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百一匹目のサル

 破れた手紙を胸にしまい込み、僕はグラウンドに立っていた。今日は最後の試合だ。





 《サル》という二つ名をつけられた僕は、野球部でピッチャーをしている。冴えない高校だったのだが、一つ上の先輩たちがとてもとても頑張ってくれたおかげで、決勝戦までのぼりつめていた。


 正直、僕にとっては想定外の事態だ。どうして甲子園球場に僕がいるのか――いや、マウンドに立たされているのか。


 ――やるしかないんだよな……。


 破れた手紙の入った胸元に手を当てて深呼吸。


 僕たちはここで運に見放されたのだ。


 ここまで順調に勝ち上がれたのは、たまたま強豪どうしが初戦でぶつかって疲弊していたからだし、相手チームが不祥事で試合に出られなくなるなどあって、とにかく運に恵まれた。


 だが、昨日食べた何かが悪くなっていたらしく、要のピッチャーが腹痛でダウン。他のメンバーも数人寝込んでしまった。


 これが最終試合。出ないわけにはいかないからと、僕ら二年生で動けるメンバーでスタメンを組んだのだ。


 僕が腹痛に襲われなかったのは、僕がとんでもない偏食家で、持参していたスナック菓子しか食べていなかったからだろう。他の生存メンバーだって、応援に来ていた家族や友人たちとたまたま外食していたとかで助かっただけ。


 ――まだ、完全に運に見放されたわけじゃないさ。


 視界の奥の空にはダブルレインボー。告って振られた今なら、素直に優勝を願える。


 僕は気合いを込めて、ボールを投げた。





 試合は白熱した。僕は最後まで投げ続け、ストライクを決めて優勝を手にした。

 本当に奇跡みたいだ。






 ……と思ったら夢だった、というわけではなく、現実らしい。


 一躍有名になってしまった僕は、様々な取材に答えることになった。目立ちたくない性分なのだが、こればかりは仕方がない。適当に面白おかしく答えていたら、マスコミ受けしてしまったらしく、僕というキャラクターが一人歩きしていった。





 で、これはなんですか。


 目の前には精巧に作られた僕のフィギュアがあった。不細工さも完全再現。


「立体印刷可能性ってやつですかね? オーケイを出してくれたら量産しますよ」


「出しても良いですけど……売れないと思いますが……」


 僕の二つ名を思い出して欲しい。つまり、そういう名前が似合う外見なのだ。


「え……そうですか? じゃあ、限定百体でいかがでしょう?」


「わかりました」





 そういうやりとりを経て世に出ていった《サル》フィギュア。瞬く間に売れてプレミアがついた。


 世の中はわからない。


 だが、もっと謎なのは、限定百体のはずなのに、百一体存在するらしいこと。


 実は百一体目は型のほうで、僕はそれを《百一匹目のサル》と呼んで、部屋に飾っている。


《了》

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