのは、いつも突然で、どうしようもない。
全人類に対して気を遣って生きることなんて出来ないし、そこは割り切るしかないか。
でも、気にはなる。
「んー……ダメだ。心当たりがまるでない。って言うか、転校したばかりで知り合いも少ないのに妬まれるってなんだよ」
「理由ははっきりしてると思うけどな」
「あぁ、俺もそー思う」
「……俺ってそんなに嫌な奴か?」
なんか、自信がなくなってきた。
「嫌な奴ならダチやってねーよ。ただその少ない知り合いのほうが問題なんだ」
「知り合いのほうって?」
「いつも、はべらせてるだろ。女をさ」
「人聞きの悪いことを言うな」
なんてことを言いやがる。
「なんだ? 百合とリズのことか?」
「そうだ。何だかんだ、その二人と一緒にいることが多いだろ? 知ってるか? その二人かなり人気あるんだぜ? 強いし、可愛いしな。あと、最近だともう一人増えたんだっけ」
理緒のことか。
まぁ、理緒とは偶に会って話をするくらいだけれど。
「だから、妬まれてんだ。てめぇの下らない青春の憂さ晴らしにな」
「武闘会で双也をぶちのめそう、なんて声が上がってもいたっけ。まぁ、そう言う意味では、参加しなくて成功かもな。あ、あくまでも少数意見だからな?」
「わかってる。それにしても、難儀な話だな」
だからといって、百合とリズとの交友関係を解消するか? と聞かれたら、もちろん答えは否だ。
そんな下らない理由で関係を断つなどあり得ない。
何をどう言われようと、二人は大切な仲間だ。
もちろん、理緒もそれに含まれている。
「でも、実際のところどうなんだ?」
そう冬馬が切り出す
「どうって、なにが?」
「どこまで行ったのかって話だよ。惚けんな」
興味津々といった様子で、心もそれに乗っかった。
こいつら。
「なにか勘違いしてないか? 二人は仲間だ。そう言うんじゃあない」
「嘘をつくなよ。絶対、なにかあるだろ」
「ないったら、ない」
これ以上はなにも話さないと、机上のコップに手を伸ばして口を付ける。
「もうキスくらい済ませてるんじゃあないのか?」
「――げほッ、げほッ」
まずい、むせた。
「この反応は……」
「あぁ、こいつは……」
「ま、待てって。ちょっとタイミングが悪かっただけだって」
そう良い訳してみたものの、もはや誤魔化すには手遅れだった。
「詳しく聞かせろ!」
その後、二人の追究は止まることを知らず、何時間にも渡って続けられた。
断固として口を割らず、否定し続けたけれど。
終わった後に、途轍もない疲労感に襲われることとなった。
これから自分の交友関係の話題には、気をつけることにしよう。
まずは、妙なところで反応しないように。
これからは徹底しよう。




