煙草、黒色の中に入る。
目的もないまま。どこへ行くかもわからないまま、ふらりふらりと歩き続ける。むかし歩いたはずの道が何故か新鮮に見えるのは不思議な話だ。
照りつける日差しが鬱陶しくなり、私は太陽を睨みつけた。太陽が私に向かって意地悪に笑う。
「アンタは過去を捨て続けた。今からアンタは捨てた過去の報復を受けるんだ。きっと地獄だぜ。」
「私は何も捨ててないし、何も変わっていないよ。むしろ捨て続けたのは私以外のヤツらだ。」
「まあなんでも良いよ。俺は課程なんて気にしていないんだ。ただアンタのことをこの先で待ってるのは、裸の女でもお菓子の家なんかでもなく、間違いなく地獄なんだ。そこは理解してくれたかい?」
私は黙って頷くことにした。
「もうしばらく歩くと街に着く。アンタが街に着く頃には俺は居ない。俺がいなくなると夜が来る。夜には気をつけな。夜はあの手この手でアンタのことを引き裂こうとする。」
私は黙って頷く。
しばらく歩き続けると本当に街に着いた。黒い道路を黒いビルが囲んでいて閉塞感を覚える。空を見上げてみると空も真っ黒だった。捻くれ者の太陽は眠ってしまったらしい。取り敢えず私も眠りたいと思ったが、ホテルが何処にあるのか分からない。どうやらもう少し歩かなきゃいけないらしい。
黒い街。黒い街の道路。黒い街の道路を歩く黒い大人たち。少し怖くなる。取り敢えず光の中に逃げたくなり、目に着いた喫茶店へ逃げ込もうとするが、やけに照明の薄暗い喫茶店で入るのを躊躇った。周りを見渡すが、他に建物はない。私に選択権はないらしい。