夢で逢う人
「どうしていつもここに来てくれないの?私に来させるの?」そう僕はその少女に詰問される。
「ごめん、ごめん。でもいつも君のいる場所が分からないんだ。君は僕の居る場所がわかるんでしょ?だから来てよ。そうすれば会えるから」
「でも本当は簡単なことなの。あなたにとっとも私にとっても。だからたまにはあなたに来てほしいの」
そんな風にいつもの会話が始める。何を話したのかは秘密だ。ここには書けない。でも僕とその少女はいつも夢の中で会い、楽しい時間を過ごすのである。そうして夢から覚める、すると彼女のことは覚えていても夢の詳細は忘れている。そうしていつものように僕は会社に出勤する。僕は独身だ。だから一人暮らしをしているし、起こしてくれるのは目覚まし時計だけになる。そうしてまた夜になると僕は夢を見る。僕はまた同じ少女と会い話をし、デートをする。そうして現実よりもリアルなその夢の中の方が僕には現実らしく思われる。僕はいつも彼女と楽しい時間を過ごす。二人でショッピングにも遊園地にも行ける。喫茶店だってあるし映画館もある。そこでは、皆楽しそうに生き生きと暮らしている。時々僕はずっとこの世界で居れればいいのにと思ったりもする。でも現実にも僕はガールフレンドが居るのだ。そうして彼女と僕は時々会う。けれど、夢の中のその少女の方が僕は好きだ。可愛いし、僕のことをいつも心配してくれる。現実は汚い。利害関係があるし、収入のある男が女にもてる。だから、僕はいつも毎晩彼女に会うのを楽しみにしているのである。
そんな風に過ごすようになったのはいつごろからだろう?高校生のころには、僕はもう夢の中の彼女のことを知っていた。そうして八年以上、彼女と毎晩夢で会うのである。
「いつになったら私達、一緒に暮らせるかな?」そんなことを夢の少女は言う。彼女の瞳はブルーだ、そうしてハーフのような顔立ちをしている。僕は毎晩、彼女のその瞳に見つめられるのが好きなのだ。
「わからないよ。当分の間、僕は死ぬ気はないから。まだ生きていたいから。ごめんね。でも毎晩会えるよ」そんな言葉を言い、僕は彼女を慰める。でもある日、彼女はこう言った。
「もうお別れを言わなくてはいけないわ。色々あって。でも私に会ってもあなたに分かるように目印をつけておくから。私、また生まれてくるの。きっとあなたの近くに、私は肩のところに目印があるから。きっと私にもう一度会って」
「どこに生まれてくるの?」
「それは内緒。言ってはいけないことなの。じゃあ」そう言って彼女は消えた。そうしてそれから一か月が過ぎたころ、僕の彼女が僕にこう言ってきた。
「私、妊娠したみたい」
それからあわただしい僕達の結婚生活が始まった。そうして六か月ほどして、赤ちゃんが生まれた。女の子だった。僕は彼女の肩を見てみた。するとそこには、青い痣があった。
「かわいそうに。こんなところに痣があるなんて」そう彼女は言った。でも僕は答えなかった。夢の中の彼女は僕の元へ生まれて来たんだ。それを思うと僕は嬉しかった。
「名前をどうしようかね」そう僕は言った。
「そうね。可愛い赤ちゃんだわ。きっと美人になるわね」僕はその時、自分で書いていた小説のことを思い出した。その小説に恵という登場人物が出てくる。
「恵なんてどうかな?色々なことに恵まれるように」
「そう、恵かあ。そうする?」
そんなことで、彼女は僕と出会った。彼女は僕の子供だけれど、昔の恋人でもあるわけだ。この子と妻を守るため、仕事を頑張ろう。そんな思いで僕はその日の陽を見た。