そういう病気だ
カラカラとマウスをスクロールして、目的のページをじっくり眺めていく。
病気だ!なんて騒ぐ前に情報収集しておこうという寸歩です。便利なインターネッツですね。
色覚異常、っていうのが有力な線かな、なんて安易に考えていたけれど、そんな考えはPCの万能さの前にいとも簡単に覆させられてしまった。まーそうなるよなぁ。
色覚異常、っていうのは当然その視界に映るもの全てに対して表れるものであって、特定の人や物だけがおかしいなんて曖昧な定義には当てはまらないわけで。
考え事をする時の癖で、髪をわしゃわしゃと掻き混ぜる。それを見て名探偵・・・?と突っ込んでくるのは我がお母様です。そんなのいまどきの若い子に言ってもわからないんだからね!
「そんなに考え込んじゃって、恋?恋の悩みなの?」
「ないない」
鼻で笑ってみせた私にがっくりと肩を落として母はリビングのソファーへととぼとぼ歩いて行く。何やらブツブツと聞こえるが、気のせいだろう。私だって好きでこんなダイニングテーブルを陣取っているわけじゃないのだ。ガラケー恨むべし。誕生日はスマホ。スマホを強請りまくってやる。
ぐでりと椅子の背もたれにもたれて、視線だけ室内を巡らせる。テーブルの木目の色調だって、かすかに見えるキッチンのシンクだって、天井から照らす照明の明かりや母が夢中のテレビに映る映像だって、何もおかしなところはない。違和感の感じようがないほどに普通なのだ。
それって、どういうことだろう。いや、どうもこうもないよね。わかってるけど認めたくない、ふぁんたじーな答えが一番正解に近いような気がするし、現状それ以上の答えは思いつきそうにない。
その証拠に、母だって普通だ。クォーターであるマイマザーはほとんど兄と同じ色彩だ。幾分日本人というには白い肌に、薄茶の髪と瞳の色。私みたいに青味がかってもいない。上手く日本に血が混ざった結果、言動も容姿も若々しい母は韓流にまだ(というと奥様方に怒られるのかしら)夢中である。べったべたのラブストーリーが面白いのだろうか。よくわかんないですね。
と、すると。やはり。
彼らだけが特別だということに、なるわけだけれども。少なくとも兄にはピンクが黒に見えていたわけでオレンジも白もツッコミがなかったわけで。
「うわぁぁぁぁぁぁ……」
頭を抱え込みたい衝動が襲ってきたので、それに身を委ねてテーブルに頭を突っ伏した。
入学式の次の日がお休みなんて~とか思っていてごめんなさい。とってもありがたいです。この混乱の中平常心保って行ける自信がありませんでした。けれどいくら先延ばしにしても現実というのは非情にも迫ってくるものなのだ、と高校生の私は身を持って実感させられたのだった。
「おっはよー」
「……おはよう?」
うん。オレンジだな。心のなかで小さな私がうんうんと頷いて同意してくれた。そりゃあ、入学式で隣の席なんですもの。クラス一緒でもおかしくないじゃんね?でも別に隣の席である必要はなくない?なにこれ陰謀渦巻いてるの?私これから策略と知謀の渦中に飛び込まなければいけないのかな。一体誰の術中に嵌っているのかは知らないが、冷静に考えて、これが一部の彼らだけに起こる現象なのだとすれば、どう見積もっても近づきたくない。お近づきになりたくありません。
入学式の後からランダムで席替えとか、そんな妙なレクリエーションいらないんですよ。この緑め…!
ホームルームのチャイムとともに、教師としては無駄なイケメンを振りまきながら教室に入ってきた緑を意図せず睨みつけていたようで、教室を見渡した緑とばっちり目線が合う。驚かれた。が、すぐに表情を取り繕っていまだ浮ついてざわめきに満ちる教室内に向かって「静かに-」と声を張り上げた。ふぅん、やるじゃん。とか言うべきだろうか、このシュチュエーション。
確実に自分が雑魚キャラになるフラグをぽい、と脇へ放って頬杖をつく。眉間によるシワが量産されているような気がするし、それはこのきゃっきゃした4月、新入生として人間関係を構築する上ではかなりよろしくない行動だって、わかっている。でもさぁ、これは。
私の席は、教室窓際から2列目一番後ろの中々のポジションで、教室内が良く見渡せた。
左端から赤いのと、白いのと…緑な担任と、隣のオレンジ。
「絶対仕組まれてるわ、これ…」
入学式で、見た限りだって精々10人も居なかった筈のこの奇抜な色をもつ彼らが、4人クラスに居ます。これが、偶然だと?ないわー。そんなのマークシート試験で、勘で100点取るぐらいないわー。
不機嫌丸出しでボソボソつぶやく私に、親しげオレンジが声をかけてくる。
「柳瀬さん、だよね。どうしたのー?なんか気になることでもあったとか?」
「……ううん、これから不安だなぁと思ってさ」
「おー仲間!やっぱり同中とかいないと結構寂しいよね」
「ソウダヨネー」
やばい、こいつ話の幅を広げるのがやたら上手い。この調子で私の高校生活はスタートを切ってしまうようである。
「俺、日向 晴登ね!よろしくねー」
「ア、 ハイ」
オレンジ、改め日向にぎくしゃくと笑みを返しながらモヤモヤとした胸に手を当てた。
私、とってもとっても先行き不安です。