強い風
結局昼頃まで10を超える露店を巡ったが成果は0に等しかった。というか紛れもなく0だ。
「兄様。お腹空きました」
ティリアのその一言で、昼食にすることになった。昼はアメリアさんの店はだいたい忙しいので、外で食べるようにお金を渡されている。本当、アメリアさんにはお世話になりっぱなしだ。
「何食べる?」
「今日はパンの気分ですね」
「オーケー。じゃあ、兄ちゃん良さげなサンドウィッチ屋さん見つけちゃうぞー!」
「そのノリうざいです。それと、確かにパンと言いましたがサンドウィッチとは一言も言ってないです」
嗚呼……妹が冷たい……。無理やりテンション上げた俺が恥ずかしい。
「まぁサンドウィッチなんですけどね」
「うああああ! 妹のツンが日に日に増していくよー! ていうかサンドウィッチならそれでいいじゃーん!」
「兄様兄様。私は野菜とフルーツ入ったやつ食べたいです」
しかし、やはりこう頼られ|(?)ると悪い気はしない訳で……うんマジ俺ちょろいわ。
「うーん……。サンドウィッチサンドウィッチ……。あ、あそこなんて良さげじゃないか!?」
「はい? どこですか?」
俺が指差した方をティリアもじっと目を凝らして眺める。そこには移動式の店があり、確かにサンドウィッチと書かれていた。
「可愛いお店ですね。兄様にしてはなかなか良いチョイスです」
「そりゃ何よりだ」
ティリアもお気に召したようなので、その店に近づいてみると、確かに店のポップや看板がいかにも女の子が好きそうな奴で、ティリアが可愛いと言ったのにも頷ける。
「お、なんかメニューもいっぱいあるな~。どれにする?」
「私はこの野菜ミックスサンドと、季節のフルーツサンドにします」
ティリアはこういう時には決めるのが早い。さっさとメニューを決めると、とてとてと歩いていってしまう。多分疲れたので近くで座って待ってるのだろう。
俺は溢れんばかりに肉が入った。肉肉スペシャルサンドにした"肉肉"と繰り返してるくらいだから相当すごいんだろう。俺はワクワクしながらカウンターに顔を出す。
「ヘイ。注文いいかい?」
「いらっしゃいませ~。ご注文どうぞ」
「野菜ミックスサンドと季節のフルーツサンド。それから肉肉スペシャルサンドを一つずつ」
「かしこまりました」
女性の店員さんが恭しく頭を下げると俺は金を出して、おつりをもらう。それから店員さんは「少々お待ちください」とお決まりの言葉を言った後に店内に引っ込む。
数分ほどすると、紙袋が手渡される。
「お待たせしました。野菜ミックス。季節のフルーツ。肉肉スペシャルを一つずつですね。ありがとうございましたー!」
紙袋を受け取った俺はかなり大きなスペースが設けられている中央までやってくる。真ん中には美しい噴水があり、勢いよく水を吹き出していた。
と、その噴水に見慣れた顔が。ていうか妹だけど。
ティリアは噴水を囲っている石段にちょこんと座っている。俺が駆け寄るとその瞬間。ぶわっと大きめの風が吹き、ティリアのフードが一時的にとはいえ、はずれ、素顔を晒してしまう。
俺は慌ててティリアの元へ行くと、フードを直してやろうと思うものの片手がサンドウィッチの紙袋で塞がれているので、ちょっと手つきが乱暴になってしまう。
と、やっぱりティリアはぷく。と頬を膨らませる。
「気をつけろ。お前は一度記憶を奪われているんだから」
「そんなことを言われても……こんなオンボロコートを着なければいけないのはやはり不服です」
俺はそんな妹様のご機嫌を取るように、紙袋から自分の分のサンドウィッチを取り出すと「ほら」と紙袋をティリアに渡した。
「……!」
つい数秒前までふくれっ面をしていたティリアだが、空腹には勝てないらしく、サンドウィッチの紙袋を渡された途端に瞳を輝かせる。最近、こいつはませてきて、大人ぶった言動になってきたが……こういう細かい所はまだまだ俺の妹だな、と思った。
「う~~ん! 美味しい! このサンドウィッチ美味しいですよ! 兄様!!」
ほら、可愛い妹だろ?
俺は「確かにうまそうだな」と返しつつ、自分の分の肉肉スペシャルにかぶりついた。
なるほど、確かに美味しい。
「……けぷ」
ティリアが満足げにげっぷをする。しかし次の瞬間はっ! とした表情をすると口元を抑えて「私じゃないですよ!」と言い訳をするんだから可愛い。
「さーて、午前中は露店を中心に回ったけど、午後は普通に店をグルグル回ってみるか」
「了解です」
と言いつつも、ティリアは「ふわぁぁ~~」と欠伸をする。そしてまたも「私じゃないですよ!」と言い訳する。いや、今のはさすがに無理があるぞ、妹よ。
石段から立ち上がると、また強い風が吹く。
「うおー……風強っ! フード、気をつけろよ」
「兄様に言われなくてもわかってます」
嫌々と言った様子でフードを深く被って顔を隠す。
そんな妹の様子を微笑ましく感じながらも、なんとなく……この強い風に嫌な予感を感じていた。