表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
non color  作者: ととり
色と出会いと
14/22

巷で人気のGH 

金曜日、放課後。私は浮かれていた。その症状の原因は、金曜日ハイである。




翌日は休み!次の日も休み!。家帰ってー好きなだけ寝てーゲームでもしようかな?ネットもし放題だし、時間を気にする必要もない。今テンションを上げないでいつあげるの!ってやつだ。





うきうきと荷物を持って、席を立って……ゾクリと背筋を撫ぜる妙な空気に、私は勢い良く周囲を見渡した。







キュ、と床を滑る靴音。教室の喧騒の中に立ち消えてしまいそうな、そんな些細な音が耳に届いて、びくりと身をすくめた。1歩、また1歩。焦らすように私に近づくその人は、優雅に微笑んでいた。




「柳瀬さん、そろそろ行こうか」




目の前まで来て足を止めた、相川くんの一言に、私はピタリと固まった。





「え……あー。あぁ、そ、そうだね!行こうか」





にこり、と見惚れる笑みを残して教室の扉に向かう彼の背を追いながら、冷静な風を装ってみたけれど。や、やばい。完全に忘れてましたが、今日は生徒会との連絡会の日でした。























「生徒会長の城ヶ崎だ。年度の始めだからって気を抜いてねぇでしっかり俺について来いよ?」



「副会長の織部。足引っ張らないで居てくれればどうでもいいよ」



「会計の滝居 空渡と」「書記の滝居 海渡だよー!よろしくねっ」














嘘だろ?







私はその一連の流れを、ただ唖然と見ていることしか出来なかった。相当間抜けな表情になっていただろうが、そんなことは知ったことじゃあない。だって、生徒会長の俺様に、冷淡系副会長に、双子の会計と書記である。勘が良い人も悪い人も言いたいことは同じだと思う。だからぜひ、私に代表して言わせていただきたい。






これなんていう乙女ゲー?もしくは少女漫画?こんなテンプレ展開3次元にはねーよ!!







全力のつっこみを心のアルプス山頂から叫んでいた私の意識の外では、温和そうで背の高い、がっしりとした印象の先輩が「庶務の、賀川です。1年生も多いし、慣れないところは遠慮なく聞いてね」とほわっと自己紹介を終えていた。







ま、まぁいいんだ。別に生徒会役員が無駄にキャラが立っていようと。さも何かの攻略キャラっぽくても?私には全く関係のないことである。それにしても。







独特の存在感のある、生徒会役員の先輩方。生徒会長も、副会長も、双子もよっぽどそれらしい・・・・・のに、身にまとう色彩は至って普通だ。目のチカチカする鮮やかさのない、至って普通のそれなんだ。







どういうことなんだろうな。手元の配布資料を眺めている体で視線を落とした。




色鮮やかな彼らと、その他の人達と一体何が違う?そして、私が不可思議なあれこれに巻き込まれている理由は何だろう。





そもそも。この現象も、状況も。





本物なの?

















とんとん、と横並びの机を筋張った指が叩いた。小さな音。周りに気を使って、隣にいる私にぐらいしか聞こえない密やかな音。落とした声量が耳を打つ。






「柳瀬さん、顔色が優れないけど大丈夫?もし辛いようなら抜けさせてもらえるように言うよ」






赤い髪と瞳の、ありえない色彩をもつ彼が小さな音に気を取られた私に向けた顔を、心配気に歪めていた。




「ううん、大丈夫。慣れない場所だから緊張しちゃっただけ」





「……そう?無理はしないで」





ありがとう、と呟いてその言葉の持つ温度に口元が情けなく緩んだ。






暖かい言葉を人に向けられる彼らは、たしかにそこにいる。呼吸をして、言葉を話し、誰かを思いやることができる。なにも、怖がる必要なんて無いのだ。胸の上に手をおいて、深く息を吸い込んで、鼓動を落ち着かせた。





私は自分で選ぶことができる。なんでも、いつでも。




今はただ、そう信じることだけが救いなのだ。
























◇・◇・◇・◇・◇・◇・◇・◇・◇・◇・◇・◇・◇・◇・◇・◇・◇・



















「というわけで、1学期に行う監査は2回。6月と、後期への引き継ぎ前の9月だ。選挙に関しては1年坊達には関係ない。2年が中心で3年がサポートする形で関わることになる。ここまではいいか?……問題ないな。ところで、」





中央のモニター前に立ち、スライドを見せながら丁寧に説明を進めていた生徒会長の声が呆れたような吐息混じりの一言で途切れて、会議室に集まる生徒たちが不思議そうに目線を上げた。

はぁ、と前髪を掻き上げた会長は、固定されていたマイクを勢い良くもぎ取り、怒気の篭った声をある方向に向けて発した。






「いつまで寝てるつもりだ、そこの1年。俺の話は聞くに耐えないほどつまらないか?」






その剣呑な声音と視線の向く方に生徒たちの目が流れる。







……え?私?違う違う。すごく真剣に聞いてる。生徒会長の話、わかりやすいしさ。というよりも、そもそもこのシュチュエーションで眠気なんて起きっこないよね。










「おい、起きろ!そこの……1年8組 百束ひゃくそく 咲良さくら!!髪の長い女子生徒、そう、お前の横でぐーすか寝てるその女だ!」








座席表で名前を確認するためであろう、一瞬視線を落とした会長は、私の座席から通路を挟んだ斜め後ろ辺りを睨みつけた。その鋭さにつられて振り向いたそこには、いかにも気弱そうな線の細い男子生徒が蒼白な顔をしてあわあわと視線を彷徨わせている。…可哀想に。ただ巻き込まれただけだろうその様子に妙な同族意識を抱いてしまいそうになる。






哀れみを込めてそれを見守っていると、大勢の視線に気圧されたのか、生徒会長の怒気に当てられたのか、男子生徒は意を決したかのようにきっと隣の席を見つめ、腕を伸ばして何かを揺さぶるような動作をした。








ぱらり。机の端から鮮やかな色がこぼれ落ちる。桃色の、長い髪。






「んん~……ティエラデントロ国立考古公園はコロンビアにあるよぉ……。」





「なんで世界遺産!?百束さん、起きて、起きてよぉぉぉぉぉ…!」







何故、世界遺産。てか、瞬時に内容を理解できるあの男子生徒も何者なの、って突っ込みたい。突っ込みたいよ……!うずうずと迫る衝動を押さえ込みながら見つめたその先で、目をこすりながら眠たげに瞬いて、ゆっくりと体を起こしたのは、いつぞやの桃色巨乳美少女でした。





「ん~、地理の授業もう終わったのか。ふわぁー…」





「授業じゃないよ!ちゃんと起きてよぉぉぉぉしかも世界遺産の授業なんてしてないよ!じゃなくて、連絡会だよ。生徒会連絡会!」





「連絡、会…。あぁ、もう放課後だったっけ」






ぼんやりとした表情と視線をモニターに向けて、その女子生徒はふわぁ、と大きなあくびをかました。すばらしく図太い神経だ。感心を通り越して軽く引いてしまう。しかし、激おこな生徒会長にはその図太さは通用しなかった。





「いーい度胸だ、1年。お前、一切今までの説明、聞いていなかったな?」






ぴきりと青筋立てた会長の声に、眠たげな女子生徒はこてりと可愛らしく首を傾げてみせた。かと思えば、その桜色の唇は淀みなく言葉を紡ぐ。





「部活動監査は6月と9月。選挙管理は2年制を中心に前期の日程を組むので、私達一年生は参加する必要がないんですよね?」




「は……」




「資料にも書いてあった内容ですし、スライドの内容を参照させていただけば大体予測できます。なにか、問題がありましたか?」






モデルのように小作りの美しく整った顔で笑んでみせた彼女に、会長が言葉をつまらせた。な、なんか見た目を裏切る挑発的で、理論然とした口調なんですけど。そりゃあ俺様会長も固まるわ。





「……合っている。なるほどな?自分はそんな話を聞くまでもなく、理解できると。そういうことか。生意気な女だな。」





あ、はいはい。ここで多分、お決まりのセリフ、来るよ。ふん、とかって言って会長が笑って




「気に入った。お前、生徒会に入れ」



「……はぁ?」



「精々、その優秀な頭を有意義に使ってもらおうか」



「な、なんで私がそんなことを!」



「俺の決定は、絶対だ。お前に拒否権はねぇよ。」





椅子を倒して立ち上がったまま、全学年の学級委員からの視線を受けて、生徒会長と桃色少女は睨み合っている。








創作物のワンシーンのようなその光景を鑑賞しながら、どうでもいいけど、話進めるなり、終わるなりしてほしいなぁーとだらしなく頬杖つく私の隣で、相川くんが「すごい茶番だね」と笑い混じりに呟いた声が、とっても、怖かったです。






ありがち、テンプレ、創作物の中に入り込んでしまったような光景。それを冷めた目で見つめながら思う。





題名をつけるなら、今ネットで人気のあれでしょう。生徒会、俺様会長、個性派役員、美少女ときたらこれは。





巷で人気の逆ハーレム、開始。うわぁ、シャレにならない。
















評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ