東京行きの新幹線の中で
日向ゆき18歳。
東京行きの新幹線で穏やかな気持ちで本を読んでいる。
銀行強盗たてこもり事件より3ヶ月経った。
大学生初めての夏休みである。
ゆきの実家は今は東京にある。
大学は実家から遠く離れた地方を選んだ。
何故か。東京の大学でも良かったのだが、人工密度が高いところだと、より事件に巻き込まれやすくなる。不幸体質のゆきは何処に居ても巻き込まれるが、用心するに越したことはない。
こうやって地方の大学を選んでも、4月に早速、銀行で巻き込まれたのである。引越しの手伝いに来ていた母と警察の協力の元、無事に救出されたのだが。
その銀行強盗たてこもり事件よりも、ゆきにとっては厄介な出来事があった。
迫りよる4人の男どもを思い出して、ゆきは ため息をつく。
幼稚園、小学校、中学校、高校とそれぞれ関わってきた、ゆきのトラウマともいえる、男性達だ。
持ち前の運の良さ(といっても、不運の中でしか発揮してくれない運の良さ)で、逃げきることができた。
そもそも、転勤族であったゆきは、幼・小・中・高とそれぞれ違う県で過ごしたのに、何故、地方の県に集中して出会うのかが疑問である。
しかし、その理由は知りたくない。知らないまま、暮らしたい。
実際、再会してから3ヶ月は、誰にも出会うことなく暮らせているので、ゆきには関係ない理由でそこにいただけかもしれない。
そこまで考えて、ゆきは考えるのを辞めて本に集中しようとした。
しかし、なかなか集中できない。
隣の男性の様子がおかしいのである。
息を荒くしており、目を充血させて、そわそわしている。そして、通路を通る人達を目で追っている。
時折、胸ポケットに手をつっこんで、そして、安心するような表情を見せている。
ずっとそわそわしているので、気になる。
そう思っていたら、男性が立ち上がり、何処かへ消えた。
トイレを我慢してたのだろうか。
そして、ゆきは本に集中する。