間話(隣の席の彼女)
眠い。眠いでござる。
朝、教室なう。自席にぐてりと伸びたまま私は睡魔に身を委ねていた。
「夕ちゃんおはよぉ!」
「ぐふ」
どーんと背中に衝撃とともに柔らかくて重いものがのしかかってきて、私は呻いた。
「華浦ちゃんおはよ…」
「おはようおはようだよー!!」
「ちょっと退いていただけると助かるかな」
軽いからのしかかられても大して苦しくはない。だが動けぬ。ぐりぐりと大型犬のように背中に激しく頬擦りしてくるのは可愛らしいのですが。
「江南さん。柳瀬さん潰れてるから」
ふっと背中が軽くなると同時に、視界に制服のスラックスが割り込んでくる。よっこら、と体を起こせば華浦ちゃんを猫掴みした治田君がポーカーフェイスで佇んでいた。
「治田君おはよ」
「おはようございます。朝からこの珍獣が失礼しました」
「珍獣ってなによぉ。わたしは夕ちゃんと親交を深めてただけなんだからね!」
「親交なんて単語知ってたことに驚いた」
「智くんは、頭いいけど余計なことしか言えないからぁ~」
ふふん、と得意気に頬を吊り上げた華浦ちゃんを治田君は躊躇いなく ぺいっと横へ投げ捨てた。
たたん、と華麗なバックステップを踏んで体勢を立て直した彼女は両手を腰に当ててむくれている。
私は、思った。この子の身体能力は一体どうなっているんだろう。
「華浦ちゃんって……めちゃくちゃ運動神経いいよね。スポーツとかしてるの?」
「うん!小学校からバレーしてるよ!アタッカーだから結構力あるんだー」
なるほど。あのフットワークの軽さはそこからきているのか。
「柳瀬さん、勘違いしていると思うので訂正させて頂きたいのですが」
「うん?」
「こいつはバレーを始める前から、敵と見なした相手は叩きのめすタイプです。小学1年のときには高学年男子を泣かし、中学ではチャラくて気持ち悪いと不良グループに殴り込んだこともあります」
「……。」
「柳瀬さん」
「はい」
「油断は、しないでください」
どういう意味だ。