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いじめっ子ガキ大将

ゆきが窓を眺めていると、窓が反射して人影が映った。

その人影はゆきの隣に座る。


明らかに、あの挙動不審の男ではない。

大柄で目つきの悪い男がじっと、ゆきを見つめているのがわかる。

目を合わせちゃいけない、とゆきは景色を眺めるふりをする。


「おい。なに無視してんだよ、ゆき」


ばれていた。ゆきはゆっくり、声の方向に顔をむける。


いたのは想像していた人物だ。


銀行強盗立てこもり事件の後に話しかけてきた一人のヤンキーみたいに目つきが悪い年上らしき男だ。


茶髪をワックスでツンツンにたたせている。男らしい太めの眉の下の瞳は、大きいがつり目であるため睨んでいるようにみえる。鼻は高く、赤い唇は下唇が分厚い。

肩幅も広く、どこもかしこもがっちりしていて、身長も高いのだろうか、足も長い。


「なにみてんだよ」


嫌そうに眉をしかめる彼は、ヤンキーな女性にもてそうなイケメンだ。

そんな知り合いはゆきにはいなかったはずだ。しかし、一つだけ思いあたる節がある。



“うさぎみたいだな”

彼は銀行強盗立てこもり事件の後に、確かにこう言った。


その言葉をよく言っていたガキ大将についてゆきは思い出す。












ゆきは父の転勤で、小学2年生のときにある小学校に転校することとなった。


県庁所在地から、さほど離れてはいない場所なのに、とてつもなく田舎の場所だ。


見渡す限り、田んぼばかり。

老人が農作業をしている、そんな田舎。


ゆきが転校してきた小学校にいた子供の人数もそれはそれは少なかった。ゆきが転校したきた時は全校生徒は11人だった。

ゆきの同級生は一人しかいなかった。女の子だったため、すぐに打ち解けた。


しかし問題は一学年上の男子達だった。

小学3年生の彼らは4人いて、リーダーが存在していた。それがガキ大将である。

そのガキ大将に目をつけられたのが、ゆきの運のつきだった。(といってもまだまだゆきには不運がふりかかるが)


「お前、うさぎみたいだな」


そう言ったのが初めてのガキ大将の言葉。それからというもの、ガキ大将にいじめられた。そして、小学校にいる男子生徒全員にいじめられた。

同級生の友達になった女の子だけが、ゆきの味方だった。


見つかったら最後、一緒に行動させられて、連れ回されて、いじめられて、泣かされる。

こんな小学校生活だった。


ある日は、ガキ大将に連れられて、山の中に一人置き去りされた。

一人で怖かったゆきは、泣いてガキ大将の名前を呼んで助けを求めた。


彼はそんなゆきをどこかで見ていたのが、近寄ってきた。

ゆきはもう置いていかれたくなくて、縋り付くように彼をみて擦り寄った。


「お前、本当にうさぎみたいだな」


彼の満面の笑みをみて、ゆきは背筋が凍った。いつかテレビでみた、獲物を狙うライオンのような瞳をしていたからだ。



こんなふうにゆきをいじめてくるガキ大将だったが、ゆきは嫌いにはなれなかった。

彼が大変、母親思いの子と知っていたからだ。母子家庭であるガキ大将が母の手伝いをしている姿を何度も見かけたことがある。


しかし、そんな彼を許すことができない事件が起きた。


村八分を受けていた男が、ナイフを持って、ゆきと友達の女の子がいるクラスに侵入してきた。教師がいないときを狙っていたようだった。

教室の鍵をしめて、ゆき達を人質にして立てこもる。どうやら彼は村人に恨みがあり、村が大切にしている子供の命を脅かして自分は強い存在であるのだ、と村人に知らしめる為の犯行だったらしい。ゆき達にナイフをちらつかせて、脅す犯人に、ゆき達はおびえることしか出来なかった。



長い間の立てこもり(1日ほどたったのだろうか)で犯人は疲労を隠せなくなったのか、うたた寝をし始めた。

その隙にゆきはばれないように、犯人は今寝ている、とプリントに書いて、窓を静かに開けて紙飛行機にして飛ばした。



そして数分後に警察が乗り込み、ゆき達を救出、それをみた犯人は自害をして、事件の幕は閉じた。



ゆきは救出された際に、父親の姿を見た。ゆきは父親の腕に飛び込み、父親を呼びながら泣いた。

しばらくしてゆきが落ち着くと、ゆきを見ていたのだろうか、ガキ大将と目が合う。ゆきをにらんでいた。

ガキ大将はゆきに近づき、ゆきにしか聞こえない声で言った。


「死ねばよかったのに」


そう、言葉を残してガキ大将は小学校を卒業していった。

学ランを気崩した彼を見かけることはあっても、ゆきは関わらないように、逃げたり隠れたりした。


そしてゆきが中学生になる時期、また転勤が決まって引っ越したのだった。


こんな偶然があるものなのか、とゆきが考えていた時だった。











「おい、なにぼーっとしてんだよ。馬鹿がますます馬鹿にみえるぞ」


そうガキ大将に言われて、ゆきははっと現実に意識を戻した。


「な、なんでいるの?」


「いちゃ悪いのかよ」


「気になって・・・」


「仕事の出張だ。それよりも、お前なんで、俺に報告もなしに勝手に引っ越してんだよ。ゆきが後輩になるのを楽しみにしてたんだぜ」



どんな楽しみ方なんでしょうか、それは。なんてゆきは口が裂けて言えない。不機嫌になったら面倒だからだ。


「死んでほしいほど嫌いみたいだったから・・・」


「ああ?」


ガキ大将はイラついた様子を見せて、前の席を蹴った。

どうやら、言葉選びに失敗したようだ、とゆきは思う。


「そういえば、なんで、銀行にいたの?」


「ああ・・・。俺の職場の近くだからだ」


「え?地元離れたの?」


母親思いのガキ大将が地元を離れるのは想像が出来ないから驚いた。


「ババアが2年前にガンでぽっくり死んだんだよ。元々あそこにいる意味も特にねぇしな」


「おばさんが・・・そうだったんだ・・」


「そんな話はどうでもいいんだよ。お前、今どこに住んでるんだ?」


「え?なんで・・・?」


「なんでも糞もねぇよ。住んでるところ引っ越して、俺んちに来いよ」


「え?・・・え?」


戸惑うゆきに、ガキ大将は満面の笑みを見せた。山の中でみせたあの笑顔と全く一緒でゆきは背筋を凍らせる。


「お前、相変わらずうさぎみてぇだな」


「あの・・・」


「お、おい‼︎君っ!」


2人の会話に第3者の声が割って入った。

ゆきの隣の席の挙動不審男だ。


「あ?なんだよ?」


「そこは私の席なのだが!?」


顔を真っ赤にしていう挙動不審男を睨み、舌打ちをするガキ大将。


「ゆき、またな」


そう言って去るガキ大将にほっと息をつくゆき。挙動不審男がゆきの隣に、苛立ってるかのようにどかっと座る。


あの、すみませんでした、とゆきがガキ大将の代わりに謝ると、男はギロッと血走った瞳でゆきを睨む。

気まずくなったゆきは、誤魔化すように、本を読み始めた。















彼は苛立ちながら、自分の指定席に座った。7年ぶりにゆきと話せたのに、邪魔されたからだ。


しかし、と彼はゆきを思い出す。

あいつは変わらないな、と。


少し強くなったのかもしれないが、あの、うさぎのように彼を窺う瞳や、少し力を加えるだけで死んでしまいそうなか弱さは、小学校の頃と変わりない。




彼は母子家庭だった。父親は事故で死に、女手一つで母親に育ててもらった。

母は仕事に出ているため、彼はいつも家に帰ると一人だった。


彼はペットショップである生き物を目にした。しろくて、ちっこくて、かわいいうさぎだ。彼はどうしてもそのうさぎを飼いたかったが、母は金銭面を理由にだめだと言った。彼は諦めて、時々ペットショップに行ってはそのうさぎを眺めていた。しかし、ある日突然、うさぎはいなくなってしまった。誰かに買ったのだという。とられた、と彼は悔しがった。


なんとなくぽっかり、胸に穴が空いたようになってしまった彼は小学3年生になった。


そして、転校生のゆきと出会った。ゆきは村の女子小学校とは違う雰囲気を持つ子だった。村の女子は、山を駆けて川に飛びこび、肌は日に焼けて真っ黒で、男子顔負けの元気さを持っていた。しかし、ゆきは色が白くて、控えめに笑って存在しているような子だった。彼は思った。しろくて、ちっこくて、かわいいうさぎだ、と。


彼だけではない、ゆきの不思議な存在に男子生徒の気持ちは浮ついたようだった。

このままではとられてしまうんではないか。

そう思った彼は、ゆきをいじめることにした。男子は彼に従う。ゆきはいじめるものだ、と刷り込み、そうすることでいじめるとき以外はゆきに近付かないようにさせた。



ある日のこと、ゆきを一人山に置き去りしてみた。

どんな反応をするんだろうと、影から見ていた彼は小学校ながらにゆきのその姿に興奮した。


彼の名前を呼びながら、泣いている。

彼を求めているのだ。


泣いているゆきに近付くと、ゆきはすがりつくような瞳で彼に擦り寄ってきた。

彼は笑った。





そして彼がもうすぐ中学生になろうとしていた時。


ゆきのクラスにナイフを持った男が立てこもった。彼はゆきを助けに行こうと何度もしたが、警察に止められた。


彼はゆきの無事を知るために学校から片時も離れなかった。


そして、ゆき達は救出された。

ゆきの様子を近くで見ようと近付いた。


ゆきは父親らしき人物に抱きしめられて、父親を呼びながら、号泣していた。


彼は、とられた、と思った。

今、ゆきは彼じゃなくて父親を求めてる。


イライラした。ゆきを壊したくなった。

だから言ったのだ。


「死ねばよかったのに」と。


本心ではなかったが、それ以降、ゆきが避けているのが分かった。

捕まえようとしても、気配を消すのが上手なのか、逃げるのが上手なのか、捕まえることは出来なかった。



まぁ、今は急がなくてもいい。

ゆきは中学生として、自分の後輩になるのだから。

そう思って、悠長に構えていたら。

入学式にゆきがいなくて、衝撃を受けた。


ゆきの友達だった女に聞くと引っ越しをしたのだという。


完全に逃げられた。


追いかけたかったが、彼には一人の母親がいた。ゆきの友達だった女にゆきの近況を聞きながら、暮らす日々となった。


そして、彼が17歳の時に母親はガンで死んだ。



彼は一人になってしまった。


・・・一人?


いや、俺にはゆきがいる。


逃げてしまったが、あれは俺のものだ。


そう思った彼の行動は早かった。



彼はゆきの友達だった女に、ゆきの今の居場所を聞いた。

今年の春に、ゆきの通う大学がある町に就職した。


そして、ようやく、彼はゆきを見つけた。


偶然行った銀行で。


そして、銀行強盗立てこもり事件に巻き込まれた。




無事救出された彼は、警察の取り調べが終わり、ゆきを探していたら、男に話しかけられていた。


彼はイラつく気持ちを抑えて、ゆきに話しかける。

しかし、他の男たちもゆきに話しかけてきた。


ゆきは逃げた。


それから、彼はゆきを探していたが、見つけることは出来ずに、イライラしていたが、無事にまた再会を果たした。



だれかにとられる前に、今度こそ自分のものにしなければならない。

自分のものに出来たら、今までにないくらい甘やかしてやる。

そして絶対に逃げれないように子供も孕ませる、と彼は決めている。



彼はーーガキ大将は、彼の様子を窺うゆきの瞳を思い出しながら、不敵に笑った。


















ゆきは急に寒くなり、カーディガンを着る。

冷房の効きすぎだろう。


隣の男が、貧乏ゆすりをしているのが気になるゆき。

男は定期的に、胸ポケットの中に手を突っ込み、ほっとする仕草を見せる。

しかし、しばらくするとまた貧乏ゆすりをし始めて、胸ポケットの中に手を突っ込み、落ち着く。

この繰り返しをしている。


彼はまた立ち上がった。


またトイレなのだろうか?


彼は席から離れるのを横目で見て、ゆきはまた本を読みはじめる。








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