間話2 (隣の席の彼)
とある日の休み時間。
「日向くんはさ」
「うん?なにー」
にこにこと人好きする笑顔。彼の持つ雰囲気がそうさせるのか、知り合ってから間もないのに話しかけやすい。目に痛いけど。
「結局なんで風紀委員会に入ろうと思ったの」
「あー、なんか楽しそうじゃない?」
「……そうかな」
規律とか規則とかそういうのが非常に似合わない、この陽気なオレンジである。
「だってさーこの学校の校則なんて緩っゆるでしょー?それこそあえて破ろうとするとかさ、故意じゃない違反なんて相当だってことでしょ。そんなことする奴見れるなんて、面白そうじゃない?」
「面白そう、ねぇ」
ただ単に物騒なことに巻き込まれる確率が増すだけな気がするよ。
「うんうん。俺、人と話すの好きだしー朝も割と強いから、挨拶運動とかぐらいなら何とかなる、ような気がする!」
「行事の時の警備とか見回りも風紀の仕事らしいけど」
「え、警備?」
「あれだよ、文化祭とか他校生とか外部の人招いたりするから、揉めることもたまーにあるとかないとか」
へぇーと目を丸くして頷き、何かを考えこむみたいに組んだ両腕をぐーっと伸ばして遠い目をしている。
「俺さ」
「ん?」
珍しく真面目なきりりとした表情に私は訝しんで体を引いた。逆に両腕を机について心もち上半身を前のめりにした日向くんは低い声で、言った。
「足は、速い方なんだ」
「逃げるの前提!?」
その無駄にシリアスな表情は何だったの。思わずツッコミをかましてしまった私に向けて、日向くんは顔を苦しげに歪めた。
「俺はっ…、弱いっ!」
だん!と机に拳を打ち付けて項垂れるそいつをシラけた目で見て、心でつぶやく。何言ってんだこいつ。
「日向くん、漫画読み過ぎじゃないの」
「えーそんなことないしー」
ぶーと口を尖らせて椅子の上で三角座りし始めた彼の服装を上から下へと眺めてみた。
「てか、君自身結構チャラいよね」
「えぇ!?俺、チャライの?」
「髪染めてピアスがんがん開けて、早速ブレザーの下にパーカーでカスタマイズしている人のどこがチャラくないのか、逆に聞きたいよ」
「ふつーだよ。柳瀬さん。これふつー!」
あはは!やっぱり真面目さんだねーとか言って楽しそうに笑うそれを見て、会ったこともない風紀委員の方々の今後の苦労を偲んでみた、とある日のこと。