名は
ダンジョンを攻略した直後時刻は深夜近くに差し掛かり、夜空には十六夜の月と満天の星が綺麗に輝いている中で、容静は十六夜の所に向かっていた。
「十六夜っち」
「容静か、どうしたこんな時間に珍しいな」
容静の急なご登場にも動じず、十六夜は用件を聞く為に容静の方を向いた。しかし、容静から言われた用件はご登場時には動じなかった十六夜を確かに動揺させた。
「十六夜っち、一つ質問があるっす」
「何なりと」
「十六夜っちは、何で偽名を名乗ってるんすか」
此の問いに対して十六夜が最初に考えたのは、情報の出所だった。考えられるのは二つ。あいつに聞いたか或いは、だがあいつには話すなと言ってあるし、もう一つはもう······十六夜はいっその事聞き返した。
「質問に答えても良いが、何処で知った」
「十六夜っちがシロって狼との戦いが終わった後っす」
(それはつまり、あの時の狼。シロからの最後の問いか、聞かれてたとはな)
少し時間を遡る。
「······お前の名は」
「俺か俺は······」
あの時、シロは十六夜に名を聞いた。十六夜はシロの問いに対して答えていた、本当に小さな声で。
「······あの時、か。交信スキルの能力だな」
「ご名答っす。あの時俺っちは十六夜の意識がシロに向かっていた事に疑問を持ったっす。そこで、誰にも気ずかれないように交信スキルを使い、十六夜っちとシロっちが何の話しをしてるか探ったっす」
「けど、あの会話はシロが気ずかれないように細心の注意を払っていた。それにお前には記憶を読み取る力があったはずだが。」
(そう、あの時のシロは周囲に十分な注意をしていた。俺自身も警戒していた。なのになぜ、一つの心当たりはあるが。)
「実は、シロっちに頼んだんす。でも念には念を込めて俺っちは交信の能力を最低限にまで低くしたっす。音声にかかっていたロックはシロっちのおかげで何とか解除出来て会話の内容を、いや、十六夜っちの名前を知ったっす。記憶の能力は死んでいる生物からは出来なかったっす、楽をしたくてやったっすけどね」
事実、記憶の読み取りは検証不足だった事は否めない。容静は自分を含めて、皆と一緒にもう一度能力の検証をしようと思っていた。
「そうか、それで俺の名は」
自分の名を確信しているだろう容静に向けて問う。容静はその質問に対して一言一句違わずに言い切った。
「刻天終夜っち」
「確かに俺の名だ。だが容静、十六夜は偽名ではあるが、昔の知り合いが戯れに付けた名だ。あんまり貶してくれるなよ」
終夜がそう言うと、いきなり一人の人物が部屋に入って来た。
「ばれたんだね、十六夜の名が偽名だって事」
「流星。まぁな別に隠してた訳でもないが」
「なら何で僕に対して皆に名を言うな、何て言ったの」
そんな終夜と流星、二人が会話している様子を見ている容静には一つの疑問が浮かんだ。
「流星っちちょっと待ってっす。流星っちは十六夜っちの名前、終夜っちを知ってたんすか」
「うん、僕は終夜と四人の中で最初に会ったからね」
容静の質問に対してさらりと答える流星。加えて流星はさらに口を動かした。
「それに、終夜の名は天心も知らないしね。知っているのは僕を含めても十人にも満たないと思うよ」
「それほんとっすか流星っち」
容静は信じられなかった。赤の他人なら名前を知らないのも当然だが、自分達見たいな親友にも名を伏せていた事に。だが容静は事の他直ぐに頭を切り替え、ある疑問を口にした。
「なら終夜っちは何で名前を伏せていたんすか」
当然この疑問が生まれる。此については流星も知らなかった事。容静と流星の二人は静かに終夜の答えを待った。
二人の会話と質問を聞いていた終夜は隠すこともなく答えた。
「理由なんか無いぞ、言うなら成り行きに任せただけだ。事実、どっちでも良かったしな」
その解答を聞いた二人は、呆気に取られた顔をしていた。そして次の瞬間、終夜に向けて全力の一撃を繰り出した。
「津波」
「ブラックブレイク」
流星は何時も携帯している神星を抜き、自分が会得している中で最大の技を放ち、容静も自身の闇魔法の中で最大威力の魔法を放った。
流星の放った技は正に津波と思わせる程の高さの斬撃を放ち。
容静は自身の放った闇魔法を自分のスキル、範囲で小さく凝縮し。一つの球体を作り上げ終夜向かって放った。その魔法は小さいが無視出来ない程の存在感を出していた。
一つは数メートルにまで及ぶ斬撃、もう一つは異常な迄に圧縮された魔法。此の二つの攻撃は確実に終夜に向かって飛んでいった······




