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non color  作者: ととり
色と出会いと
7/22

リアル(現実)にフラグは存在し得るか

何事だよ。





私は何故か教卓後ろの黒板に向き合いながら、板書のために伸ばした腕を見上げていた。

これってどういう状況なんだろう。気分は観覧席からいきなり舞台上に引き上げられた観客である。







名指しで指名された後、固まる私に追撃掛けたのは緑の「おぉいいな。委員長からの指名だ。柳瀬やってやれよー」というなんとも適当で決定的な一言。こいつ、教師の発言力っていうものを分かってやってんの?その時の私はおそらく相当凶悪な顔をしていたと思う。一瞬明らかに動揺してみせた緑がその証拠だ。誰も彼もがいい子ちゃんだと思うなよ?その凶悪に歪んだ顔のままで笑みを作っただけ私の社交性を褒めて欲しい。







隣であちゃーってふうな顔したオレンジと、何故か瞳を輝かせてらんらんとこちらを見つめる華浦ちゃんを視界の端に収めて、私は席を立ったのだった。事の元凶である相川くんとの間に火花が散る幻覚が見えたが、気のせいだろう。






















その後の進行は実にスムーズに進んだ。相川くんの進行は本当に淀みなくて、そしてところどころ若干押しが強くて(やるよね?とか決まりでいいかな。とか言うの怖い)その威圧に押されて、クラスメイトはみんな返事が「お、おう」状態である。








20分そこらできっちりと振り分けられた委員会所属一覧。自分の若干クセのある字で書かれた黒板をざっと見返して、提出用のプリントに書き写していく。日向が嘘偽り無く風紀委員に立候補した際にその不条理感に打ち震えながら書いた、そこだけ文字がゆがんでいる。なんだかな、このこれは違うんじゃない感。どうせ私限定の感情なんだろうけどさぁ。






休み時間を告げるチャイムとともにいつにない俊敏さで散っていったクラスメイト達を見送って、委員長こと相川くんと2人で書類作成。くっ、何故こんなことに。私だって本来なら自分は無関係とばかりに休み時間を過ごしていたはずなのに。






「柳瀬さん、そっち終わったかな」






ぐつぐつと頭のなかで煮える理不尽を抱えたままプリントを清書する私の手元を、相川くんが横から覗き込みながら尋ねてきた。







「うーん。こんな感じでいいのかな。私あんまりこういうのやったことないから、わかんないんだけど」







ぺらり、と書き終えたそれを持ち上げてはい、と渡す。視線を落とすその様子をぼんやりと眺めているとほんの2,3秒で目線が戻ってきて、ややつり目がちな目尻を緩めた視線と目が合う。速読かと思うほどの速度に目を見張って、あー、やっぱり目も赤いんだな。なんて今日一日で何度も襲われる違和感をなんとか飲み込んだ。多分、表情には出なかったと思うんだけれど、この感覚はどうしても慣れそうになかった。







「うん、大丈夫だよ。綺麗にまとまってる。ありがとう柳瀬さん。板書も早いし、所々滞ったときに話をまとめてくれて助かったよ。頼んで正解だったな」








そう言って、お手本のようにきれーな微笑みをくれた。歯を見せずに唇だけで笑む、って淑女っぽくない?中々高校生でそんな笑い方する人、居ないと思うの。いくら望まない立場に追い込んでくれた張本人とはいえ、お礼を無下に返すのもおかしな話だ。だから、多少困ったふうに情けなく下がる眉を自覚しつつも乾いた愛想笑いを返した。







「いえいえ、いきなりで驚いたけどお役に立てたようでよかったよ」






「すまなかったな、って思ってるよ。どうしても学級委員を希望する人は少ないから、多少強引に誘う形になってしまったし」






「いや……。」









誘う?っていうかすでに確定事項に近かったというか。彼、疑問符が、疑問符の体をなしていないのだ。

してみない?がするよね、に聞こえるというかね。なんとなく、人に指示を出すことに慣れた人特有の雰囲気を漂わせている気がする。有無を言わせず、ってやつ。







「でも相川くんは慣れてるって感じだよね。こんなに最初の委員決めが早く終わるとか、すごいよ」






「中学の時から何度か経験があるから。それに、先生方への心象も悪く無いだろうしね」






「なるほど。さすがだね」








本当に、さすがである。教師への心象まで計算して行動に含めるなんて、わざわざ考えたこともなかった。精々試験を落とさないようにひぃひぃ言うぐらいだ。ほーなんて素直に感心しているとまた、くす、と綺麗に相川くんがわらう。内情実は強引なのに、見た目は穏やかで落ちついた雰囲気で優等生然としているのだから、彼、結構性質が悪いんじゃないだろうか。







「慣れると思うよ。柳瀬さんは物事を俯瞰して見れる人のようだし。こういう立場も向いているんじゃないかな」






「あはは、それはないかな」







「そう?僕はいいパートナーを見つけられて幸運だな、って思っているんだけどね」






「ははは……」








パートナー?そんな外来語を日常会話で使う高校生が目の前に存在しているとは、なんとも恐ろしい世界なんだな、高校って。愛想笑いでひくつく口角を気合で押さえる私に向けて「それに、」と相川くんは続けた。







「僕は、どうも君の関心を得られているようだし。理由こそ検討のつけようがないけれど、これを利用しない手はないかなって、正直思ったんだ」










模範的な微笑みが恐ろしい。なに、その淀んだ発想。








「けれど、特別な好意を持たれているんじゃないってことは、柳瀬さんの様子を見ていたら分かった。だから不思議でね。何がそんなに君の興味を引いたんだろう。教えてくれないかな?気になるんだ」






こ、











こ、怖いよう!!!











これ全部、微笑みながら言われてるんだぜ?



脳内で赤いランプがくるくると回ってビービー警告音を発している。私は考えた。とっても考えた。何と返せば正解だ?なんで私が相川くんを警戒しているってわかったの?とかそんなこと、考えている余裕はなかった。そして馬鹿正直に、赤いからだよ!と答えて奇人扱いされることも避けたかった。脳裏に選択肢画面がよぎる。ゲーム脳発動である。

誤魔化す、逃げる、正直に答える、だ。











3番目はなし!2は今後に影響するし、解決にならない。1番!1で!

















「よくわかんないけど、気のせいじゃないかな。私中学まで一貫校にいたからさ、緊張しちゃって落ち着きなかったと思うんだよね。それでクラスの子達まじまじと見ちゃった…かも?とにかく、不快に思わせたならごめんねー」







「そう?」









うんうん、と私は頷いた。内心ばっくばくである。どうだ、正解?エフェクトとか、かかってくれたらわかりやすいのに!なんて混乱した頭で理不尽に悶えた。









「……まぁ、いいか。時間はあるし。柳瀬さん、半年間よろしくお願いするよ」












アウトー!はい、疑われてる訝しがられてるしかも不穏なこと言われてる!










「…こちらこそ、宜しくね」










フラグ、立ったんじゃね。








ゲーム脳なんて、ろくな事にならない。






















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