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Angel Story  作者: マーサ
1/1

プロローグ

     

  《 天界中層 - 天使長の間 》


 ・・・ディア・・・・・ナディア!


 不意にナディアは目を覚ました。

 あたりを見渡し、自分のおかれている状況を思い出す。


 ・・・ん?ここはどこ・・・?って違う違う!記憶喪失でもなんでもない!

 そうだ~、突然天使長に呼び出されて怒られている真っ最中だったんだ。

 危ない・・・寝落ち寸前だった。

 ていうか若干目はすっきりしているけど。

  

 ・・・にしても何で怒られているんだっけ?


 「ナディア!私の話を聞いているのですか!?・・・今まで私が話してきたこ

  とを説明してみなさい」


 怒鳴り口調で、しかし冷静な態度でナディアに問いかける。


 「ええっと・・・・・・何でしたっけ?」


 あ、頭にキレたマークが見えた・・・


 「あなたは!自分の役割が何か理解しているのですか!? 

  天使の役目は人間の魂を悪魔から保護すること、天界で働く優秀な人間の選

  定!なのにあなたはいつもいつも、人間界ですら働きもしないものばかりを

  選定してきて・・・」


 目が怖い・・・これはいつもより本気度が違う。

 ここは冷静に納得のいく理由を・・・


 「いえいえ天使長様!人間界で何もしなかったからこそ!彼らが言う天国にこ

  れたなら、逆に人生改めようと思うわけですよ。

  もう後悔するような人生にはしない、って決意するじゃないですか! 

  ・・・あ、死んでいるから人生ではないですけどね」

    

 やった!ちょっとした天使ジョークもかましながらうまく説明できた!


 天使長はあきれた顔でため息を一つついた後、ナディアに伝えた。


 「・・・このままではあなたは永遠に下級天使のままです。

  それともう一つ・・・ドミニオンからあなたを堕天使として天界を追放する

  話がでています。」


 ドミニオン。天界において天使よりも上位級とされる存在である。 


  それよりも・・・・・・へ?


 「ええええええ!天界を追放!?

  たかが天界に人間界のニートを集めただけで!?それはあんまりです!

  それに私だってたまにはまともな人間だって送っていますよぉ!」


 ナディアは必死に反論した。


 「・・・本当ですか?あなたの言葉に嘘偽りはないと・・・?」


 「う、嘘なんていっていません!私が送った人間の中にだって、天界で活躍し

  ている人はたくさんいます!いるはずです!信じてください!」


 天使長はナディアの額に手をあて、ならばあなた自身で確認してみなさい、と

 つぶやく。


 ナディアの頭の中に、天界で働く人間の風景が入り込んでくる。


 天界は人間界と同じように働く社会で成り立っている。

 食を取らずとも飢えることはなく、睡眠をとらなくても過労で死ぬことはない。

     

 本能的にそれらが必要だと感じる人間、充実した生活をしたいという人間、も

 しくは夢半ば不運な死を遂げた人間、その続きを叶えたいと願う人間、そうい

 った人間が集まる場所が天界である。


 しかし、ナディアの意識の中に見える人間はまったく正反対の人間だった。


 一日中寝ては起きてを繰り返し、基本的に自分がいる場所から一歩も動かない

 もの、天界のゲームを一日中やっているもの。

 いわゆるニート、引きこもり、廃人と呼ばれる類の人間ばかりである。


 「これがあなたの言うまともな人間ですか?」


 ナディアは口を開いたまま唖然としていた。

 天使長は話を続けた。


 「人間は死後もこうして天界で“生きて”います。そして、それは今までの延長

  線上に過ぎない。

  人間界から天界に来たからといって突然心を改めるものなどいません。

  むしろ生きる為に必要だった食事や睡眠が必要なくなり、自分の思い通りに

  できる、といったものが大半でしょう。

  だからこそ、天使が相応の人間を“選ぶ”必要があるのです」


 天使長の話などナディアの頭には入っていなかった。

 自分が選んだ人間が、こうも天界で何もしていないとは思ってもみなかった。


 「ナディア・・・天界を追放されたくないですか?」


 その言葉にナディアはハッと意識を取り戻し、うんうんとうなずく。


 「ドミニオンから条件がでています。ある人間を天界へと送りなさい、と」


 ・・・ん?

 天界に送るといってもその人間が死んだときに天使が選定するだけなのでは?


 「不思議そうな顔をしていますね。特例というほど特例ではないのですが。

  今回選んだ人間はまだ人間界で生きています。時に、あなたは悪魔に魂を狙

  われる人間というのはどのような人物かわかりますか?」


 ナディアは無言で首を横に振る。


 「英雄的存在。つまりは歴史を変えるほどの人物の魂。このような人間は悪魔

  の標的になりやすい。

  そのような人間の意志を操って多くの人間を死に追いやり、魂を喰らう悪魔

  もいます。

  人間界で起きる戦争などはそのほとんどが、悪魔に心を奪われた人間が行っ

  ています。」


 「つまりは私がその人間の護衛に当たれ、ということですか?」


 ナディアは自信に満ち溢れた表情で言った。


 「珍しく物分かりがいいですね。その通りです。

  そのものはまだ人間にして齢17歳。生を終えるまでまだ時間はあります。

  が、その時間も天使にとっては瞬きをする時間のようなもの。

  このものを悪魔に魂を奪われぬよう、また真っ当な人間として生を終えるよ

  う、あなたが見届け選定をしなさい。」


 「その人間を天界へ送ることができれば、追放の件は無くなるんですね!?

  お安い御用です!それでは行って参ります!」


  ナディアは元気よく敬礼をして飛び立とうとする。


 「待ちなさい!あなたに一つ言っておくことがあります。

  当前のことですが、人間界ではその翼は見えなくすること!

  それと人間らしいふるまいを行い、異質な存在、すなわち天使だということ

  を絶対に気付かれぬこと!わかりましたね!?」


 任せてください!と話半分と聞かずにナディアは飛び立っていった。


 「まったく・・・本当に大丈夫でしょうか・・・」


   

  《 天界下層 - ヒスオル 》


 「ナディアー、本当に人間界にいっちゃうのー?」


 軽い感じで話しかけてきたのは、唯一といっていい私の親友セラ。

 私よりも少し背が高く、少し青みがかった美しい羽根を持っている。

 私の灰色がかった羽とは大違いだ。


 「まぁね!天使長からの特命とあれば引き受けないわけにはいかないでしょ!

  ・・・ってセラ、何で私が人間界に行くことを知っているの?」


 「天使長から聞いたの。ナディアを追放させる前にダメ元で仕事をお願した、

  って。何も聞かないで飛び出しちゃったから説明よろしく、って。」


 「えええええ!もう追放前提じゃん!ってダメ元って!しかも話は全部聞いて

  きたよ!?

  途中半寝だったけど大事なところは全部聞いたし!」


 「じゃあ質問するけど、人間界の、どこの、誰の、ところに行ってくるの?」


 ・・・あ~、しまったぁ、むしろそこが一番肝心なところだったぁ~、

 って何で私はそこを聞いてないんだ!

 ナディアは悔しそうに自分の髪の毛をくしゃくしゃにした。


 「はぁ、ナディアはおっちょこちょいを通り越してるからなぁ~、悪魔の浄化

  が得意だから自信満々で引き受けたんだろうけど・・・

  特定の人間が悪魔に標的にされることなんてめったに無いでしょ。

  これまで辿ってきた歴史を大きく変革してしまうような人間なんて今時どこ

  にもいないわよ。

  ・・・というより人間のことをもっとよく知りなさい、ってことで天使長様

  が適当に選んだ人間なんじゃないかな」


 う・・・すごく説得力がある。というか筋が通っている。


 「まぁ、天使長の考えなんて私たち下級天使にはわからないけどね」


 そう言うと、セラはナディアの額に手をあてる。


 「これがあなたが見届ける人間よ。名前はルナ、

  場所は・・・ずいぶんなとこね。“神に背いた国”として、人間界でも孤立し

  ているエミリア王国の人間だわ。

  まぁ人間たちがどんな名前をつけていようが、私たち天使にとっては大した

  問題じゃないんだけどね。」


 セラは話を続けた。


 「いい、人間界に行っても自分が天使、異質な存在だということを絶対にばら

  したり悟られたりしたら駄目よ?

  ばれたらその人間の記憶・記録を天使が消去することになる。

  ただ、その時あなたはドミニオン、もしくは天界の上層の連中に、天令に従

  って“存在”を消去されることになる。」


 う・・・うっかりやらかしてしまいそう。

 いかにもやれっていうフラグにも聞こえるし


 「わ、わかったわ!絶対に約束する!その子を無事天界に送天したら、また人

  間界のいい男探ししようね!」


 セラはクスっと笑い、約束ね、と告げ、ナディアは天界を後にした。


 こうして崖っぷち天使と、人間ルナ、との物語が幕を開けていくのであった。


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