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可愛い年下の男の子

ゆきは夢を見ていた。


暗闇の中に立っていた。

そこにぽうっと光がいっぱい浮かび上がる。

しかし、その光を良く見ると、

死んでいる人の顔だった。

それが、暗闇の中に幾つも浮かび上がる。


ゆきは息苦しくなった。

自分の無力さに。

絶望した。


「ゆきちゃん、ゆきちゃん、大丈夫?」


ゆきは甘いアルトの声に起こされて、夢だったことに気付く。


そして、完全に目を覚ます。

ゆきの額の汗をタオルで拭う、誰かの存在にハッとした。


「うなされてた。悪い夢でも見たの?大丈夫だよ、僕がいるから」


見覚えのあるタレ目の男の子だ。ゆきよりは年下だろう。

年下の男の子は、ゆきの手を安心させるようにぎゅっと握る。


色素の薄い茶色っぽい髪はショートボブで、しかし、天然なのか、ふわふわとしている。髪と同じ色素の薄い眉の下にある瞳は、くっきりな二重まぶたでそして、少しタレ目だ。

まつ毛が長く、色白で、ピンク色の口唇は小さくてぽってりしている。顔だけみたら美少女だ。しかし、身体に無駄な肉はなく、ゆきよりも身長はおそらく高いであろう。手もゆきよりは大きいのだ。


“僕がつけた額の傷”


銀行強盗立てこもりの事件の後、彼は確実にこの言葉を言った。

ゆきのうっすら残っている額の傷の真相は、家族以外に言ったことはない。

つまり、彼があの時の子なのだ。


ゆきは、あまりない幼稚園の記憶の中で覚えていることを思い出そうとしていた。















ゆきが幼稚園の年中さんだった頃だった。

幼稚園に行くと、門のところで泣いている男の子を発見した。


「どうしたの?さみしいの?」


ゆきが聞くと、男の子は頷く。

ゆきは男の子の頭を、よちよちと撫でる。


「さみしいなら、ゆきちゃんとあそぼ」


そう言って、男の子はきょとんとしたが、頷いた。男の子の手を引っ張って、ゆきは砂場で遊んだ。


「ゆきちゃんはおひめさまなの。これがゆきちゃんのおしろ」


「・・・ぼくのおしろは?」


「それじゃあね、ゆきちゃんとともだちになったから、ゆきちゃんのおとなりにおしろをつくってあげる」


「じゃあ、ぼくはおうじさま?」


「あ!めいあんだ!そうだね。おとなりだからおうじさまだ」


泣き止んで顔を上げた男の子は、それはそれは可愛らしかった。

コップに砂をつめて、逆さにして、ゆきと男の子は砂の城をいっぱい作った。

そして、幼稚園の教室に入ってこないで遊んでいるゆきと男の子は、先生に怒られて泣いた。


それからというもの、ゆきと男の子は仲良くなった。ゆきの家は共働きで、男の子の家も何か事情があるのか、お迎えが遅かった。

そのため、居残り組で2人はよく一緒になったのだ。


その時間、二人はイチャイチャした。


「ゆきちゃん、ぼくのことすき?」


「だいーすき」


「え、ぼくのほうがもっともっとだいすき」


「ちがうよ、ゆきちゃんはそれよりもっともっともっとだいーすき」


「ぼくはもっともっともっと!」


2人は飛び跳ねて、どのくらい好きか身体中で表現した。


「ねぇ、ゆきちゃん、すきどおしはけっこんのちゅーをするんだって」


「じゃあ、けっこんのちゅーしなきゃね」


「うん!」


そうして、チュッとゆきと男の子はファーストキスをした。


2人の仲の良さは、ゆきが年長になってからも続いた。


ある日、居残りするのが飽きた2人は、先生に頼んで外で遊ぶことにした。


門に黒い車があるのをみつけた。

ゆきは、なんだろう、と砂遊びに夢中になっている男の子を残して見に行ったのだ。



そうしたら、誘拐されて、どこかの部屋につれていかれた。


目かくしをしていたゆきは状況がよくわからなかった上、その時の記憶は曖昧だ。


ただ、覚えているのは、怖かったということ、男達が「おい、違うぞ」と焦っていたこと、喧嘩していたこと、そして銃声、銃声が聞こえたら話し声も何も聞こえなくなったこと。


そして、ゆきは救出された。



しばらくして色々落ちついて、ゆきがまた幼稚園を通い始めた。

年下の男の子の姿を見なくなった。


しかし、外で遊んでいた時にようやく男の子を見つけた。一人でぽつんと砂遊びをしていた。


ゆきが話しかけると、男の子はゆきに目がけて、スコップで殴られた。彼がもっていたのは園児用のものではなくて、大人がつかう鉄のスコップ。

それを額に受けた。

先生の悲鳴があがり、駆け寄ってきた。


幼稚園の頃の記憶は、これで最後だ。


彼の力は弱かったらしく大事にはならなかった。今もこうして薄く残っているだけだ。




















「この傷、まだ残ってるんだね」


そう言って、額を見るために、ゆきの前髪を上げる男の子。

ゆきは、意識を現実に戻した。


「ねぇ、僕、今年で18歳なんだ」


「え?あ、そ、そうだよね」


男の子の考えが分からなくて戸惑うゆき。


「いつにする?」


「え?」


「忘れたの?結婚式だよ」


覚えている。しかし、冗談なのか本気なのか分からない。


「結婚の誓いのキスもしたでしょ」


「あ、あれは、子供の約束でしょ?」


「なにいってるの?ゆきちゃん」


何がおかしいのかクスクス笑う男の子。


「そ、それよりも何でいるの?」


「ん?くだらないパーティーがあってさ」


「そ、そうなんだ」


「うん。ゆきちゃんも来る?」


「遠慮しとくよ・・・。あそこの銀行にはなんでいたの?」


「うーん。なんでかな?」


可愛らしく首を傾ける、男の子。


「あえていうなら・・・下見ついでの旅かな。そんなことよりも、結婚式は、いつにしよっか?」


「なに、いってるの・・・。そもそも、この傷だって、嫌いだからしたんでしょ?」


「ゆきちゃんこそ、なにいってるの?大好きだからに決まってるのに」


当然のように笑って男の子にますます戸惑うゆき。



「おい!!!!!」


耳がキーンとするような怒鳴り声が聞こえた。ゆきの隣の席の挙動不審男だ。


「なに?うるさいなぁ」


可愛い顔を歪ませる男の子。


「そこは俺の席だ!!!!!とっとと消えろ!!!」


唾を飛ばし顔を真っ赤にしていう挙動不審男に、可愛い男の子は汚いものを見るような目つきで見る。


「本当にうるさいなぁ。ゆきちゃん、また迎えにくるからね」


そう言って去る男の子にほっと息をつくゆき。

ドカン!と音を立てて座る隣の席の男。

ギロッとゆきをさっきよりも血走った瞳で睨む。ゆきは身体をすくませた。


男は胸ポケットに手を突っ込んだままだった。
















彼は、だれも映さないような空虚な瞳で、自分の席に座った。しかし、先ほどの戸惑う可愛さを思い出して、瞳に光が宿り、笑みを浮かべた。




ゆきとの大切な思い出をふりかえる。



彼の父は仕事で忙しい人で、彼の母は社交で忙しい人だった。

そのため、生まれた時から構ってもらえなかった彼は、すごく内気だった。


幼稚園の車での送迎も一人だった。

いくら彼が泣いても、皆、彼を幼稚園の門に連れていくと、役目が終えたかのように去る。普通であれば、幼稚園の先生が注意をするはずだ。しかし、親が幼稚園に多額な金を寄付をしていたために、何か言うことはしなかったのだろう。


内気すぎるため、友達も出来なかった。


しかし、そんな彼に手を差し伸べる女の子が現れたのだ。

それがゆきである。


ゆきは彼を砂場に連れて行って、砂のお城を作った。ゆきは、自分がおひめさま、であることを彼に言った。


このこがおひめさまなら

じゃあ、ぼくはおうじさまになりたい


そう思った。

ゆきは彼をおうじさまとして受け入れた。


それからと言うもの、彼はゆきについて回った。


ゆきはおひめさまで、ぼくはおうじさま


幼稚園に行くのを泣かなくなった。

つまらない家よりも、ゆきに会っているほうが楽しかったからだ。


結婚の誓いのキスもした。

これで完璧にゆきは彼のものになった気でいた。



しかし、ある事件から、ゆきと離れることとなる。





ゆきが、彼と間違えられて誘拐されたのだ。


無事に救出された。


しかし、父にあることを言われる。


お前とずっと一緒にいたから攫われた

友達はお前のせいでこうなった

お前が友達を選ばないからこうなった

幼稚園はもっと防犯が整っているところにする

友達とお別れをしてこい



ゆきはともだちじゃなくて、ぼくのおひめさまだ


彼がそう言うと父は面白そうに笑った。


だったら、お前は大事なお姫様を守れなかったんだな。そんな奴は王子様じゃない。

そうだな、お前が、こんなひ弱じゃなかったら、お姫様を守れたかもな。

お姫様のそばを離れて、力をつけろ


彼は父親のその言葉に頷く。



だけど、ゆきがぼくのおひめさまってわからないと、ほかのおうじさまにとられる


父親は不敵に笑って言った。


なにか印をつけたらわかるぞ


幼い息子がどうするのか、試したかったようだった。





彼は幼稚園に別れの挨拶をしにいった。


砂場にいた。こうしていたら、ゆきがいつも来てくれる。


そして、来たゆきをスコップで殴った。




それからは、力をつけるために、様々なことを積極的に取り組んだ。

ゆきの王子様になるためだ。


小学生のゆき、中学生のゆき、高校生のゆき。


興信所に依頼して、ゆきの写真を撮らせて近況や、素行調査をした。

目障りな男がチラついていたが、ゆきが清いままだったので黙認した。


そして、色々な面で力を着実につけてきた彼は18歳になろうとしていた。あともう少しで手に入れることが出来る。


そのため、会いに行ったのだ。ゆきに。


そうしたら、銀行強盗立てこもりに巻き込まれた。


いつか写真で見た目障りな男達に、事件後に話しかけられるゆきを見て、気持ちが焦ったが、ゆきの額の傷をみて安心する。



そのまま逃げられたが、見逃すことにした。


だって、ゆきは彼のものなんだから心配はいらない。





しかし、悠長にしていても、奪われる可能性は高い。早く、法律的にも彼のものにしなければ。


ゆきのハジメテもオワリも全部、僕のものだ。


彼はーー年下の男の子は、ゆきの額の傷を思い出して、可愛らしく笑った。














ゆきは隣の男の尋常じゃない、その雰囲気に背筋が凍る。


隣の男は鼻息を荒く、興奮した様子で言う。


そして、胸ポケットから出した固いソレを、ゆきの胸に当てる。


「お、おとなしく、しろよ。間違って打ってしまうかも、しんねぇからな」



ゆきが何度かみたことがある


ーーーーー拳銃だった。


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